EP 7
【最強のクレーマー?】竜王のラーメン視察
「……太郎よ。貴様の店で出している『かっぷ麺』とやら! 我の豚骨ラーメンへの宣戦布告と受け取って良いのだな!」
タローソンの自動ドアを潜り抜け、凄まじい竜の覇気を纏いながら陳列棚を睨みつける大男。
太郎国が誇る超人気ラーメン店『豚神屋』の店主にして、世界最強の竜王・デュークである。
彼は腕を組み、陳列された色とりどりのカップ麺を、まるで親の仇のように睨みつけていた。
「いや、宣戦布告って……。ただの商品ラインナップの一つだよ、デューク」
太郎はレジカウンターで在庫の確認をしながら、苦笑混じりに答えた。
「誤魔化すな! 聞けば、お湯を注いでたった三分待つだけで、本格的なラーメンが食える魔法の器だというではないか! 三日三晩、豚の骨を砕き、アクを取り、魂を込めてスープを煮込んでいる我のラーメン道に対する冒涜に他ならん!」
デュークの鼻息荒い抗議に、隣でレジを打っていたアルバイトのリーザがジト目を向ける。
「(……同業者の嫉妬ですわね。面倒くさい客が来ましたわ)」
「冒涜だなんだと言うなら、まずは食べてから評価してよ。ほら、お湯ならそこにある魔導ポットに入ってるから」
太郎がイートインスペースの隅にある給湯コーナーを指差すと、デュークは「ふんっ! 言われるまでもない!」と鼻を鳴らした。
「敵の戦力を知るのも、王たる者の務め。……ここからここまで、全種類一つずつよこせ!」
デュークが指差したのは、陳列棚一段分、計十種類のカップ麺(醤油、味噌、豚骨、シーフード、カレー等)であった。
「(……ただのドカ食いじゃないですか)」
リーザが呆れながらも、きっちりと代金(金貨)を受け取り、デュークをイートインスペースへと案内した。
数分後。
タローソンの窓際に設置されたカウンター席には、お湯を注がれ、湯気を立てる十個のカップ麺がズラリと並べられていた。
デュークは腕を捲り上げ、割り箸をパチンッと割った。
「いざ、尋常に……実食!!」
ズズズズズズズッ!!!
凄まじい吸引力。竜王の肺活量が、麺とスープを一気に吸い上げる。
タローソン店内に、ダイソンの掃除機もかくやというダイナミックな麺をすする音が響き渡った。
「ほう……! この縮れ麺、油で揚げてあるのか!? スープのチープな味わいとジャンクな油が見事に絡み合い、計算された旨味を引き出しておる!」
ズルズルズルッ! ズズズズッ!
「こっちの『しーふーど』とやらは、豚骨とはまた違う魚介の白湯スープ……! 具材の小さなイカとカニカマが、良いアクセントになっておるではないか!」
デュークは額に汗を浮かべながら、次々とカップ麺を平らげていく。
その目は完全に「美味い飯に出会ってしまった食通」のそれであったが、意地でも負けを認めるわけにはいかない。
十杯目のカップ麺(激辛カレー味)のスープを一滴残らず飲み干し、ドンッ! と空の容器をテーブルに叩きつけたデュークは、腕を組んで天を仰いだ。
「……フゥーッ。食った食った。見事なジャンクフードであった」
デュークは満足げに腹をさすり、太郎に向かってニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「だが、太郎よ! やはり我の『豚神屋の豚骨ラーメン』には遠く及ばん! 魂の籠もった一杯の重み、そして職人の情熱! こればかりは、いかに手軽な魔法の器(カップ麺)であろうと再現できまい! 勝負は我の勝ちだな! ガーッハッハッハ!!」
高らかに勝利宣言をする竜王。
しかし、太郎は全く動じていなかった。むしろ、コンビニ店長特有の『悪魔的な笑み』を浮かべていた。
「うん、その通りだね。カップ麺だけで、本物のラーメン屋の味に勝とうなんて思ってないよ。……でもね、デューク。ラーメンのお供といえば、何かわかるかい?」
「む? ラーメンのお供だと……? そりゃあ、白米か、あるいは……」
「そう。『チャーハン』だよね」
太郎は虚空から、100均スキルで召喚した『プレミアム黄金チャーハン(冷凍食品)』の袋を取り出した。
