EP 30
世界最強の「胃袋」と、最強の軍隊
【太郎国境付近・魔の森 制圧作戦前線基地】
「おい聞いたか! 今日の配給、第3献立の『肉椎茸とロックバイソンの大和煮(タロ缶1型)』らしいぞ!」
「マジかよ! 俺は昨日『タロパウチ2型のカレー』だったから、ちょうどあの醤油の甘辛い味が恋しかったんだ!」
最前線の野営地は、魔獣討伐のピリピリとした緊張感よりも、お祭りのような異様な熱気に包まれていた。
かつてはカチカチの干し肉と黒パンを無言でかじっていた兵士たちが、今や魔導ヒーターでホカホカに温まった極上のメシを囲み、笑顔で談笑しているのだ。
「隊長! ご飯が美味しすぎて、闘気が溢れて止まりません! 今なら素手で魔獣の群れを全滅させられる気がします!」
若き騎士が、太陽芋の羊羹をかじりながら鼻息を荒くする。
「バカ野郎、油断するな。……だが、俺もさっき『タロ・イン・ゼリー』をキメたおかげで絶好調だ。今日の討伐は最短記録で終わらせて、夜は『モジュロ(Modulo型)』でポポロシガーをふかすぞ!」
隊長がニヤリと笑うと、部隊から「うおおおおッ!!」という地鳴りのような歓声が上がった。
もはや、太郎国軍の士気はストッパーが外れ、完全に天元突破していた。
ドゴォォォォォォォンッ!!!
森の奥から、城壁を粉砕するような凄まじい爆発音が響いた。
「よしっ! 第一小隊の『オムレツ投擲部隊』が、魔獣の巣穴にMRE型をブチ込んだぞ!」
「すげぇ破壊力と悪臭だ! 魔獣どもが泡を吹いて巣から逃げ出してきやがった! 全員、迎撃態勢をとれぇ!!」
ミリタリー界隈のトラウマである伝説のハズレレーションは、太郎軍において**「非人道的な特級投擲兵器(回収して再利用可能)」**として猛威を振るい、敵を恐怖のどん底に陥れていた。
【隣国・レオンハート獣人王国 国境警備隊】
「……クンクン。隊長、風に乗ってとんでもなく美味そうな匂いが……」
「馬鹿野郎! 鼻呼吸をやめろ! それはルナミス帝国(太郎国)の『タロパウチのカレー』の匂いだ! 嗅いだら最後、空腹と嫉妬で精神が崩壊するぞ!」
犬耳族の獣人兵士たちが、国境の向こう側から漂ってくる極上のスパイスの香りに、涙目で耐え忍んでいた。
「くそっ……俺たちも負けてられねぇ! 獣王様から配給された『RCIR(獣王の晩餐)』の直火焼きステーキで対抗するんだ!」
「駄目です隊長! 向こうの連中、ついに『モジュロ』を開封しました! 羊豚のモツ煮込みと、イモッカの熱燗の匂いです!!」
「……ッ! なんて卑劣な戦法だ! これが覇権国家のやり方かァァァッ!!」
戦わずして敵の戦意をへし折る【晩酌テロ】。
太郎国の「メシが美味すぎる」という噂は瞬く間に大陸中へ広まり、他国は「あんなモチベーションが限界突破している軍隊と、まともにやり合いたくない」と、さらなる恐怖と羨望を抱くようになったのである。
【太郎国・王城 執務室】
「ふふっ。最前線のライザたちから、魔獣討伐の作戦が予定より三日も早く完了したと報告が来ましたよ。どうやら、兵站の改革は1000パーセントの大成功だったようですね」
宰相セバスが、ピカピカに磨かれた書類(と、増え始めた頭髪)を撫でながら嬉しそうに報告した。
「うん、良かった良かった。みんな美味いメシ食って、無事に帰ってこれるのが一番だよ」
佐藤太郎は、定位置のソファでだらしなく寝転がりながら、いつものTシャツと便所サンダル姿でコーラを飲んでいた。
(オロチ会長が中抜きして品質を落とそうとしたらしいけど、セバスの検品システムとサイラス(獣人国)の監査であっさり弾かれたしな。やっぱり真面目にやるのが一番だね)
太郎は内心でそんなことを思い出しながら、キャスター(タバコ)に火をつけた。
紫煙が、平和な執務室の天井へと吸い込まれていく。
食の革命により、軍隊は最強の胃袋を手に入れ、太郎国の覇権は盤石なものとなった。
神話級の神々も、底辺労働者の竜人もアイドルも、みんなお腹いっぱい食べて、笑って生きている。
「——本当に、平和だなァ」
太郎が窓の外の青空を見上げて、ふぅ、と煙を吐き出した。
このカオスで理不尽で、でも最高に居心地の良い「日常」が、ずっと続けばいい。太郎は心からそう願っていた。
……しかし、平和とは常に、嵐の前の静けさでしかない。
この時、太郎国の国境付近の街道を、一台の重低音を響かせる巨大な鉄の塊——『トヨタ・ランドクルーザー70系』が、砂埃を上げて爆走してきていることを、太郎はまだ知らない。
カーステレオから流れる『レクイエム』のBGMと共に。
「……待ってろよ、ユウ。俺が必ず……歴史を無かったことにしてやる」
赤黒い闘気を纏い、最強の武術と銃火器を極めた男、鬼神・龍魔呂(DEATH4)。
彼が求めた「地獄のゲート(ルチアナ)」と「時間を操る竜(始祖竜)」を目指し、太郎国の平和な日常を物理的に粉砕しにやってくるのは……もう、目と鼻の先の出来事であった。




