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アパート二階にトラックが降ってきて転生!ハズレスキル『100円ショップ』の日用品チートで建国王へ成り上がる   作者: 月神世一


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EP 6

【見世物小屋の悲哀】1回10円の破壊神

アルクス城下町、タローソン前の特設スペース。

そこには、段ボールで作られた手作りの粗末な看板が立て掛けられていた。

マジックペンでデカデカと書かれているのは、以下の文字である。

『緊急展示! 世界を滅ぼすアビス怪人! 恐怖の破壊神を今だけ特別公開! 1回10円(銅貨一枚)! 写真撮影はプラス50円!』

その横で、ピンク色の芋ジャージを着たリーザが、100均で調達した黄色いメガホンを片手に、道行く市民たちへ客引きを行っていた。

「さぁさぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! こちらが次元の底からやってきたという、恐怖の大怪人ですわよ! 今ならたったの10円で、世界の終わり(予定)を安全な距離から見物できちゃいますわ! お子様の情操教育にも最適ですのよ!」

リーザの足元には、ビールケースを裏返した即席の台が置かれ、その上にちょこんと鎮座しているのは――緑色の蓋がついた、極めてチープな『100均のプラスチック製虫かご』であった。

そして、その虫かごの中。

『……き、きさまらぁぁぁ! この俺様を、このような屈辱的なプラスチックの牢獄に閉じ込め、あまつさえ見世物にしようというのかァァァッ!!』

手のひらサイズにまで縮小されたアビス怪人が、プラスチックの壁に小さな拳(触手)をドンドンと叩きつけながら、血の涙を流して激怒していた。

かつては数メートルの巨体を誇り、歩くたびに大地を腐らせ、周囲に暗黒の雷を撒き散らしていた恐怖の象徴。

それが今や、透明な虫かごの中で、リーザが敷き詰めた『園芸用の腐葉土(100均)』の上に立たされ、肩で息をしているのである。

「おっ、なんだなんだ? リーザちゃんがまた変な商売を始めたぞ」

「なんだその虫。真っ黒で、甲虫みたいだな」

「一回10円か。安いし、ちょっと見てみるか」

暇を持て余した冒険者や市民たちが、チャリン、チャリンとリーザの持つザルに銅貨を投げ入れ、虫かごの周りに集まってきた。

『フハハハハ! 愚かな人間どもめ! やっと俺様の恐ろしさに気づき、絶望の表情を浮かべに来たか! さぁ、恐怖に慄け! 俺様はアビス怪人! 貴様らの命など、指先一つで捻り潰せるのだぞ!!』

