第二十一章 【神々のタローソン時給労働編】
【見栄と現実】港区系女神カグヤの降臨
アルクス城下町の中心に位置する、異世界唯一のコンビニエンスストア『タローソン』。
先日の「レモン早食い選手権」の狂熱が嘘のように、今日のタローソンは穏やかな、そして少しばかり気怠い午後の空気に包まれていた。
「……あー、クソ。また天井すり抜けやがった。私のなけなしの魔法石(課金石)が……。月人君のSSR、絶対排出率絞ってるでしょこれ……」
店舗の入り口付近に設けられたイートインスペース。
そこには、ピンク色の芋ジャージに100均の健康サンダルを突っ掛けた銀髪の美女が、机に突っ伏して恨み言をブツブツと呟いていた。
彼女のテーブルには、ストロング系の缶チューハイの空き缶が三本と、食べかけのイカソーメンが散乱している。
この世界の創造主たる『第3種 惑星創造神格公務員』、女神ルチアナ・アルセルラその人である。
「ルチアナ、イートインスペースでの長時間の飲酒とソシャゲの爆死報告は、他のお客さんの迷惑になるからやめてくれない?」
レジカウンターの中から、店長であり国王である佐藤太郎が、微糖の缶コーヒーを啜りながらジト目で注意した。
「うるさいわね! 今月のクレカの限度額がもう98万円までいってて、現実逃避でもしないとやってられないのよ! ヴァルキュリアに見つかったら、またバックヤードで5時間正座させられるんだから!」
「自業自得だろ。神様なんだから、もう少し計画的にお金を使えよ」
太郎がため息をついた、その時である。
『ブォォォォォォォンッ!! キキィィィィッ!!』
タローソンの自動ドアの向こう側――店舗の真正面の駐車スペースに、けたたましい排気音(魔力駆動音)を響かせながら、一台の真っ赤な超高級魔導オープンカーが乱暴に横付けされた。
「……なんだ? また面倒な客か?」
太郎が顔をしかめて外を見る。
オープンカーのガルウィングドアが跳ね上がり、中から一人の女性が降り立った。
艶やかな黒髪のロングヘアー。年齢は永遠の17歳(自称)。
その身を包んでいるのは、異世界の超高級ハイブランド『ルイ・ルナ』の最新作である漆黒のドレスに、『シャネリア』のジャケット。腕には限定物の魔導高級腕時計がギラギラと光り、片手にはクロコダイル皮の高級バッグが握られている。
極めつけは、彼女の頭上に浮かぶ神の証たる『光輪』だ。本来なら神聖な光を放つはずのそれは、ドワーフの高級宝石商に特注したと思われる大粒のダイヤモンドが隙間なく散りばめられており、太陽の光を反射して下品なほどにギラギラと輝いていた。
「……うわぁ。いかにも『港区(高級歓楽街)でブイブイ言わせてる成金』って感じの女が来たな」
太郎が率直な感想を漏らす。
しかし、その成金女を見た瞬間、イートインで管を巻いていたルチアナの顔色が一変した。
「な、なんであいつがこんな所に……!?」
ルチアナが慌ててイカソーメンを隠そうとするが、時すでに遅し。
カランコロン、とタローソンの入店チャイムを鳴らし、その女――月の世界の女神、カグヤが堂々たる足取りで店内へと足を踏み入れた。
カグヤは頭に乗せていた高級サングラスをスッと外し、イートインスペースで固まっているルチアナを見つけると、これ以上ないほど優越感に満ちた、嫌味な笑顔(営業スマイル)を浮かべた。
「オホホホホ! まぁまぁ、こんな下界の薄暗いお店の隅っこで、誰かと思えばルチアナちゃんじゃありませんの♡」
「カ、カグヤ……っ! あんた、何しに来たのよ!」
ルチアナが立ち上がり、犬のように威嚇する。
世界神の同格であり、表向きは仲良し、裏垢では互いに罵詈雑言をぶつけ合う永遠のライバル。
カグヤは、ルチアナのピンク色の芋ジャージと健康サンダルを上から下までジロジロと舐め回すように見つめた。
「相変わらず、素晴らしいファッションセンスですわね。その芋のような色のジャージに、安っぽいサンダル。そしてお昼からお酒を煽って、一人でソシャゲのガチャにキレている……。ふふっ、哀れすぎて涙が出てきますわ♡ クレカの限度額、またカツカツなんでしょう?」
「キィィィィッ!! あんた、わざわざそれを言いに来たの!? 私の裏垢のポスト(呟き)を監視してるでしょ!!」
「あら、人聞きの悪い。私はただ、ドライブの途中で可哀想な同僚を見かけたから、声をかけてあげただけですわよ? 私なんて、先月の『俺様執事』の配信がバズりすぎて、天界からのボーナスがブラックカードに振り込まれすぎて困っているところなのに♡」
カグヤが勝ち誇ったように、クロコダイルの高級バッグを見せびらかす。
(……ほう)
レジの中からその様子を静かに観察していた太郎の眼が、元コンビニアルバイター(現・国王)特有の、鋭い観察眼へと切り替わった。
