EP 9
【異世界コンビニフェス】究極の品出しと防衛戦
「さぁさぁ皆の衆! 商品が空っぽなら、外で作ってそのまま売ればいい! 第一回・タローソン感謝祭(異世界コンビニフェス)、スタートだ!!」
青空が広がるアルクス城下町。太郎の威勢の良い号令と共に、タローソン前の広大な駐車場に設営された無数のテントが一斉に幕を開けた。
前日のリーザのゲリラライブによって店内在庫が全滅した事態を受け、太郎は逆転の発想で「野外での大売り出し」を決行したのである。
「いらっしゃいませー! サクヤ特製、魔獣肉とジャンボ椎茸の炭火焼き串ですよ! 100均の『秘伝・焼き鳥のタレ(にんにくマシマシ)』をたっぷり絡めております!」
広場の中央で、エプロン姿の天才エルフ料理人・サクヤが、巨大なドラム缶グリルで豪快に肉の串焼きを焼いていた。
脂が炭に落ちてジュワァァァッ! と爆ぜ、食欲を狂わせる暴力的な煙が辺り一面に立ち込める。
「うおおお! この匂い、たまらねぇ! 串を十本くれ!」
「こっちは『ポーション・エナジードリンク』ッスよ! 疲れた身体にガツンと効く、微炭酸のヤバい水ッス!」
妖精キュルリンが、光る謎の液体(レッドブルとポーションの混合物)を売り捌き、冒険者たちが次々とハイテンションになっていく。
「チャリン、チャリン……ふふっ。今日はお金が直接入ってきますわ。素晴らしい景色ですの……」
レジ担当のリーザは、山積みになる銀貨や銅貨を見て、完全に昇天しそうな恍惚の表情を浮かべていた。
タローソンの野外フェスは大盛況。
太郎国の誇る食材と、太郎の100均スキル(調味料や紙皿などの消耗品)が見事に融合し、過去最高の熱狂を生み出していた。
だが、その『暴力的なまでに美味そうな匂い』は、城下町の人間たちだけを引き寄せたわけではなかった。
ズズズズズ……ッ!!
突如として、アルクスの街を囲む防壁の向こう、広大な『魔の森』の方角から、地鳴りのような轟音が響き渡った。
「な、なんだ!? 地震か!?」
肉串を頬張っていた冒険者たちが、顔を青ざめさせて振り返る。
「モォォォォォォォォッ!!!」
土煙を上げて防壁のゲートを突破してきたのは、体長三メートルを超える巨大な牛の魔獣――『ロックバイソン』の大群であった。
強靭な岩の皮膚と、鋼鉄の角を持つBランク指定の凶悪な魔獣。それが数十頭の群れ(スタンピード)となって、タローソンの会場へと猛スピードで突進してきたのだ。
「ひぃぃぃっ! ロックバイソンの暴走だァァ!」
「逃げろ! あの巨体に轢かれたらミンチになっちまうぞ!!」
パニックに陥り、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う一般客たち。
無理もない。本来ならば、騎士団一個大隊が命懸けで防衛にあたるレベルの災害である。
「あわわわ! 私の売上(Love & Money)が! お肉の屋台が轢き潰されてしまいますわー!」
リーザが売上金の入った箱を抱きしめながら悲鳴を上げた。
しかし。
タローソンの店長(国王)である太郎は、迫り来る巨大な魔獣の群れを見ても、一切の恐怖を感じていなかった。それどころか、目をキラキラと輝かせていた。
「おおっ! ちょうど肉串の在庫が切れそうだったところに、極上の『特選牛(仕入れ)』が自らデリバリーされてくるとは!」
「さすがは太郎様! なんという幸運!」
隣でエプロンを着たライザも、魔刀の柄に手をかけながらウキウキとした声を上げる。
「よし! T-SWAT、並びに手の空いているパートタイマー(嫁たち)! 野生の食材を傷つけないように、迅速に『品出し(解体)』するぞ!」
太郎の号令が下った瞬間。
テントの裏でタバコを吹かしていたハードボイルドな男、鮫島が動いた。
「……ったく。休憩時間くらいゆっくりさせろってんだ」
鮫島は愛銃Korthを抜き放つと、空中に向かって牽制の連射(威嚇射撃)を行った。
