EP 8
【職務質問】邪神デュアダロスと、危険な手荷物
タロー交番の平和な空気は、機動巡査ライザが連行してきた一人の「容疑者」によって一変した。
ヨレヨレのアルマーニのスーツを着崩し、脂汗をダラダラと流している男――かつて世界を絶望に陥れた邪神、デュアダロスである。
「署長! この男、路地裏をコソコソと歩いていたので職務質問をしてカバンの中身を検めたところ……『爆発物』のような極めて危険な魔導具を大量に隠し持っていましたわ! テロの準備に違いありません!」
ライザがドンッ! と交番の机に叩きつけたスポーツバッグ。
その中からジャラジャラと溢れ出したのは、地球のパチンコ屋でよく見かける『プラスチックケースに入った金色の板(特殊景品)』の山と、無駄にギラギラした装飾の『魔導ライター』であった。
「ち、違うんじゃ太郎はん! それはテロの道具やなくて……!!」
デュアダロスが必死に両手を振って弁解しようとするが、生真面目な騎士であるライザの目には、それが全く別の『恐るべき兵器』に見えていた。
「言い逃れは無用です! 署長、見てくださいこの構造を!」
ライザは特殊景品(大)を一つ手に取り、深刻な顔で解説を始めた。
「この透明な樹脂のケース。その中に密閉されているのは、純度100%の『金』の薄板です。金は魔力伝導率が極めて高い物質……。つまりこれは、衝撃を加えることで内部の金が魔力を増幅し、大爆発を引き起こす『超・高圧縮型の魔導爆弾』に違いありません!!」
「ちがーーーう!! それはただの『大景品(約五千円相当)』じゃあ!!」
デュアダロスが血涙を流しながらツッコミを入れる。
しかし、ライザの推理(暴走)は止まらない。
「さらに、この手榴弾のような器具(魔導ライター)! 先端から恐ろしい熱量の炎が飛び出します! これで先ほどの爆弾に着火し、アルクス城下町を火の海にする気だったのでしょう!」
「だから違うんじゃ! ライターはタバコに火をつけるためのもんやろがい! お前ら異世界人はパチンコという崇高な遊戯を知らんのか!!」
その光景をカウンターの奥で見ていた太郎は、頭を抱えながら深い溜息を吐いていた。
「(……完全にアンジャッシュ(すれ違い)のコントになってるな。まぁ、ファンタジー世界の住人から見たら、あの特殊景品は謎のアーティファクトにしか見えないか)」
太郎は真実(それがただの換金用アイテムであること)を完全に理解していたが、平日の昼間からパチンコ(ルナミスパーラー)に入り浸っているダメ神を少し懲らしめてやろうと思い、あえてライザの推理に乗っかることにした。
「……なるほど、ライザ巡査の言う通りだ。デュアダロス、お前はこの大量の『爆弾(特殊景品)』を持って、どこへ向かおうとしていたんだ?」
太郎がワザとらしく低い声で問い詰める。
「ど、どこって……決まっとるやろ! これを換金所の『T.U.C』に持っていくところじゃったんや!」
「ティー・ユー・シー……?」
ライザが眉をひそめ、ハッとして剣の柄に手をかけた。
「T.U.C……! Terrorist Underground Connection(テロリスト・アンダーグラウンド・コネクション)の略称ですね!? つまり、あなたは闇のギルドにこの爆弾を納品し、報酬を得る『運び屋』だったということですか!!」
「なんでそんな物騒な略称になるんじゃァァッ!! 頭文字の意味なんかワシも知らんわ! ただの小さい小窓がある掘っ立て小屋じゃ!!」
デュアダロスは発狂寸前だった。
「ええい、話が通じん! ええか、よく聞け! ワシは今日、ルナミスパーラーの『激熱イベント日』に朝一から並んでな! 見事、魔導パチンコで『確変(確率変動)』を引き当てて、ドル箱を山積みにして大勝利を収めたんじゃ!」
「カクヘン……? まさか、この街の平和な日常を『変動』させるクーデター計画の暗号……!?」
ライザの顔がさらに青ざめる。