そして、それをレジ裏に設置してある業務用電子レンジ(魔導加熱器)へと放り込み、時間設定のボタンを迷いなく押した。
『ピッ……。ブゥゥゥゥゥン……』
電子レンジの重低音が響く。
三分後。チーン! という軽快な音と共に扉を開けた瞬間、タローソン店内に破壊的なまでの香りが充満した。
「なっ……!? この匂いは……!」
デュークの鼻がピクピクと痙攣する。
焦がし醤油の香ばしさ。ラードの暴力的な旨味の匂い。そして、ネギと卵が炒められた黄金の香り。
太郎が袋から皿へと移したそれは、一粒一粒が完璧に油でコーティングされ、キラキラと黄金色に輝く『極上のパラパラチャーハン』であった。
「はい、お待たせ。タローソン名物、100均の『レンチン特上チャーハン』だよ。ラーメンのスープを飲んだ後の口に、これ以上合うものはないと思うけど……どうする? 食べる?」
「くっ……! 悪魔め……! 我を誘惑しおって……!」
デュークは震える手でスプーンを受け取ると、黄金の山をすくい上げ、パクリと口に放り込んだ。
「……ッ!!」
デュークの全身に、衝撃が走った。
米の一粒一粒に閉じ込められた、濃厚な旨味。電子レンジで温めただけとは到底思えない、中華鍋で煽ったかのようなパラパラとした絶妙な食感と香ばしさ。
先ほどまで胃袋に流し込んだカップ麺のジャンクなスープの余韻と、この特上チャーハンの旨味が口の中で完璧に交わり、味覚のビッグバンを引き起こしたのだ。
「う、美味ェェェェェェッ!!! なんだこれは! 我が三時間かけて中華鍋を振って作るチャーハンより、米がパラパラに仕上がっておるではないか!! これが……これがたった三分で……!?」
「冷凍技術と旨味調味料の勝利だね。お買い上げありがとう、金貨一枚ね」
太郎がニッコリと笑う。
デュークは涙を流しながらチャーハンを貪り食い、最後の一粒まで舐めとるように平らげた。
「……完敗だ。太郎よ、お前の『こんびに』は……底知れぬ魔境だな……」
完全にジャンクフードの魅力に屈服した竜王は、そのままイートインスペースの椅子に深く腰掛け、備え付けの漫画雑誌をパラパラと捲り始めた。
すっかりくつろぎモードである。
「(……嫌な予感がしますわ)」
レジからその様子を見ていたリーザの背筋に、冷たい汗が伝った。
数時間後。夕刻のピークタイム。
タローソンのイートインスペースは、地獄のような様相を呈していた。
「おいフェンリル! この激辛チップス、チューハイに合うのォ!」
「アニキ、こっちのさきいかも美味いぜ。デュークのおっさん、そこの漫画読み終わったら貸してくれよ」
「うるさいぞ若造ども! 我は今、この『料理漫画』の主人公の技術を学んでおるのだ!」
窓際の席を、アルマーニのヤクザ(デュアダロス)、チャラ男、そして巨漢の竜王が完全に占拠していた。
三柱の神話級存在が放つ、無意識の『凄まじい威圧感』と『だらけきったおっさんの空気』が混ざり合い、タローソンの外にまで漏れ出している。
店の前までやってきた一般の冒険者や市民たちは、窓越しに彼らの姿を見るなり、「ヒィィッ!」「今日は近寄らんとこ……」と青ざめてUターンしていく。
「あぁぁぁぁ! 客が! お客様が逃げていきますわァァァ!」
リーザが頭を抱えて絶叫した。
「このままでは売上が落ちて、私の時給がまたパンの耳に戻ってしまいますのよ! あのダメ神とおっさん(竜王)たち、イートインに居座って営業妨害ですわ!!」
「あはは……まぁ、コンビニのイートインって、ああいう常連の溜まり場になりがちだよね」
太郎は苦笑いしながらモップをかけているが、リーザの目は血走っていた。
「こうなったら、私が直接客を引っ張ってくるしかありませんわ! アイドルとしての私の魅力で、この店を客でパンパンにしてやりますの!!」
Love & Money(自分の弁当)のためなら何でもする人魚姫。
彼女は「一日店長」のタスキを引っ張り出すと、タローソンの前の駐車場へと物凄い勢いで飛び出していった。
読んでいただきありがとうございます。
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