EP 10
【最高の日常】コンビニの前で食べるアイスの味
「ふぅ……。終わった終わった。過去最高の売上と、過去最高の仕入れだったね」
撤収作業を終えた太郎が、タローソンの前にある車止め(縁石)にドカッと腰を下ろし、心地よい疲労感と共に大きく伸びをした。
「本当ですわ。私の時給も、ついに『特上幕の内弁当(デザート付き)』にランクアップしましたの。……この世界も、捨てたものではありませんわね」
隣に座ったリーザが、売上金の詰まった袋を大事そうに抱きしめながら、珍しく穏やかな($マークが消えた)笑みを浮かべていた。
祭りの後のタローソンは、普段通りの『24時間営業の静かなオアシス』へと戻っていた。
西の空には、燃えるような茜色の夕焼けが広がっている。
ふと見れば、店の端にある灰皿の横で鮫島が赤マルを吹かし、窓際のイートインスペースでは、デュアダロスとフェンリルが相変わらずカップ麺を啜っている。
少し離れたベンチでは、勇者リュウが愛娘のルルナに「パパ、今日はお肉の解体(品出し)かっこよかったよ」と褒められ、照れ臭そうに頭を掻いていた。
アルクスの街の、なんてことのない、けれどどこまでも平和でカオスな夕暮れ時の風景。
「(……これが、僕の作りたかった『国』なんだよな)」
太郎は夕焼けを見上げながら、深い充足感に包まれていた。
かつて地球でコンビニ店員として深夜のシフトに入っていた頃、ガラス越しに見ていた疲れた人々の顔。
異世界に転生し、王様という重圧を背負いながらも、彼が本当に求めていたのは、誰もがふらりと立ち寄れて、お腹と心を満たせる『安心できる場所(日常)』だったのだ。
「あ、そうだ。みんな、今日は本当にご苦労様。店長から、特別ボーナスだよ」
太郎は立ち上がると、タローソンの店内に入り、ユニークスキル『100円ショップ』の冷蔵ケースから、あるものを取り出してきた。
「はい、これ。フェスで売り切れなかった『ちょっと高いアイスクリーム(棒付き)』。みんなで食べよう」
「わぁっ! 旦那様、ありがとうございますわ!」
「甘いものは疲れた身体に染み渡りますからね。いただきます」
フレア、サリー、ライザの三人の嫁たちが、歓声を上げてアイスを受け取る。
「ほら、リーザも。……初日みたいに、偽造した五円玉で買おうとしなくていいからな」
太郎が少し意地悪く笑いながら、チョコチップバニラのアイスを差し出した。
「なっ……! あれは過去の過ちですわ! 今の私には、正当な労働対価として得た特上幕の内弁当がありますもの!」
リーザは顔を赤くして言い返しつつも、嬉しそうにアイスの袋を開けた。
パクリ、と一口かじる。
濃厚なバニラの甘みと、チョコチップの心地よい食感が、一日の疲れを優しく溶かしていく。
「……ふふっ。五円玉じゃなくても、アイスは食べられますのね」
リーザが夕焼けを見つめながら、ポツリとこぼした。
その横顔は、金に執着する底辺アイドルではなく、ただの年相応の少女のように穏やかだった。
「当たり前だろ。ちゃんと働いた後のみんなで食べるアイスが、一番美味いに決まってるさ」
「そうですわね。太郎様と一緒に食べるから、より一層格別ですわ」
ライザが太郎の肩に頭をコテンと預け、サリーとフレアも笑顔で寄り添ってくる。
少し離れた場所から、鮫島が「……青春だな、店長」と呆れたように煙を吐き出し、神々が「ワシらにもアイスくれや!」とイートインの中から窓をドンドンと叩いている。
すべてが騒がしく、すべてが愛おしい。
大冒険をして魔神王を倒すことよりも、巨大な国を治めることよりも。
夕暮れのコンビニの前で、車止めに座って仲間たちと他愛のない話をしながらアイスをかじるこの時間こそが、太郎にとって何にも代えがたい『究極のチート(幸せ)』だった。
「さてと。そろそろ夜勤の準備をするかな」
太郎が最後の一口を飲み込み、立ち上がろうとした、その時である。
「ああっ!!」
隣に座っていたリーザが、突然素っ頓狂な声を上げた。
彼女の手には、食べ終わったアイスの木棒が握られている。
「て、店長! 見てください! アイスの棒に『当たり』と書いてありますわ! もう一本ですの!!」
リーザが興奮冷めやらぬ様子で、その木棒を太郎の目の前に突きつけた。
「え? マジで? 100均スキルで出したアイスに当たり付きなんてあったか……?」
太郎が不思議に思いながら、リーザから棒を受け取り、よく目を凝らして見てみると。
そこには、明らかに『赤い油性マジック』で、しかも微妙に震えた字で、
【 ア タ リ(もう一本)】
と、手書きで書かれていた。
「…………」
「…………さぁ店長! 規定に従い、もう一本チョコチップバニラを要求しますわ! Love & Money!!」
リーザが満面の笑み($マークの目)で手を差し出す。
太郎は静かに、極めて静かに、亜空間ゲートへと手を伸ばした。
そして、光の速さで『ソレ』を取り出した。
「お前、それさっきの『一日店長』のタスキを書いたマジックで自分で書いただろ! 偽造通貨の次は当たり棒の偽造か! まったく成長してねぇじゃねぇか! 馬鹿やろううッ!!」
ベチャァァァァァァッ!!!
本日三度目。そしてこの章を締めくくるに相応しい、最大級の『100均特大白パイ』が、リーザのドヤ顔に完璧なクリーンヒットを放った。
「へぶしっ!? またしてもクリームまみれにぃぃぃ!」
夕暮れのアルクスの空に、クリームで顔面を真っ白にした人魚姫の情けない悲鳴と、太郎たちの大爆笑が響き渡る。
「あはははは! やっぱりリーザはそうこなくっちゃ!」
「もうっ! 旦那様も容赦がないんですから!」
嫁たちが腹を抱えて笑い転げ、鮫島が呆れ顔でコーヒーを飲み干す。
異世界に建てられた、一風変わった24時間営業のオアシス『タローソン』。
そこには今日も、ポンコツで愛すべき仲間たちと、最高の笑顔(と白パイ)が溢れているのだった。
読んでいただきありがとうございます。
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