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アパート二階にトラックが降ってきて転生!ハズレスキル『100円ショップ』の日用品チートで建国王へ成り上がる   作者: 月神世一


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第二十章 第1回 太郎国レモン早食い選手権編

【退屈な王】酸っぱい果実と、新たなる祭りの幕開け

「……あ〜。暇だな〜」

アルクス城下町の中心に鎮座する、青と白の縞模様が眩しい異世界初のコンビニエンスストア『タローソン』。

そのレジカウンターで頬杖をつきながら、店長であり、この広大な太郎国の国王でもある佐藤太郎は、心底退屈そうな長いため息を吐き出した。

太郎国は現在、かつてないほどの平和と繁栄を謳歌していた。

魔法と現代科学(主に太郎の100均スキルと知識)が融合したインフラは完璧に機能し、魔導戦車や魔導対空魔砲による防衛網は他国の追随を許さない。最強の騎士団と魔法兵団が睨みを利かせているため、魔獣の被害も激減。

さらには、神々や魔王といった本来なら世界を揺るがす規格外の存在たちでさえ、タローソンのパチンコやファミレス(ルナキン)に入り浸り、すっかり牙を抜かれて日常を満喫している始末である。

国王としては喜ばしいことこの上ないのだが、日本で深夜のバラエティ番組を見て育った生粋の『現代人』である太郎にとって、この起伏のない完璧な日常は、少々刺激が足りなかった。

「平和なのは良いことなんだけどさ……こう、国全体がワッ!と盛り上がるような、太郎国に新しいイベントが欲しいよな」

太郎が100均の微糖缶コーヒーを啜りながらボヤくと、レジ横で新作の魔法薬ポーションの検品をしていた第一夫人・サリーが小首を傾げた。

「イベントですか? 旦那様。お祭りなら、先月の『秋の大収穫祭』で盛大にやったばかりではありませんか」

「いや、ああいう真面目な豊穣祈願とかじゃなくてさ。もっとこう……くだらなくて、理不尽で、誰もが腹を抱えて笑えるようなバラエティ的なイベントだよ」

「くだらないバラエティ……ですか」

バックヤードから、タローソンの制服エプロンを着た第二夫人・ライザが、段ボール箱を軽々と抱えて現れた。彼女は世界最強の剣士であるが、今は立派なコンビニの副店長である。

「旦那様、何か具体的な案は有るんですか? もし血湧き肉躍る闘いをご所望であれば、私が直ちに騎士団を動員して『第一回・太郎国天下一武闘会デスマッチ』を開催いたしますが。優勝者には私の竜殺しの魔刀との立ち合いの権利を与えましょう」

「絶対ダメ。死人が出るし、街が更地になるから却下。もっと平和で、でも参加者が必死になるような……」

太郎が腕を組んで天井を仰ぎ、うんうんと唸っていると。

「……あむっ、モグモグ……。ふふふ、今日のタローソンの『廃棄弁当(特盛り唐揚げ)』も、最高にジャンクな味がして美味しいですわね……!」

店舗の入り口付近、イートインスペースの死角で、ピンク色の芋ジャージに健康サンダルという極めて庶民的な(底辺の)出立ちの少女が、幸せそうに弁当の残飯を貪っている姿が目に入った。

友好の証としてこの国にやってきたはずの、海中国家シーランの姫君にして、今やタローソン周辺の生態系(野良犬や鳩)と日夜エサを巡って死闘を繰り広げている地下アイドル――リーザであった。

彼女の姿を見た瞬間、太郎の脳内にピコーン!と、ある邪悪でバラエティに富んだ閃きが舞い降りた。

「……そうか。ファンタジー世界の住人は、肉体強化(闘気)や魔法で物理的な苦痛には異常な耐性がある。でも、『味覚』の暴力に対してはどうだ……?」

太郎はニヤリと、極めて腹黒い笑みを浮かべた。

そして、レジの下で右手を虚空にかざし、自身のユニークスキルを発動させた。

『いでよ、100円ショップ!』

ポンッ! と軽い音を立てて太郎の手のひらに召喚されたのは、100均の食品コーナーで売られている『外国産・防ばい剤不使用のフレッシュレモン(2個入り100円)』であった。

