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アパート二階にトラックが降ってきて転生!ハズレスキル『100円ショップ』の日用品チートで建国王へ成り上がる   作者: 月神世一


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EP 7

【落とし物係】竜王デュークと、迷子のスライム

昨日の魔王ラスティアによる『隕石落下未遂(超過激な交通安全指導)』の爪痕がまだ残る、アルクス城下町。

市民たちが空を見上げながらビクビクと一時停止線を守る中、タロー交番の窓口には、昨日とは全く質の違う、極めて平和で、しかし非常にシュールな光景が広がっていた。

「……ぬぅぅ。この『じゅりょうしょ』という紙切れの枠、小さすぎやせんか。我の指ではペンが持てんわい……」

交番の受付カウンター。

そこに座っている(というか、狭いスペースに巨体を無理やり折りたたんで挟まっている)のは、世界最強の竜王にしてラーメン屋店主のデュークであった。

彼は頭のてっぺんに、100均で調達したおもちゃの『小さな警察官の帽子』をちょこんと乗せ、丸太のように太い指で短いボールペンを器用に摘み、落とし物の台帳と格闘していた。

「まぁまぁ、デューク。字がはみ出しても読めればいいからさ。地域に寄り添うお巡りさんには、そういう地道な事務作業も必要なんだよ」

隣で書類整理をしていた署長の太郎が、コーヒーを飲みながら苦笑する。

そこへ。

「うぇぇぇぇんっ……! ぐすっ、おまわりさぁぁん……!」

交番の入り口に、ボロボロと大粒の涙をこぼしながら、一人の幼い人間の少女が駆け込んできた。

「おお? どうした小娘。道でも迷ったか?」

デュークが優しく声をかけようと、カウンターから身を乗り出し、三メートルを超える巨体と、歴戦の傷が刻まれた強面の顔を近づけた。

「……っ!!? ぎゃあああああ!! モンスターが出たぁぁぁっ!!」

少女はデュークの顔を見るなり、恐怖で涙を引っ込め、悲鳴を上げて後ずさりした。

「ガーン!!」

デュークが物理的なダメージを受けたかのように胸を押さえ、カウンターの奥に沈み込む。

「あわわ、泣かないで! この大きなおじちゃんはね、顔は怖いけどとっても優しい『竜のお巡りさん』なんだよ。ほら、交番に遊びに来た子には、特別にこれ(100均の棒付きキャンディ)をあげるから」

太郎が慌ててフォローに入り、キャンディを渡すと、少女はなんとか落ち着きを取り戻し、ヒックヒックとしゃくりあげながら事情を話し始めた。

「あのね……わたしの大事なペットの、スライムの『プルちゃん』が……お散歩の途中で、いなくなっちゃったの……。水色で、手のひらサイズで、とってもぷにぷにしてるの……」

「スライムの迷子か……。そいつは厄介だな。あいつら、狭い隙間に入り込むのが得意だし、水たまりと区別がつかないからな」

太郎が腕を組んで思案していると。

「……任せておけぇい!!」

バンッ! とカウンターを叩き、デュークが再び立ち上がった。

その目には、職人としての、そして交番勤務の『お巡りさん』としての熱い炎が燃えたぎっていた。

「幼き者の涙を拭うことこそ、強者の務め! この我の『竜王の嗅覚』と『観察眼』をもってすれば、スライムの一匹や二匹、瞬時に見つけ出してみせようぞ!!」

「お、おお……! 頼もしいぞ、デューク。じゃあ、これを持っていけ」

太郎が亜空間から取り出し、デュークの巨大な手のひらに乗せたのは、100均で売っている『子供用の小さな虫メガネ』であった。

「おお! これが伝説の探偵アイテム『むしめがね』か! よし、行ってくるわい!」

かくして、アルクス城下町に『異常な光景』が展開されることとなった。

三メートルを超える筋骨隆々の竜王が、地面に四つん這いになり、小さな小さな虫メガネを顔に近づけながら、路地裏の溝や、建物の隙間を「プルちゃんやーい、プルちゃんやーい」と這いずり回っているのである。

「……おい、竜王様が何やってるんだ?」

「しっ! 見ちゃダメだ。あれはタロー交番の極秘任務(?)に違いない……」

市民たちは遠巻きにその姿を見守っていた。

デュークの捜索は真剣そのものだった。

「(……スライムは乾燥を嫌う。この日差しなら、必ず日陰の湿った場所を目指すはずだ。そして、この微かに漂うゼラチン質の匂い……!)」

彼はラーメンのスープの隠し味を嗅ぎ分けるほどの鋭敏な嗅覚をフル稼働させ、ついにタローソンの裏路地にある『排水溝の鉄格子の下』で、微かに震える水色のゼリー状の物体を発見した。

「おおっ! いたぞ! あれがプルちゃんに違いない!」

しかし、問題が発生した。

排水溝の鉄格子の隙間は非常に狭く、デュークの丸太のような指では、到底中に入らないのだ。力任せに鉄格子を破壊すれば、瓦礫で下層にいるスライムを潰してしまう危険がある。

