EP 2
クズ女神の公開説教と、予期せぬ襲撃者
【太郎国・王城 執務室】
「……で? この明細の束は何かな、ルチアナ」
太郎国の王城、執務室。
佐藤太郎は、いつも通りTシャツに便所サンダルというラフな格好のまま、デスクの上に一枚の輝くカード——『聖債プラチナ・エグゼクティブカード』と、凄まじい長さの利用明細書を叩きつけた。
その目の前には、セレスティア天界の最高位に君臨するはずの創造神ルチアナが、ピンク色のジャージ姿で床にちょこんと正座させられていた。
「えーっと……これはその、アナステシア世界の経済を回すための、神としての先行投資というか……」
ルチアナが、目を泳がせながらしどろもどろに言い訳をする。
「先行投資の内訳が、『朝倉月人ライブDVD(初回限定版)』『天神エステサロン年間パス』『ストロングゼロ・ドライ(100箱)』で、合計100万円ピッタリ限度額まで使い切ってんじゃねーか!!」
太郎の容赦ないツッコミが執務室に響き渡った。
「ふぇぇぇんっ!! 太郎さぁぁんっ!!」
太郎の足元では、初心者マークのジャージを着た見習い女神・リリスが、滝のように涙を流してすがりついていた。
「私、何も買ってないんですぅ! ただルチアナ先輩に『これも女神の修行よ』って家族カードを渡されただけなのにぃ! 今月の27日までに払えなかったら、私、身ぐるみを剥がされてタローマンのスーツケースに詰められて、シーラン国のマグローザ漁船にドナドナされちゃうんですぅぅ!!」
リリスは「船内通貨のKなんて稼げませんぅ!」と大号泣しながら、太郎のズボンの裾を鼻水でビショビショに濡らしている。
「おいルチアナ。見ろよこの哀れな後輩の姿を。てめぇのオタ活と飲み代の不良債権を、出会って3分の素直な見習い女神に押し付けるって、神としてどういう神経してんだ?」
太郎は腕を組み、正座するルチアナをジト目で見下ろした。
「い、いやね!? ほら、若い時の苦労は買ってでもしろって言うじゃない! リリスちゃんも、漁船で地下チンチロとか経験すれば、一回り大きな女神に成長できるかなって……!」
「ならお前が乗ってこい!!」
「痛ッ! 太郎、叩かないでよ! もう足が痺れて限界なのよぉ……」
ルチアナが涙目で太ももをさする。
「自業自得だ。この借金は、お前が太郎国で日雇いドカタでもして全額返済しろ。それまでストロングゼロは没収だからな」
「そんな殺生なァァァッ!! 私の生きがいを奪う気ィ!?」
平和で、くだらなくて、最高に騒がしい太郎国の日常。
最強の軍隊が美味すぎるレーションで士気を上げ、神々が借金問題で正座させられる。このバカバカしい時間が、ずっと続くはずだった。
——その、**『異物』**がやってくるまでは。
ズガァァァァァァァァァァァァァァァンッッ!!!!
突如、王城全体を激しく揺るがす、規格外の爆発音が鳴り響いた。
執務室の窓ガラスがビリビリと共鳴し、積み上げられていた書類が雪吹雪のように舞い散る。
「な、なんだ!?」
太郎が体勢を崩しかけながら、窓の外を見下ろした。
「ひぃぃっ!? 漁船の借金取りが、もう大砲を撃ってきたんですかぁ!?」
リリスが頭を抱えて机の下に潜り込む。
「アホ! いくらシーラン国の闇金でも、王城の正面ゲートを吹き飛ばすわけないでしょ!」
正座から立ち上がろうとしたルチアナが、足の痺れで盛大にすっ転びながら叫んだ。
太郎が窓から見下ろした王城の正面広場は、凄惨な光景に包まれていた。
ドワーフの技術で作られた強固な鋼鉄の城門が、紙切れのようにひしゃげて吹き飛び、濛々と土煙が立ち昇っている。
そして、警備に当たっていた完全武装の騎士たちが、次々と悲鳴を上げて宙を舞い、地面に叩きつけられていた。
『侵入者だァァッ!! 防衛陣形をとれッ!』
『駄目だ、魔法が……魔法が弾かれ……グアァァッ!!』
「……おい、嘘だろ」
土煙の向こうから、ゆっくりと姿を現した『それ』を見て、太郎は息を呑んだ。
重低音を響かせる、分厚い装甲に覆われた無骨な鉄の塊——このファンタジー世界に存在するはずのない現代車両、『トヨタ・ランドクルーザー70系』。
そして、そのボンネットに腰掛け、ゆっくりと立ち上がった一人の男。
黒を基調としたレザージャケットと、赤黒いズボン。
その全身から、周囲の空間を歪ませるほどの、禍々しくも圧倒的な『赤黒い闘気』が立ち昇っていた。
「……見つけたぞ」
男の冷たく、すべてを諦めきったような死神の眼光が、一直線に王城の最上階——太郎とルチアナのいる執務室を射抜く。
「なによアイツ……。ただの人間……ううん、あの闘気の異常な密度、どうなってるの……!?」
ルチアナが、酔いが完全に覚めた青ざめた顔で呟いた。
「ルチアナ、リリス。俺の後ろに下がってろ」
太郎は即座に『雷霆』の弓を空間から引きずり出し、鋭い視線を男へと向けた。
ギャグのように平和だった太郎国に、圧倒的な殺意と絶望を背負った『死を呼ぶ四番』——鬼神・龍魔呂が、ついにその足を踏み入れたのである。




