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アパート二階にトラックが降ってきて転生!ハズレスキル『100円ショップ』の日用品チートで建国王へ成り上がる   作者: 月神世一


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EP 2

【魔王の仮免】ラスティアの坂道発進と、教官の逆鱗

「よく聞きなさい、人間(太郎)! この私がわざわざ下界の教習所とやらに足を運んでやったのだ! さっさとその『めんきょ』なる通行証をよこしなさい!」

アルクス城下町に新設された自動車教習所『タローモータース』。

その第一コースのスタート地点で、偉そうに腕を組み、ふんぞり返っている絶世の美女。

世界を絶望の淵に沈める絶対悪にして、アバロン魔皇国を統べる美しき魔王・ラスティアであった。

彼女はなぜか、気合の入った特攻服(背中に『朝倉月人 命』の刺繍入り)を羽織り、気合十分である。

「いや、免許はあげるものじゃなくて、教習を受けて試験に合格して『取得する』ものだから。……そもそもラスティア、なんで急に車の免許なんて欲しくなったのさ。転移魔法が使えるだろ?」

助手席(教官席)のドアを開けながら、太郎が呆れたように尋ねる。

「フンッ。転移魔法は空間が歪むから、遠征で買った月人君の『限定ポスター』にシワが入るリスクがあるのよ! しかも来月は五大ドームツアー! グッズの運搬には、雨風を凌げる大容量の鉄の箱(車)がどうしても必要なの!!」

完全にオタクの遠征事情(トランポ代わり)であった。

魔王としての威厳は、すでに推し活の前に消え失せている。

「はいはい、わかったから。それじゃあ、まずは運転席に乗って。シートベルトを締めたら、エンジン(魔力キー)をかけて」

太郎がバインダーと『100均の教官用・赤ペン』を持ち、助手席に乗り込む。

ラスティアも不満げに鼻を鳴らしながら運転席に座り、キーを回した。

『キュルル……ブォォォン!』

「おおっ! 私の魔力を動力にして、本当に鉄の箱が唸りを上げたわ! ふふっ、なかなか悪くない乗り心地ね」

「感心するのはまだ早いよ。ラスティアの乗る教習車は『マニュアル車(MT)』だからね。オートマチック(AT)と違って、ギアチェンジとクラッチ操作という繊細な技術が求められるんだ」

「クラッチ? ギア? くだらないわね。魔王たる私に小細工は不要! すべてを圧倒する魔力パワーで、この箱をねじ伏せてみせるわ!!」

ラスティアは太郎の注意を右から左へ受け流し、右足でアクセルペダルを思い切り踏み込んだ。同時に、左足のクラッチペダルから乱暴に足を離す。

その瞬間。

『ガックゥゥゥゥンッ!!!』

凄まじい衝撃が車内を襲い、魔導エンジンが断末魔のような音を立てて完全に沈黙した。

いわゆる『エンスト(エンジンストール)』である。

前のめりにカクンと揺さぶられたラスティアは、ハンドルに額をぶつけそうになり、目を白黒させた。

「な、なによこれ!? 壊れたの!? この鉄の箱、私の圧倒的な魔力に耐えきれずに壊れたのね!」

「壊してないし、壊れてないよ! クラッチを急に繋ぐからエンストしたんだろ! お前は機械の気持ち(構造)を全く理解してない!」

太郎が助手席から冷静にツッコミを入れる。

「き、機械の気持ちですって!? 魔王である私が、なぜこんな下等な鉄の箱に気を使わねばならないのよ!」

「気を使えない奴は公道に出る資格なし。はい、減点五」

太郎がバインダーの採点表に、赤ペンで容赦なくチェックを入れる。

「げ、減点!? ちょっと、なに勝手に点数引いてるのよ!」

「減点が超過したら、その時点で教習(遠征への道)は中止だからね。ほら、もう一度エンジンかけて。次はクラッチを『ゆっくり』繋ぐんだ」

推し活という人質(?)を取られているラスティアは、ギリッと奥歯を噛み締めながらも、渋々エンジンをかけ直した。

何度かのエンストを繰り返しつつも、魔王の学習能力により、なんとか車を前進させることに成功する。

「ふふん! 見たか人間! この程度の鉄の箱、私の前では赤子も同然――」

「よし、それじゃあ次は、教習所最大の難関。『坂道発進』に行ってみようか」

「……は?」

太郎の指示に従い、ラスティアが車を進めた先には、急勾配の『坂道コース』が待ち受けていた。

「いいかい。坂の途中で一度停止して、そこから車を後退バックさせずに、再び発進する。これが坂道発進だ」

「な、なるほど……。要するに、さっきみたいにアクセルを踏み込めばいいのね」

ラスティアは坂の途中でブレーキを踏んで車を停めると、自信満々にアクセルを踏み込もうとした。

「待て。ただアクセルを踏むだけじゃ、ブレーキを離した瞬間に重力で車が後ろに下がるぞ。ここで必要なのが……左足の『半クラッチ』だ」

「は、はんくらっち……?」

「クラッチペダルを半分だけ上げて、エンジンの動力がタイヤに伝わり始める『ギリギリの摩擦のポイント』を足の裏で探るんだ。車体がブルブルと震え出したら、それが合図だ」

太郎の説明を聞き、ラスティアは左足に意識を集中させた。

しかし、彼女は普段、魔法の詠唱や魔力の放出といった『大味な力』しか使っていない。足の裏で数ミリのペダルの感覚を探るという『極限の繊細さ』など、持ち合わせているはずがなかった。