「ぬぅぅ……。結界(鉄格子)を壊さずに、この極限の柔らかさを持つ生命体を傷つけずに救出せねばならんのか……。これは、我が豚神屋の特製『極薄ワンタン』を包む時よりも繊細な作業だぞ……!」

デュークはゴクリと唾を飲み込んだ。

彼は交番の制服エプロンの袖をまくり上げ、呼吸を完全に整えた。

「――竜王秘奥義・『柔の型(ラーメン職人の指先)』!!」

デュークは自らの指先の骨の関節を一時的に外し、タコのように柔らかく変形させるという離れ業をやってのけた。

そのヌルリとした指先が、鉄格子の隙間をスルリと通り抜け、排水溝の奥で震えるスライムの身体を、優しく、本当に優しく包み込んだ。

「(……良い弾力だ。しかし、少しでも力を入れれば破裂してしまう。赤子の頬を撫でるように、慈愛を込めて引き上げるのだ……!)」

冷や汗を滝のように流しながら、デュークは数分かけて、スライムの『プルちゃん』を無傷で救出することに成功したのである。

「プルーッ!」

助け出されたスライムは、嬉しそうにデュークの巨大な手のひらの上で跳ねた。

「ガァーッハッハッハ! よしよし、もう大丈夫だぞ! さぁ、交番へ帰ろう!」

***

「プルちゃん!!」

「プルー!」

タロー交番の窓口で、少女とスライムの感動の再会が果たされた。

少女はスライムを大事そうに胸に抱くと、さっきまであんなに怖がっていたデュークの巨大な足に、ギュッと抱きついた。

「大きなおまわりさん……! プルちゃんを見つけてくれて、ほんとうに、ほんとうにありがとう!!」

少女が満面の笑顔で、デュークを見上げてお礼を言う。

「……っ!!」

その純真無垢な笑顔を見た瞬間、竜王デュークの心臓が、巨大なハンマーで殴られたかのような衝撃を受けた。

これまで数千年の時を生き、恐怖と力で魔物を統率してきた彼にとって、人間から向けられる感情は常に「畏怖」か「敵意」であった。

『ありがとう』という、ただそれだけの純粋な感謝の言葉。

それが、これほどまでに胸を温かくするものだとは、彼は知らなかったのだ。

「……う、うむ。市民の安全と、プルちゃんの平和を守るのが、我々お巡りさんの仕事だからな……! ガ、ガーッハッハ……!」

デュークは必死に竜王としての威厳を保とうと笑ったが、その厳つい両目からは、滝のような男泣きの涙がナイアガラの滝のようにドバドバと溢れ出していた。

「あはは、デューク、泣きすぎだよ」

太郎が笑いながら、デュークにバスタオルを手渡す。

「うおおおおん! 太郎はん! 交番のお仕事、最高じゃあ! ワシ、これからもずっとここで落とし物係をやりたいわい!!」

巨体を丸めて号泣する竜王の姿に、交番の中はなんとも言えない温かい空気に包まれた。

昨日の魔王の恐怖政治とは真逆の、これぞ地域密着型交番の真骨頂。

タロー交番の平和な日常が、ついにアルクスに定着したかのように思えた。

しかし、そのほっこりした空気を引き裂くように、交番の自動ドア(手動)が勢いよく開け放たれた。

「署長! 怪しい男を職務質問の末、連行してまいりましたわ!!」

機動巡査の制服を着たライザが、一人の男の腕を後ろ手に捻り上げながら入ってきたのである。

捻り上げられているのは、ヨレヨレのアルマーニのスーツを着て、脂汗をダラダラと流している邪神デュアダロスだった。

「い、痛い痛い! 痛いんじゃ! 離せ小娘、ワシはただ道を歩いとっただけやないか!」

ライザはデュアダロスの抗議を無視し、彼が持っていた『スポーツバッグ』をドンッ! と太郎の机に叩きつけた。

「署長! この男、路地裏をコソコソと歩いていたのでカバンの中身を検めたところ……『爆発物』のような極めて危険な魔導具を大量に隠し持っていましたわ! テロの準備に違いありません!」

「な、なんじゃと!?」

感動の涙を拭いたデュークが、再び竜王の顔に戻って立ち上がる。太郎も顔色を変えた。

「違う! 違うんじゃ太郎はん! それはテロの道具やなくて……!!」

デュアダロスが必死に弁解しようとするが、太郎が警戒しながらバッグのチャックを開けた。

そこに入っていたのは――どう見ても地球のパチンコ屋でしか見かけないような『謎のプラスチックケースに入った特殊景品(金色の板)』と、『やたらと派手な装飾が施された魔導ライター』の山であった。

平和な落とし物係の感動から一転。

タロー交番は、またしても底辺の匂いがプンプンする『邪神の職務質問(言い訳)コント』へと突入していくのであった。

読んでいただきありがとうございます。

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