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アパート二階にトラックが降ってきて転生!ハズレスキル『100円ショップ』の日用品チートで建国王へ成り上がる   作者: 月神世一


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EP 7

【頑固な竜王】デュークの縦列駐車と、職人のプライド

「太郎よ! 聞けばこの『鉄の馬』とやら、我がラーメン屋の出前にも使えるというではないか! この我にも、操縦の仕方を教えい!!」

タローモータースの車庫に、雷鳴のような大声が響き渡った。

腕を組み、三メートルを超える巨体を震わせて仁王立ちするのは、最強の竜王にして人気ラーメン店『豚神屋』の店主・デュークである。エプロン姿のまま、やる気満々で鼻息を荒くしている。

「いや、出前に使いたいっていう心意気は素晴らしいと思うけどさ、デューク……」

助手席(教官席)から降りた太郎は、目の前の巨漢と、その後ろに停まっているコンパクトな教習車のサイズを見比べ、こめかみを押さえた。

「――絶対に無理ですわ。物理の法則が拒絶していますもの」

横で高圧洗浄機の片付けをしていたリーザが、ハッキリと言い放った。

「ぬかせ小娘! 我は世界を統べる竜の王ぞ!? 鉄の箱(車)の一つや二つ、ねじ伏せてみせるわ!」

「いや、ねじ伏せるんじゃなくて『乗る』んだよ。……ほら、とりあえず運転席に入ってみて」

太郎に促され、デュークは「ふんっ!」と巨体を屈めて教習車のドアに体を突っ込んだ。

『ミシミシミシミシッ……!!』

悲鳴を上げるサスペンション。デュークが無理やりお尻をシートにねじ込んだ瞬間、

『ギチィィィィッ!』という不穏な音がして、彼の分厚い胸板がハンドルに完全にめり込んだ。両腕は脇に固定され、ハンドルを握るどころか指先しか動かせない。さらに頭頂部は天井を突き破り、サンルーフ(100均の透明シート補修済)から外に突き出てしまっている。

「……どう? デューク。前、見える?」

「ぬ、ぬううううっ……! こ、これは……なかなかのホールド感(密着度)だな! 職人のコックピットとしては悪くない!」

「めちゃくちゃ無理してんじゃねぇか! ハンドル回せないだろ! はい、100均の『シートアジャスター(座席調整器)』発動!」

太郎がパチンと指を鳴らすと、ユニークスキルの補正により、運転席のシートが『ガガガガッ!』とあり得ないほど後ろまでスライドし、なんとかデュークの巨体を収めるスペースが完成した。

「おおっ! 快適になったぞ! さすがは太郎はんじゃ! では、出発するぞ!」

デュークは驚異的なクラッチワーク(足がデカすぎてペダルを三つ同時に踏みそうになりながらも、親指だけで操作する超絶技巧)を披露し、教習車を滑らかに走らせた。

そこはさすが竜王、パワーの制御に関しては天才的だ。コースの直進やカーブを、巨体を揺らしながらも器用にクリアしていく。

「ガーッハッハッハ! どうだ太郎! 鉄の馬など、我が手にかかれば赤子も同然よ! 我のラーメン出前最速伝説が今、幕を開けるのだ!」

「うん、実技のセンスは悪くないね。……じゃあ、一発で合格にするかどうかの見極めとして、そこにある『縦列駐車』のスペースに入れてみて」

太郎がバインダーの赤ペンで指し示したのは、二本の白いポールに挟まれた、車一台分がぴったり収まるかどうかの極めて狭い四角いスペースだった。

「じゅうれつちゅうしゃ……? フン、あの狭い隙間に車を収めればいいのだな。容易い御用よ!」

デュークはバックギアを入れ、ハンドルを大きく切った。

しかし。ここからが最強の竜王にとっての『本当の地獄』の始まりだった。

「よし、左のミラーを見て、後ろのポールと車体の角度を――」

「太郎よ、見えん」

「え?」

「我の胸筋が邪魔をして、サイドミラーが一切見えんのだ!!」

デュークの無駄に鍛え上げられた大胸筋が邪魔になり、運転席から左右のミラーを確認することが物理的に不可能だった。さらに、後ろを振り返ろうと巨体を捻ると、シートが『ミシッ!』と鳴ってハンドルに腹がつかえる。