「違うわ! で、その玉をカウンターに持っていくと、この金色の板(景品)とライターを渡される! これを交差点の角にあるT.U.Cに持っていくと、中のおばちゃんが現金(金貨)と交換してくれるんじゃ! それだけのことや!」
デュアダロスは必死に身振り手振りで説明したが、その説明を聞いたライザと、横で聞いていた竜王デュークの顔が、怒りで般若のように歪んだ。
「……なるほど。店は直接お金を渡さず、謎の板を介して、別の場所(T.U.C)で資金洗浄を行っているのですね。見事な手口です……」
「ぬぅぅ……。法の目をかいくぐる、極めて悪質な『三店方式(闇のシンジケート)』というわけか! 許せん!!」
「なんでお前ら、パチンコの『三店方式』のグレーゾーンな仕組みだけを一瞬で本質的に理解しとるんじゃァァァ!!」
デュアダロスの叫びがタロー交番に虚しく響き渡る。
「……店長、そろそろ助けてつかぁさい! ワシ、このままだとテロリスト兼、闇組織の資金源として死刑になってしまうわ!」
涙目で助けを求める邪神。
太郎はこれ以上やると本当にライザがデュアダロスの首を刎ねかねないと思い、パンッ! と手を叩いてコントを終了させた。
「よし、そこまで! ライザ、デューク。こいつの言っていることは、一応地球(日本)の法律ではギリギリ『合法(遊戯)』として認められているシステムだ。テロリストじゃないから安心しろ」
「えっ? し、しかし署長、この三店方式というシステムは、どう見ても――」
「深く考えるな。それを追求すると、日本の大人たちの色んなしがらみが崩壊するから」
太郎が遠い目をしながら誤魔化すと、ライザは腑に落ちない顔をしながらも「……署長がそうおっしゃるなら」と剣から手を離した。
「はぁぁぁ……助かったぁ。太郎はん、あんたホンマに神様に見えるで」
デュアダロスがへたり込み、安堵の息を吐く。
「ただし」
太郎は冷酷な署長の顔に戻り、100均の『違反キップ』を取り出した。
「デュアダロス。お前、路地裏でこれを落とさないようにコソコソ歩いてたせいで、完全に『不審者』として市民に不安を与えた。軽犯罪法違反(不審な徘徊)で、罰金だ」
「な、なんじゃと!? ワシのパチンコの勝ち分がぁぁ!」
「罰金は、今日のタローソンのお弁当(廃棄じゃないやつ)十個分だ。きっちり払ってもらうぞ」
邪神が「うおおおん!」と泣き崩れる中、タロー交番に平和な日常が戻った……かに見えた。
『ジリリリリリリリリッ!!!』
突如、交番の奥にある直通の魔導通信機(黒電話)が、けたたましい非常ベルの音を響かせた。
太郎が受話器を素早く取る。
「こちらタロー交番。……なんだと!?」
太郎の顔色が、一瞬にして険しいものに変わった。
「どうしました、署長! 新たな事件ですか!?」
ライザが身構え、泣いていたデュークも立ち上がる。
太郎は受話器を置き、交番の全員に向けて緊迫した声で告げた。
「緊急事態だ。……アルクス総合病院の特別室に隔離していた『政治家』が……点滴の棒を引きずったまま、病院を脱走したらしい!」
「な、なんですって!? あの重病人が!?」
ライザが驚愕の声を上げる(※仮病だということは彼女は知らない)。
「あいつの目的はただ一つ……! タローソンで本日発売される『限定・超高級・特上イチゴショートケーキ』だ! このままでは、タローソンの平穏な販売スケジュールが破壊される!」
太郎は制服の帽子を深く被り直し、100均のハリセンを腰に差した。
「全署員、直ちに出動! 容疑者リーザをタローソンに近づけるな! 総員、アルクス城下町を封鎖して大捕物を開始する!!」
「「「了解!!」」」
邪神のパチンコ騒動を片付けた休む間もなく、タロー交番の全戦力が、たった一個のショートケーキに命を懸ける底辺アイドルを捕獲すべく、夕暮れの街へと飛び出していった。
交番編最大のドタバタ追跡劇が、けたたましいサイレンの音と共に幕を開けようとしていた。
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