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アパート二階にトラックが降ってきて転生!ハズレスキル『100円ショップ』の日用品チートで建国王へ成り上がる   作者: 月神世一


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EP 9

【限界突破】笑顔のフィニッシュと、意外な結末

「これで……私の、勝ちですわぁぁぁぁっ!!」

リーザが最後の一口分となった特大メガレモンの欠片を、口の中に放り込もうとした、まさにその瞬間であった。

限界を超え続けていた彼女の肉体に、最後にして最大のストライキ(異変)が襲いかかった。

「……ッ!? が、は……ッ!」

ピタリ、とリーザの動きが止まる。

致死量のクエン酸と、果皮の強烈な苦味を浴び続けた胃袋が、完全に容量の限界を超え、猛烈な痙攣を起こして『内容物の逆流』を試み始めたのだ。

食道をせり上がってくる、酸っぱい地獄のマグマ。

(だめ……っ! ここで、吐き出してしまったら……失格に、なってしまいますわ……!)

リーザの視界がチカチカと明滅し、膝がガクガクと震え始める。

強欲だけで支えてきた精神力も、もはや限界に達しようとしていた。

『ごめんなさいねぇ、リーザちゃん。今日のパンの耳はもう売り切れなのよ』

『クルックー(ここは俺たちの縄張りだ、新入りはすっこんでろ)』

『お家賃の滞納は、これで三ヶ月目ですわよ?』

薄れゆく意識の中で、リーザの脳裏を過酷な日常の記憶が走馬灯のように駆け巡る。

(……このままじゃ、明日も……私は……。また、あの惨めな生活に……)

ポロリ、と。

彼女の手から、最後の一欠片がこぼれ落ちそうになった。

「負けるなァァァッ! パンの耳アイドォォォォルッ!!」

「気合いだ! 根性見せろォォッ!!」

その時、コロシアムを揺るがすほどの十万人の大歓声が、リーザの鼓膜を力強く震わせた。

それは、魔法でも闘気でもない。どん底から這い上がろうとする少女の姿に心を打たれた、名もなき市民たちからの純粋な『応援エール』であった。

(……そうですわ。私は、一人じゃありませんの)

リーザの瞳に、再び強烈な光が灯った。

彼女のユニークスキル【貧乏神】の真骨頂である『悪運と逆境への耐性MAX』が、周囲の声援(という名の無形のスパチャ)を受けて、限界を超えた覚醒を引き起こす。

(私はアイドル! ファンからの愛(声援)がある限り……そして、目の前に金貨100万枚がぶら下がっている限り!! 私の胃袋は、ブラックホールをも凌駕しますわァァァァァッ!!)

「んぐおおおおおおおおっ!!」

リーザは落下しそうになった最後の一欠片を空中でガシッと掴み取ると、逆流してくる胃酸を『ド根性』という名の見えない壁で無理やり押し返し、メガレモンの欠片を口に放り込んだ。

『ガリッ! シャクシャクシャクッ!!』

もはや味など関係ない。ただひたすらに顎を動かし、噛み砕き、そして。

「ごっ……くんっ!!」

大きく喉仏を鳴らして、最後の一欠片を胃袋の底へと流し込んだ。

シンッ、と。

コロシアムが、一瞬の静寂に包まれた。

リーザは空っぽになった両手を広げ、大きく息を吸い込むと、アルクスの空に向かって絶叫した。

「完食……ですわぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」

ワァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!

ドォォォォォォォォンッ!!

次の瞬間、コロシアムの空気が爆発したかのような、割れんばかりの大歓声と拍手が巻き起こった。

「やった! やりやがったぞあの娘!!」

「すげぇ! 最強の嫁たちを抑えて、完全勝利だぁぁっ!!」

「感動したッ! 俺の五円玉、全部持っていけぇぇぇ!!」

観客席から、もはや小銭だけでなく、お札(ルナミス紙幣)や、謎の野菜、さらには着ていた上着までもが、興奮のあまりステージに向かって投げ込まれる。

コロシアムの砂上は、ド底辺アイドル・リーザの偉大なる勝利を称える、狂乱のるつぼと化していた。

「勝負、ありっ!!」

実況席の太郎が、満足げな笑顔を浮かべてメガホンで宣言した。

「激闘の末、特大メガレモンを見事完食し、栄えある『第1回 太郎国レモン早食い選手権』の優勝に輝いたのは……リーザ・シーラン・リヴァイアサン選手だァァァッ!!」

「やりましたわ……っ! ついに、やりましたわぁぁぁっ!!」

リーザは涙と鼻水、そしてレモンの果汁で顔をぐしゃぐしゃにしながら、天に向かって両手でVサイン(ガッツポーズ)を突き上げた。

足元に倒れている剣聖ライザの姿など、もはや彼女の目には入っていない。

(これで……これで、私のド底辺生活も終わりですわ! 金貨100万枚(100億円)! そして太郎様の願いを叶える権利!! ふふふ、まずは自分専用の黄金のステージを建てて、毎日特上ステーキを食べて……あぁ、夢が広がりますわぁ〜っ♡)