「じゃ、じゃあ感覚で下がるしかない! ゆっくり、ゆっくりね!」

「おう、感覚なら我の野生の本能に任せろい! 『竜王の直感ドラゴニック・アイ』!!」

『ブォォォォン……ガコンッ!!』

「ああっ! ポール倒した! 減点10!」

「ぬぅっ!? ならばもう一度、角度を浅くして……!」

『ズルズル……バキッ!!』

「ああっ! 今度は縁石に乗り上げてタイヤが浮いた! 減点20! 検定中止中止!!」

太郎の容赦ない言葉が響く。

「ま、待て! 我はスープのアク取りをミリ単位で行う男だぞ!? なぜ、なぜあの白い棒の間に、この鉄の箱が入らんのだ!!」

デュークはパニックに陥り、何度も前進と後退を繰り返したが、その度にガシャン! バキッ! とポールをなぎ倒し、教習車をスペースの斜め真ん中に完全にスタック(立ち往生)させてしまった。

「う、嘘だろ……。我の、我の完璧な職人の勘が……全く通用せん……」

ついにデュークはハンドルに両手を突っ伏し、「ううう……我が誇りがぁぁ……!」と、三メートルの巨体を震わせてシクシクと泣き始めてしまった。世界最強の竜王が、縦列駐車の難しさの前に、完全に精神を破壊された瞬間である。

「……はぁ。デューク、一回頭を冷やそうか。お腹も空いたろ?」

太郎が呆れ顔で声をかけると、デュークは涙を拭いながら「……うむ。そういえば、朝からスープの仕込みしかしておらんかった」と力なく頷いた。

***

数十分後。タローモータースの敷地内に併設された、小さな『教習所食堂』。

そこには、放心状態でテーブル席に座るデュークの姿があった。

「はい、お待たせ。デューク。縦列駐車で頭を使った時は、これが一番だよ。タローモータース名物『教習所カツカレー』だ」

太郎が目の前に置いたのは、大きめの平皿に盛られた、どこか懐かしいビジュアルのカレーライス。

100均スキルで召喚した『昔ながらの業務用レトルトカレー(中辛)』のどこかモッタリとした黄色いルーに、サクヤがサクサクに揚げたての特大トンカツが鎮座している。

「ほう……? カレー、に……カツを乗せたのか? ラーメンにチャーシューを乗せるようなものか」

デュークはスプーンを握り、カツとルー、そして白米を豪快にすくい上げて口に放り込んだ。

「……ッ!!!」

デュークの全身を、電撃のような衝撃が駆け抜けた。

口の中に広がる、スパイスの尖った辛さではなく、野菜の甘みと小麦粉のコクが効いた『チープでありながら完成された旨味』。そこへ、噛んだ瞬間にジュワッと肉汁が溢れる熱々のカツの衣が、ルーをたっぷりと吸い込んで完璧なハーモニーを奏でる。

「う、美味ェェェェェェッ!!! なんだこの、お洒落な宮廷料理とは真逆の、胃袋を直接殴りつけてくるようなジャンクな美味さは!!」

「これが日本の『教習所の食堂の味』だよ。洗練はされていないけれど、お腹を空かせた人間を絶対に満足させるパワーがあるんだ」

太郎が誇らしげに笑う。デュークは「ズ、ズルいぞ太郎はん……! こんな美味いものを食わされたら、縦列駐車の悔しさが全部吹き飛んでしまうではないか!」と、今度は感動の涙を流しながら、猛烈な勢いでカレーを胃袋に流し込み始めた。

「プハァーッ! ごちそうさまじゃ! 腹が満ちたら、なんだか細かい車の位置などどうでも良くなってきたわい!」

「いや、どうでも良くないから。ちゃんと縦列駐車できないと免許はあげられないよ」

太郎の冷たいツッコミに、デュークは「ガーッハッハ! 明日もこのカレーを食べるために、補習に付き合ってやるわ!」と、すっかり上機嫌でイートインスペースの常連(溜まり場)へと合流していった。

「(……また一人、教習所に住み着くダメな大人が増えましたわ……)」

受付の席からその光景を見ていたリーザが、深く、深い溜息を吐いた。

ふと見れば、イートインスペースでは、デュアダロスが洗車用のスポンジを持ったままカレーを盗み食いし、デュークが漫画を読み、その横で狼王フェンリルが「ちっ、俺の実技のセンスなら一発合格なのに、なんであんなペーパーテストなんか……」と、何やら不穏な愚痴を零していた。

タローモータースのコース内には、神々と竜王の凄まじいオーラが満ち満ちており、一般の冒険者たちが遠巻きに怯えて近寄らないという、新たなる経営危機(営業妨害)が静かに忍び寄っていた。

読んでいただきありがとうございます。

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