「こ、こうかしら……! ええい、よくわからないわね! いっそ魔力で車ごと浮遊させて……!」

「不正は一発で検定中止(退校)だからな」

「ヒィッ!?」

太郎の冷酷な宣告に、ラスティアは冷や汗をダラダラと流しながらペダルを操作する。

「え、えーっと……半分、半分上げる……」

スッ、と左足を上げる。しかし、上げすぎた。

『ガックゥゥゥン!!』

「ああっ! またエンストしたわ!」

「落ち着け。もう一度エンジンをかけて、やり直しだ」

「くそっ、このポンコツ車め! 私の思い通りに動かないなんて、消し炭にしてやるわ!」

イライラがピークに達したラスティアは、怒りに任せてブレーキから足を離してしまった。

その瞬間、エンスト状態の教習車は、重力に引かれてズルズルと坂道を『後退(逆走)』し始めたのだ。

「あ、あれ!? ちょっと! 後ろに下がってる! なんで!? 私、魔力全開よ!?」

「バカ! ブレーキを踏め! 後ろに車がいたら大事故だぞ!!」

パニックに陥った魔王は、あろうことか両手をハンドルから離し、「ひぃぃぃ! 助けて! 月人くぅぅん!」と頭を抱えて悲鳴を上げてしまった。

ガコンッ!!!

その時、助手席に座っていた太郎が、左足で『教官用の補助ブレーキ』を床が抜けるほどの勢いで強く踏み込んだ。

教習車は急ブレーキをかけられ、坂道の途中でピタリと停止した。

車内に、恐ろしいほどの静寂が落ちる。

「……あの、太郎……?」

ラスティアが恐る恐る隣を見ると、太郎は俯いたまま、ワナワナと肩を震わせていた。

そして、ゆっくりと顔を上げた彼の目は、かつて邪神デュアダロスを屠った時よりも遥かに恐ろしい『マジギレ状態の教官の目』をしていた。

スパーーーーンッ!!!

「あだっ!?」

太郎の手にある『100均の赤ペン』が、魔王の美しい額に、容赦なく、そして正確にクリーンヒットした。

「痛っ! な、なにするのよ! たかが人間が、魔王であるこの私に――」

「魔王だか何だか知らないがな!!」

太郎の怒号が、狭い車内に雷鳴のように響き渡った。

ラスティアはビクッと肩を震わせ、完全に言葉を失う。

「車ってのは、一歩間違えれば人の命を奪う鉄の塊なんだぞ! 自分がテンパったからって、ハンドルから手を離す奴があるか! 後ろに子供がいたらどうするつもりだ! 命を預かってるって自覚がないなら、今すぐ車から降りろ!! 二度と月人君のライブに行けない体にしてやるぞ馬鹿野ろう!!」

王様としてでも、勇者としてでもない。

現代日本の厳格な交通ルールと、教官としての圧倒的な責任感から発せられた『本気の説教』。

その凄まじい気迫の前に、世界最凶の魔王は、完全に蛇に睨まれたカエルのように縮み上がった。

「ひぐっ……うぅっ……」

ラスティアの大きな瞳から、ポロポロと大粒の涙が溢れ出した。

「ご、ごめんなさいぃ……! 私が悪かったですぅ……! だから、教習所クビにしないでぇ……! 福岡ドームのプレミアムシートが当たってるのよぉぉ……!」

世界を滅ぼすはずの魔王が、ジャージ姿の青年に赤ペンで額を叩かれ、泣きながら謝罪する。

完全に『教官(強者)』と『教習生(弱者)』の力関係が確定した瞬間であった。

「……わかればいいんだ。深呼吸しろ。もう一度、最初からだ」

太郎がため息をつきながら、赤ペンをバインダーに収める。

「は、はいぃ……! 深呼吸、すー、はー……。左足を、ゆっくり、慎重に……」

泣き腫らした目で、ラスティアは全神経を左足の裏に集中させた。

世界を滅ぼす魔法の詠唱よりも遥かに繊細なコントロール。

ペダルが数ミリ上がり、エンジンの音が低く変わり、車体がブルブルと震え始める。

「(い、今よ! これが半クラッチ……!)」

「よし、そこでブレーキを離して、アクセルをじわっと踏め!」

ラスティアが右足に力を込める。

教習車は後退することなく、ググッと力強く坂道を登り始めた。

「で、できたぁぁぁ! 太郎! 私、坂道発進できたわ!」

「よし、その感覚を忘れるな。……まぁ、やればできるじゃないか」

太郎がフッと笑って褒めると、ラスティアは「ふふん! 魔王の才能を舐めないでよね!」と、涙目ながらもドヤ顔で胸を張った。

少しだけ、教官と教習生の間に『奇妙な絆』が生まれた瞬間だった。

***

「……ふぅ。一時間目からドッと疲れたよ」

ラスティアの教習が終わり、ボロボロになった教習車から降りた太郎は、大きく伸びをした。

「お疲れ、店長。いや……『教官』と呼ぶべきか」

声のした方を振り向くと、コースの入り口にある待合ベンチで、全身黒ずくめの男が腕を組み、タバコ(赤マル)を吹かしていた。

T-SWAT隊長、鮫島勇護である。

「おっ、次は鮫島くんの番だね」

「ああ。ロス市警時代、パトカーでハイウェイを100マイルでぶっ飛ばしてた俺のドラテク、とくと見せてやるぜ。シートベルト、しっかり締めとけよ」

偏光サングラスを光らせ、ニヤリと不敵に笑うハードボイルドな男。

しかし彼はまだ知らない。

異世界(アメリカナイズされた男)の常識が、太郎が仕切る『日本のクソ真面目な減点方式』の前で、いかに無力であるかを。

波乱の教習所生活は、休む間もなく次の教習生(犠牲者)を飲み込もうとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

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