勝利の余韻と、これから訪れるであろう超絶セレブ生活の妄想に浸り、リーザが恍惚とした表情を浮かべていると。

「いやー、見事だったよリーザ。まさかお前が優勝するとはね」

実況席から降りてきた太郎が、首のタオルで汗を拭きながら近づいてきた。

「て、店長……っ! いえ、太郎様っ! ありがとうございますの!」

リーザは太郎の前に歩み寄り、揉み手でペコペコと頭を下げながら、これ以上ないほど強欲な笑顔を浮かべた。

「さぁさぁ! 早く! 優勝賞品の『金貨100万枚』を! もちろん、現金キャッシュで! 一括払いでお願いしますわ!! あ、袋は自前で持ってますの!」

リーザが芋ジャージのポケットから、シワシワになったルナミスマートのレジ袋(特大サイズ)を取り出して広げる。

太郎はそのレジ袋を見て、クスッと笑った。

「あー……。ごめんリーザ。言い忘れてたんだけどさ」

「へ? 言い忘れてた?」

太郎はポケットから自分のスマートフォン(魔導通信端末)を取り出しながら、極めて爽やかに、そして無慈悲に宣告した。

「今回の優勝賞金『金貨100万枚』ってさ、現金キャッシュじゃなくて、『ルナミスデパート専用のお買い物ポイント』で付与する決まりになってるんだよね。ほら、大会のポスターの右下にちっちゃーく書いてあるだろ?」

「…………は?」

リーザの笑顔が、ピシッと固まった。

「ぽ、ポイント……? 100おくえん分の、ポイント……?」

「そうそう。今、リーザのスマホの決済アプリ(QRコード)に、100万ゴールド分のポイントをチャージしといたから。確認してみてよ」

リーザは震える手で、自分の画面の割れた中古のスマホを取り出し、アプリを開いた。

そこには確かに、『残高:1,000,000,000 pt』という目も眩むようなゼロの羅列が表示されている。

「や、やった……! ポイントとはいえ、これでデパートのものが買い放題……!」

リーザが少しだけ安堵の息を吐きかけた、その時である。

「あ、それともう一つ、大事なこと言い忘れてたわ」

太郎が、頭を掻きながらサラッと言い放った。

「そのポイントなんだけどさ。協賛のルナミスデパートの意向で『期間限定キャンペーンポイント』になっててね。今日の23時59分までに使い切らないと、全部失効してゼロになっちゃうんだわ。いやー、事前に言うのすっかり忘れててごめんごめん」

「…………えっ?」

リーザの思考が、完全に停止した。

現在の時刻は、夕方の17時。

ルナミスデパートの閉店時間は20時である(夜間は一部レストラン街しか開いていない)。

つまり、残りたった数時間で、金貨100万枚(100億円)分のポイントを、デパートの買い物だけで使い切らなければならないということだ。

「きょ、今日中……? 100おくえんを……デパートで……?」

「そうそう。ルナミスデパートの全フロアを買い占めても、100億円分使い切るのは結構キツいかもしれないね。ま、頑張ってよ」

太郎が爽やかな笑顔でサムズアップを決める。

その瞬間、リーザの心の中で、苦労して積み上げてきた黄金の城が、ガラガラと音を立てて崩れ去った。

「げ、現金じゃないんですのォォォォォォォォォッ!!? しかも今日で失効ぉぉぉ!?」

コロシアムに、本日一番の悲鳴が響き渡った。

「そ、そうだ! 太郎様! 優勝者の特権『願いを一つ叶える権利』がありますわ!!」

リーザは藁にもすがる思いで、太郎の足首にガシッとすがりついた。

「私のお願いはただ一つ! このポイントを、今すぐ全額現金キャッシュに換金してくださいませぇぇぇぇっ!!」

しかし、太郎は冷酷に首を横に振った。

「あー、ごめん。デパートのポイント利用規約第4条に『いかなる理由があろうとも、ポイントの現金化は固く禁ずる』って書いてあるんだわ。国王の僕でも、民間企業のコンプライアンス(規約)は捻じ曲げられないんだよね。残念だけど、その願いは叶えられないな」

「コ、コンプライアンスゥゥゥゥッ!?」

現金化不可。期限は今日まで。

限界まで胃酸を逆流させ、最強の嫁たちを打ち破り、血と涙を流して手に入れた100億円が、ただの『焦燥感の塊(時限爆弾)』にすり替わった瞬間であった。

「……あ、あぁ……。私の、私の現金が……」

リーザは真っ白に燃え尽き、魂の抜けたような目で虚空を見つめた。

「ほら、リーザ。ボーッとしてる暇はないぞ。ルナミスデパートの閉店まで、あと三時間しかないからな。急がないと100億円がパアだぞ」

太郎の無慈悲なカウントダウンが、リーザの耳を打つ。

「ハッ……!? そ、そうですわ! 絶望している暇はありませんわ! 急いで、急いでデパートに行って、高価な宝石や貴金属を買い漁りまくらなければァァァッ!!」

リーザは泥だらけの芋ジャージのまま、最後の力を振り絞って立ち上がった。

「どきなさい! 道を開けなさい! 100億円の爆買いツアーの始まりですわぁぁぁぁっ!!」

『第1回 太郎国レモン早食い選手権』の優勝者は、栄光の余韻に浸る間もなく、血走った目でコロシアムの出口へと猛ダッシュで消えていった。

残されたコロシアムには、倒れた妻たちと、状況がよく分かっていない観客たち、そして、この最高の茶番劇を心から楽しんでいる太郎の笑い声だけが響いていた。

かくして、壮絶なレモン喰いデスマッチは幕を閉じた。

しかし、このバカバカしくも熱い祭りの最後には、太郎国らしい『温かい日常のオチ』が待っている。

リーザのポイント大作戦の結末と、仲間たちの打ち上げの宴が始まる。

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