(あの真っ赤な魔導オープンカー。よく見りゃ、ナンバープレートの端っこに小さく『わ(レンタカーの証)』って書いてあるな。それに、あの見せびらかしてるクロコダイルのバッグ……。底の金具のところに、ゴルド質店の『査定済み・Bランク』のタグが挟まったままになってるぞ)
太郎は瞬時に全てを悟った。
(なるほど。コイツ、信者からの献上品を質屋にぶち込んで現金化して、その金で見栄を張ってるだけの『見掛け倒しの自転車操業』か。ルチアナのクレカ限度額カツカツと、根っこはどっこいどっこいだな)
太郎が呆れ果てて息を吐いていると、マウントを取り終えて満足したカグヤが、レジの方へと優雅に歩み寄ってきた。
「そこの店長さん。私、世界神のカグヤと申しますわ。ルチアナちゃんがいつもお世話になっているみたいですわね」
「あぁ、どうも。いらっしゃいませ」
太郎が適当に頭を下げる。
カグヤはパンッ! と指を鳴らし、VIPルームで黒服にオーダーをするような横柄な態度で言った。
「今日は気分が良いから、私が奢ってあげますわ。ルチアナちゃんがいつも飲んでいるような安酒ではなくて……この店にある、最高級のワインを空けてちょうだい! ドンッとね!」
「なっ……! あんた、私を哀れんで施しをするっていうの!? 冗談じゃないわ、誰がそんなもの……っ!」
ルチアナが顔を真っ赤にして怒鳴るが、カグヤは「いいからいいから♡ 貧乏神様には、たまには贅沢させてあげないと♡」と余裕の態度を崩さない。
太郎は、カグヤの注文を聞いて、ピタリと動きを止めた。
最高級のワイン。
太郎のユニークスキル【100円ショップ】で出せる品物に、数万円もするような高級ヴィンテージワインは存在しない。
だが、このタローソンには、ゴルド商会から仕入れた『貴族用の贈答品ワイン』が、一本だけ見栄え用として棚の奥に置かれている。お値段、しめて金貨10枚(10万円)。
「……最高級のワイン、ですね。かしこまりました。すぐにお持ちしますよ」
太郎は、極めて人当たりの良い、完璧な『接客スマイル』を浮かべた。
ルチアナが「ちょっと太郎! あんたまであいつの味方をする気!?」と抗議するが、太郎はそれを目で制した。
太郎の視線は、カグヤが乗ってきた、店のド正面に横付けされている真っ赤なレンタカーに向いていた。
タローソンの入り口の真横。そこには、赤と黄色の警告色で塗られた小さな立て看板が設置されている。
『※当店の正面スペースは、緊急車両および搬入トラック専用です。一般車両の無断駐車・長時間の占有は、罰金として【1時間につき金貨10枚(10万円)】を申し受けます――タローソン店長』
(フッ……。見栄っ張りの神様が、看板の注意書きなんて細かい文字を読むわけがないよな)
太郎は心の中で、邪悪な笑い声を上げた。
(奢りだなんだとデカい顔をしてマウントを取っているが……この後、ワイン代10万と、超絶ボッタクリ駐車料金10万、合わせて『20万円』の請求書を見た時、お前のその質屋通いの財布がどうなるか……見物だね)
「さぁ、どうぞお客様。当店が誇る、最高級の赤ワインでございます。ごゆっくり、おくつろぎくださいませ」
太郎は恭しく、一本10万円のワインとグラスをテーブルへと運んだ。
「オホホホ! さすが店長さん、わかっていますわね! さぁルチアナちゃん、貧乏くさいチューハイなんて捨てて、神の美酒に酔いしれましょう♡」
「キィィィッ! 飲んでやるわよ! あんたの金で、店中の酒を全部飲み尽くしてやるんだからァッ!」
いがみ合いながらも、ワイングラスを傾け始める二人の駄女神たち。
その横で、バックヤードから出てきたピンク色の芋ジャージ姿のもう一人の少女――リーザが、ワインの匂いを嗅ぎつけて「おこぼれ、もらえませんこと!?」と目を輝かせながら接近してきている。
見栄と現実が交錯するタローソンのイートインスペース。
ここから、神々の威厳が音を立てて崩れ去る、泥沼の時給労働へのカウントダウンが静かに始まろうとしていた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「カグヤの登場でまたカオスになりそう!」「太郎のボッタクリ駐車料金、エグすぎるww」「リーザが絶対何かやらかす!」と少しでも楽しんでいただけましたら、
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【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価していただけると、執筆のモチベーションが爆上がりします!(作者が泣いて喜びます!)
次回、第52話『【底辺の共鳴】督促状と茹で卵、そして驚愕の駐車料金』!
泥酔したカグヤの財布にリーザが手を伸ばし……予想外の感動(?)と絶望のお会計が待ち受ける!?
引き続き、太郎国のドタバタ日常コメディをお楽しみください!
応援よろしくお願いいたします!




