EP 27
軍法会議と、オムレツ兵器化計画
【太郎国・王城 大食堂】
「ゲホッ……! ガハッ……! 水……水をくれッス……!」
気絶から息を吹き返したイグニスが、首を抑えながら這いずり回る。
リーザも白目を剥いたまま痙攣し、始祖竜に至っては完全に硬直してピクピクと尻尾だけを動かしていた。
「——ちょっと太郎ォォォッ!!」
ピンクジャージ姿の創造神ルチアナが、ついに堪忍袋の緒をブチ切らせて立ち上がった。
「アンタねぇ! いくら栄養が完璧だって言っても、限度ってもんがあるでしょ!?
こんなもん戦場で食わせたら、即刻『軍法会議』物だわ! 士気が下がるどころか、反逆が起きるわよ!!」
「ホンマじゃ大将! ヤクザのワシでも、こんな非人道的なモンは扱わんで!」
デュアダロスが、ハンカチで冷や汗を拭いながら広島弁で吠える。
「こんな臭くて不味いゴム板……野良犬に与えても、後ろ足で砂をかけられるレベルじゃけぇ!!」
「その通りッス!!」
復活したイグニスが、怒りのあまり大声で叫んだ。
「俺様、テント村で炊き出し食ってたから分かるッスけど! これ、ホームレスに与えてもマジで石を投げられるわ!!」
軍法会議。犬の砂かけ。ホームレスの投石。
試食係たちからの、怒涛にして容赦のないボロクソなクレームの嵐。
「ええぇ……そんなに酷いですか……?」
サクヤがショックのあまり、真っ白なコックコートの裾を握りしめて涙目になっている。
「防腐剤の代わりに塩分を極限まで高めて、保存のために水分を0.1%まで抜いて、高温プレス機で限界まで圧縮して固めただけなのに……」
「それが料理の作り方じゃねぇッス!! 完全に工業製品の作り方じゃねぇか!!」
イグニスが、テーブルの上の黄色いゴム板をわしづかみにした。
「こんな硬えだけのクソマズいオムレツ……食うより、投げた方がマシだろォォォッ!!」
イグニスは怒りに任せ、竜人の剛腕でオムレツを壁に向かって全力でぶん投げた。
ズガァァァァァァァァァァンッッ!!!
大食堂に、砲弾が直撃したかのような凄まじい轟音が響き渡った。
もうもうと舞い上がる土煙。
粉塵が晴れた後、そこに残されていたのは——完全に粉砕され、すり鉢状の大穴が空いた王城の頑強なレンガの壁だった。
「……え?」
イグニスが自分の手を見る。
「……は?」
ルチアナとデュアダロスが、口をポカンと開けて壁の穴を見る。
そして、その大穴の中心には。
王城の壁を粉砕したにもかかわらず、傷一つ、ひび割れ一つなく、元の形のまま無傷で転がっている『黄色いゴム板』の姿があった。
「…………素晴らしい」
沈黙を破ったのは、第一王妃にして軍事総司令官のライザだった。
彼女は静かに歩み寄り、無傷のオムレツを拾い上げた。その瞳には、武人としての狂気と歓喜の光が宿っていた。
「太郎様……これは素晴らしい『投擲兵器』です!
レンガを粉砕する破壊力! しかも回収すれば何度でも使える異常な耐久性! さらに、敵の塹壕に投げ込めば、この凄まじい異臭で生物兵器としての効果も期待できます!!」
ライザは、オムレツを高く掲げて高らかに宣言した。
「サクヤ! このMREオムレツを即刻量産しなさい! 次の遠征から、我が騎士団の標準投擲兵器として正式採用します!!」
「えっ!? りょ、料理じゃなくて兵器としてですか……!?」
サクヤが複雑な表情でオロオロとする。
「いやいやいや! ストップ、ストップ!!」
太郎が慌てて両手を振って割って入った。
「ライザ、落ち着いて! 食べ物(?)で遊んじゃダメ! いくらなんでも、オムレツを投げて敵を倒す軍隊なんて嫌すぎるから!」
ミリタリーファンが恐れる伝説のレーションは、太郎国において「壁を破壊する投擲・生物兵器」として、軍部に高く評価されてしまったのである。
「あー……もう。みんな、MREのことは一旦忘れよう。口の中が最悪だろうからさ」
太郎は溜息をつきながら、空間から【100円ショップ】の新たなアイテムを取り出した。
「お詫びと言っちゃなんだけど……最後は、極上の『大人の嗜好品』で締めくくろうか。——お待ちかねの『Modulo型』だ」
その言葉に、ルチアナの耳がピクッと動き、デュアダロスの丸眼鏡が怪しく光った。