バンッ! バンッ! という破裂音と閃光に驚き、ロックバイソンの群れの足が僅かに鈍り、突進の軌道が一箇所(広場の中央)へと誘導される。
「誘導は完璧だぜ。……あとは頼むぞ、勇者殿」
「任された!」
鮫島が誘導した先で待ち構えていたのは、王宮武術指南役にして、かつて魔神王を討ち果たした勇者リュウであった。
彼はいつものように気怠げな表情を浮かべていたが、その手には剣ではなく、タローソンの備品である『100均の巨大トング』と『清掃用モップ』が握られていた。
「ユニークスキル『ウェポンズマスター』……からの、マグナギア(人形遊び)応用技!」
リュウの目に闘気が宿る。
彼の手にある巨大トングとモップが、勇者の絶大な魔力を帯びて『神話級の捕縛兵器』へと変貌した。
「そらっ! 大人しく陳列されな!」
リュウがモップの柄をしならせてロックバイソンの足元を正確に払い、バランスを崩した巨体を、巨大トングで器用にガシッ! と挟み込んで空中へと放り投げた。
数十頭の巨大な牛たちが、勇者の常軌を逸したテクニックによって、次々と宙を舞う。
「ナイスパスですわ、リュウさん! さぁ、私が完璧な一口サイズに『切り分け』て差し上げます!」
空中に放り出された魔獣の群れに対し、第一レジ担当のライザが飛び上がった。
『神速の抜刀術』が白銀の網目となって宙を駆け抜ける。
シュババババッ!! という音と共に、ロックバイソンの硬い岩の皮膚だけが綺麗に削ぎ落とされ、中の極上な赤身肉だけが、完璧なサイコロ状にカットされていく。
「お見事! では、そのまま直火焼きにしますわね! 『不死鳥の炎』!」
下で待ち構えていた第二レジ担当のフレアが、柔らかな炎の網を展開し、降ってくるサイコロ肉を一瞬にして『ミディアムレア』の完璧な焼き加減へと仕上げた。
「はい、お疲れ様です! 傷ついたお肉の鮮度は、私の『回復魔法』で細胞レベルまで若返らせておきますわね!」
最後に第三レジ担当のサリーが光の魔法をかけ、肉の旨味を極限まで引き上げる。
ドサドサドサッ!!
サクヤの用意していた巨大な銀のトレイの上に、香ばしい匂いを放つ『極上のサイコロステーキ』が山のように積み上げられていった。
魔獣の襲来から、わずか数十秒の出来事である。
「「「…………」」」
逃げ惑っていた客たちは、瞬きをする間に魔獣の群れが『美味しそうなステーキの山』に変換された光景を見て、全員がポカンと口を開けて硬直していた。
「はい、皆様お待たせしましたー! 新鮮な『ロックバイソンの直火焼きステーキ』、今から販売開始ですよー!」
太郎が拡声器で陽気にアナウンスすると、静まり返っていた広場に、割れんばかりの歓声が巻き起こった。
「う、うおおおお! なんだこの国は! 魔獣が全自動で焼肉になっちまったぞ!」
「美味ぇぇぇ! 噛まなくても口の中でとろけるゥゥ!」
「店長! こっちにもステーキ十人前くれ!!」
パニックは一瞬にして熱狂へと変わり、フェスのボルテージは最高潮に達した。
太郎国の異常な軍事力(チート能力)は、コンビニの『究極の品出し』として、これ以上ない形で人々の胃袋と笑顔を満たしたのである。
***
狂騒のようなフェスが終わり、夕暮れ時。
アルクスの空が、燃えるような茜色に染まっていた。
「ふぅ……。終わった終わった。過去最高の売上と、過去最高の仕入れだったね」
撤収作業を終えた太郎が、タローソンの前にある車止め(縁石)にドカッと腰を下ろし、心地よい疲労感と共に大きく伸びをした。
「本当ですわ。私の時給も、ついに『特上幕の内弁当(デザート付き)』にランクアップしましたの。……この世界も、捨てたものではありませんわね」
隣に座ったリーザが、売上金の詰まった袋を大事そうに抱きしめながら、珍しく穏やかな笑みを浮かべていた。
祭りの後の、少し寂しくも温かい静寂。
太郎国のドタバタな日常が、最も美しい時間帯を迎えようとしていた。
読んでいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。