鮮やかなレモンイエローの果皮。そして、鼻を近づけるだけで唾液腺が刺激されるような、強烈な柑橘系の香りが漂う。

「旦那様、それは……? 果物、ですか?」

サリーが不思議そうに目を丸くする。アナスタシア世界にも果物は存在するが、これほど鮮やかな黄色をした果実は珍しい。

「そう、果物だよ。……ちょっと実験してみよう」

太郎はレモンを一つ手に取り、イートインスペースで弁当の唐揚げのカスを大事そうに拾い集めているリーザに向かって声をかけた。

「おーい、リーザ。ちょっとこっち来て」

「ひゃんっ!? て、店長!? 違いますわ、これは決してつまみ食いとか万引きではなく、廃棄される命(弁当)へのリスペクトを込めたSDGs的な活動の一環であって……!」

リーザがビクッと肩を跳ねさせ、慌てて口の周りを拭いながらレジへとすっ飛んできた。

「怒ってないよ。いつも店の前を掃除してくれてる(※野良犬と喧嘩している)お礼に、ちょっと珍しい高級フルーツをあげるから」

「こ、高級フルーツ……!?」

太郎が黄色いレモンを差し出すと、リーザの瞳にギラァッ!と強欲な$マークが点灯した。

「よ、よろしいんですの!? アイドルたるもの、ファンからの施しは……いえ、店長からの愛(差し入れ)ならば、謹んでお受けいたしますわ!!」

パンの耳と茹で卵が主食の彼女にとって、ビタミンたっぷりの新鮮な果物など、喉から手が出るほど欲しい超・高級食材である。

リーザは全く疑うことなく、両手でレモンを受け取った。

「リーザ、それ、皮ごとガブッといっていいよ。一番美味しい食べ方だから」

太郎が極めて爽やかな(そして邪悪な)笑顔で促す。

「皮ごと!? さすが高級品、皮にまで栄養が詰まっているんですわね! では、遠慮なく……いただきまーす!!」

リーザは大きく口を開け、黄色い果実に向かって、何の躊躇いもなく思い切りかぶりついた。

『ブシュッ!!』

果皮が破れ、中から果汁が弾け飛ぶ。

その瞬間。

「………………っ!!?」

リーザの動きが、完全にフリーズした。

彼女の瞳孔が限界まで収縮し、全身の毛穴という毛穴から冷や汗が噴き出す。

(……な、なん、ですの……これ……!?)