アビス怪人は虫かごの壁にへばりつき、精一杯の邪悪な笑みを浮かべて『深淵の咆哮』を放った。

――しかし。

殺虫剤によって極小サイズにまで圧縮された彼の声帯から発せられるのは、地鳴りのような咆哮ではなく。

『キィィィィィィッ! ミーッ! ミーッ!』

という、秋の夜長に鳴くコオロギか、機嫌の悪いハムスターのような、極めて甲高く可愛らしい鳴き声であった。

「……ん? なんだこいつ。よく喋るな」

「カブトムシの仲間かと思ったけど、鳴くのか。面白いな」

「おい見ろよ、背中からウネウネした触角みたいなのが出てるぜ。珍しい品種のフンコロガシじゃないか?」

「フンコロガシだとォォォ!? 違う! 触手だ! 魂を吸い尽くす深淵の触手だァァァ!」

怪人が必死に抗議するも、外の人間たちには『ミーッ! ミーッ!』と必死に鳴いている健気な虫にしか見えていない。

「ほら、おじさんの指、挟んでみろよ」

一人の冒険者が、虫かごの天井の『観察用の小窓』をパカッと開け、ごつい指を中に突っ込んできた。

『おのれ……! 舐めるな人間! その指を腐り落としてやる!!』

アビス怪人は全力の魔力を込めて、冒険者の指に噛みついた。

「いてっ! お、こいつ結構アゴの力が強いな。クワガタみたいだ。よし、いい虫だ。リーザちゃん、これ500円で買わないか?」

「売り物ではありませんわ! この子は私の、大切な『継続的収入源(ドル箱)』ですのよ!」

リーザが指でバツ印を作る。

アビス怪人は冒険者の指からポイッと振り落とされ、腐葉土の上に「ぐふぅっ」と情けなく転がった。

『な、なぜだ……。なぜ俺様の暗黒魔法が、ただの甘噛み程度のダメージにしかならないのだ……』

アビス怪人が絶望に打ちひしがれていると、今度は虫かごの周りに、アルクスの子供たちが集まってきた。

「わぁーっ! 変な虫だ!」

「本当だ! 真っ黒でかっこいい!」

「ねぇねぇ、動かしてよ! もっと動いてよ!」

子供たちの好奇心は、時に破壊神よりも残酷である。

一人の少年が、虫かごを両手で持ち上げると、ガシャガシャガシャッ! と力いっぱい上下左右に振り回し始めた。

『ぎゃああああああっ!? じ、地震か!? 空間が、空間が歪んでおるゥゥゥ!』

アビス怪人は、プラスチックの壁から天井、腐葉土へと、ピンボールのように連続で叩きつけられた。三半規管が完全に破壊され、甲冑の隙間から星が飛ぶ。

「コラコラ、あんまり強く振ったら死んじゃうでしょ! 見世物が壊れたら弁償ですわよ!」

リーザが慌てて虫かごを取り上げる。

『お……おのれ、ガキどもめ……。覚えておけ、俺様が元のサイズに戻った暁には、貴様らから真っ先に血祭りに……オボェッ』

あまりの回転に、アビス怪人は腐葉土の上に突っ伏して本気で嘔吐えずいた。

「あーあ、弱っちゃった。そうだ、これあげる!」

一人の少女が、自分が食べ終わった『スイカの皮』を、虫かごの小窓からポイッと投げ入れた。赤い果肉がわずかに残った、完全にカブトムシ用のエサである。

『……ふざけるな。俺様をなんだと思っている。深淵より出でし破壊者が、人間の食い残しのゴミなど口にするわけがなかろう……! 俺様の主食は、人間の絶望と悲痛な魂だけだ……!』

アビス怪人はスイカの皮を睨みつけ、フンと顔を背けた。

しかし。

『……キュルルルルッ』

彼のお腹が、情けない音を立てて鳴った。

次元の壁を越えるために莫大な魔力を使い、さらに太郎の殺虫剤によって極小サイズに圧縮されたことで、彼の体力は完全に底をついていたのだ。

(……くっ、背に腹は代えられん。魔力を回復させるためにも、今は少しでも栄養を摂取しなければ……!)

アビス怪人は周囲をキョロキョロと見回し、誰も見ていないことを確認すると、スイカの皮にそーっと近づき、その赤い果肉の部分をシャクッ……と一口齧った。

『…………!』

その瞬間、アビス怪人の全身に雷のような衝撃が走った。

甘い。信じられないほどに瑞々しくて、甘い。

次元の底という、ヘドロと瘴気にまみれた劣悪な環境で育ってきた彼にとって、アルクスの大地で育ったフルーツの暴力的なまでの『糖分』は、麻薬のような美味さであった。

『な、なんだこれは……! 柔らかくて、甘くて……水分が、干からびた五体に染み渡っていく……! あぁっ、止まらん! シャクシャク……シャクシャク……!』

アビス怪人は、甲冑を真っ赤なスイカの汁でベタベタに汚しながら、無我夢中でスイカの皮を貪り食った。

「あ、虫さんスイカ食べた! かわいいー!」

子供たちがそれを見てキャッキャと笑う。

『ち、違う! これは俺様が食べたかったわけではなく、ただの栄養補給で……シャクシャク……うめぇ……』

もはや、破壊神としてのプライドは粉微塵に崩れ去っていた。

「ふふふ……。順調、順調ですわ。わずか一時間で、銅貨がこんなに集まりましたの。やはり『10円』という絶妙な価格設定が、市民の財布の紐を緩めるのですわね!」

リーザはメガホンを置き、集まった銅貨を数えながら、ウハウハと下品な笑いを漏らしていた。

その横で、スイカの皮を綺麗に平らげたアビス怪人は、ポッコリと膨らんだお腹をさすりながら、プラスチックの壁越しに平和なアルクスの街並みを眺めていた。

(……俺様は、一体何のために次元の壁を越えてきたのだ……。世界を滅ぼすはずが、子供に揺らされ、スイカの皮に感動し……10円で見世物にされている……)

アビス怪人の頬を、一筋のツーッとした涙が伝う。

タローソンの店内からは、相変わらず「ぐおおおおっ! まだだ、まだニンニクの波がぁぁっ!」という、極限状態の王の悲鳴が微かに漏れ聞こえてきている。

ファンタジー史上最強(最弱?)の怪人は、こうしてタローソンの『看板ペット』としての第一歩を、屈辱と共に踏み出したのであった。

しかし、彼の悲劇(喜劇)はこれだけでは終わらない。

次回、この小さな虫かごに、タローソンを根城にする『暇を持て余した真の強者たち』が、無慈悲な遊び相手として襲来するのである。

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