それは、彼女がこれまでの16年間の人生(人魚生)で一度も経験したことのない、圧倒的かつ暴力的な『酸味』であった。

100均で売られている、酸っぱさを極限まで凝縮したような外国産レモンの果汁。それが、リーザの舌の味蕾を容赦なく破壊し、脳の痛覚中枢を直接殴りつけてきたのだ。

「すっぱああああああああああああああっ!!? ひいいいいいいぃぃぃぃぃっ!!!」

数秒の沈黙の後、リーザは絶叫を上げながらその場に崩れ落ちた。

彼女の愛らしいアイドルの顔は、まるで数ヶ月間天日干しにされた梅干しのように、クシャクシャのシワシワに歪みきっていた。

両手で頬を押さえ、涙と鼻水を垂らしながら、レジの前の床を「あばばばばばばっ!」と謎の痙攣を起こしながら転げ回る。

「ぷっ……」

そのあまりにも見事なリアクション(顔芸)に、バックヤードからたまたま出てきた第三夫人・不死鳥フレアが、思わず吹き出した。

「あはははははははっ! なにそれ!? ぷふっ、顔! リーザの顔、シワシワのお婆ちゃんみたいになってるじゃない! ひーっ、お腹痛い!」

普段は高飛車で自分が一番美しいと思っているフレアが、腹を抱えて涙を流しながら大爆笑している。

「あわわ……! り、リーザちゃん!? 大丈夫ですか!? 毒!? 旦那様、毒殺ですか!?」

サリーが慌てて回復魔法をかけようとするが、太郎はそれを手で制止した。

「落ち着いてサリー。毒じゃない。ただの『めちゃくちゃ酸っぱい果物』だ。……ほら、くだらないけど、笑えるだろ?」

太郎が満足げに頷く。

「……確かに、面白いですわ。あんなに小さな果実一つで、あの悪運とド根性の塊のようなリーザちゃんが、ここまで無様に悶絶するなんて……」

ライザも、床を転げ回るリーザを見て、思わずクスリと笑みをこぼした。

剣も、魔法も、闘気も関係ない。

ただ「酸っぱい」という極めて原始的な味覚の暴力が、このファンタジー世界においては、いかなる強力な魔術よりも強烈なリアクションを引き出せるのだ。

太郎は確信した。

これこそが、彼が求めていた「誰もが平等に苦しみ、そして誰もが笑える」最高のエンターテインメントであると。

「よし! 宣言する!!」

太郎はレジカウンターの上に飛び乗り、右手に持ったもう一つのレモンを、アルクスの青空に向かって高々と掲げた。

「平和ボケしたこの国に、最高の刺激と笑いを提供しようじゃないか! 来週末、魔獣コロシアムを貸し切って……『第1回 太郎国レモン早食い選手権』を開催するぞ!!」

「「「レモン早食い選手権……!?」」」

「ああ! ルールは簡単。この『悪魔の果実レモン』を一番早く、そして一番多く食いきった奴が優勝だ! 腕力も魔力も関係ない、己の味覚と胃袋だけを信じるデスマッチだ!」

太郎の高らかな宣言が、タローソンの中に響き渡る。

床で痙攣していたリーザが、ピクッと反応して顔を上げた(顔はまだ梅干しのままだ)。

「て、てん、ちょう……。そ、そんな酸っぱい地獄の大会……一体、誰が出場するっていうんですの……ひぃっ、まだ口の中がキュッてなりますわ……」

リーザが抗議の声を上げる。

しかし、太郎はニヤリと笑い、さらにとんでもない燃料を投下した。

「もちろん、ただやれとは言わないさ。優勝者には……賞金として『金貨100万枚』! さらに、この国王・佐藤太郎が、可能な範囲で『なんでも願いを一つ叶えてやる権利』を与える!!」

「「「!!?」」」

その瞬間。

タローソンの中の空気が、一変した。

「金貨、100万枚……!?」

リーザの梅干しのような顔が、一瞬にして元の美しい人魚姫の顔(ただし目は血走っている)に戻った。

(金貨100万枚……! それだけあれば、パンの耳生活から抜け出し、毎日ルナキンの特上ステーキを食べ、自分専用の豪華なライブステージを作ることだって……!)

そして、妻たちも黙っていなかった。

「旦那様が、願いを一つ……。つまり、旦那様と二人きりで、一週間ぶっ通しの温泉ハネムーン旅行に行くことも……!」(ライザ)

「ふふふ……最高に美しい私だけの、専用の黄金のお城を建ててもらうことも……!」(フレア)

「旦那様と、四人目の子供を……キャッ♡」(サリー)

欲望。野望。そして愛。

「酸っぱい果実」という理不尽な障害の前に、莫大な賞金と権力という名の極上の餌がぶら下げられたのだ。

「フハハハハ! さぁ、国中の猛者たちを集めろ! 太郎国の新たなる祭りの幕開けだ!!」

かくして。

ただの暇つぶしから始まった、100均のレモンによる地獄の祭典。

人間、魔族、獣人、そして神々をも巻き込んだ、酸味と欲望が渦巻く『第1回 太郎国レモン早食い選手権』が、今ここに産声を上げたのであった。

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