EP 23
戦闘糧食1型(缶詰の奇跡)
【太郎国・王城 大食堂】
「パカッとな!」
サクヤがプルタブを引き上げ、オリーブドラブ色に塗られた『缶詰』のフタを開け放つ。
プシュッ、という密閉が解かれた音と共に、凝縮された肉の脂とスパイス、そしてほのかな醤油の香りが大食堂に広がった。
「おおぉっ……! な、なんだこの匂いは……ッ!」
イグニスが鼻の穴を全開にして身を乗り出す。
「これが日本の自衛隊で長年愛されてきたスタイル、『戦闘糧食1型(缶詰)』だよ」
太郎がドヤ顔で説明を始める。
「俺の【100円ショップ】で出した空の缶詰に、サクヤが作った料理を詰めて、魔法と機械の力で真空密封・加熱殺菌したものだ。これなら常温で数年間は絶対に腐らないし、過酷な戦場でも持ち運びが簡単だ」
「す、数年腐らない!? あのカチカチの干し肉や黒パンと同じ保存力で、こんなに良い匂いがするんスか!?」
見学していたライザとセバスが、軍事的・内政的な価値の高さに戦慄している。
「まぁまぁ、御託はいいから食ってみなよ。今日のメニューは『コンビーフ(ロックバイソン肉使用)』、『たくあん』、そして主食の『赤飯』だ」
太郎が促すと、試食係の四人は我先にとスプーンを手に取った。
「い、いただきますぅ!」
リーザが震える手で『赤飯』をすくい、おそるおそる口に運ぶ。
その瞬間。
「……あむっ。……っ!? ふにゃぁぁ……っ♡」
リーザの顔が、一瞬でとろけ落ちた。
「も、もちもちですぅ……! お豆がホクホクしてて、噛めば噛むほどお米の甘みが……! 鉄の箱に入ってたのに、炊きたてみたいにふっくらしてますぅぅ!! パンの耳とは別次元の食べ物ですぅ!!」
あまりの美味しさに、リーザの両目から滝のような感動の涙が噴き出した。
「うおおおおッ! この『コンビーフ』ってヤツ、ヤベェぞ!」
イグニスが、ぎっしりと肉の繊維が詰まったコンビーフを山盛りにすくって口に放り込んでいる。
「肉の旨味がギュウギュウに詰まってる! スパイスがピリッと効いてて、噛まなくても口の中でホロホロ崩れるじゃねぇか! これなら遠征で疲れてアゴが上がった時でも、無限に肉が食えるッス!!」
エリート竜人の野太い声が、歓喜で裏返っている。
「ほう……この『たくあん』っちゅう黄色い漬物、ええ歯ごたえじゃのう。ポリポリとした食感に、塩気と甘味が絶妙じゃ」
デュアダロスは、アルマーニの袖を汚さないように上品にたくあんを齧りながら、丸眼鏡の奥で極悪な商人の目を光らせていた。
「大将。この『缶詰』っちゅう技術……独占したら、世界中の保存食の概念がひっくり返りますわ。軍隊だけやのうて、冒険者や商人の旅の供として、一個金貨1枚(1万円)でボロ儲けできますけぇ……! ニチャァ」
「だからお前は儲けの話ばっかりだな。自国の兵站用だって言ってるだろ」
太郎が呆れながらツッコミを入れる。
「あー、ちょっとちょっと! これ、ご飯が進むのは分かるけどさ」
ルチアナが、コンビーフを箸でつつきながら不満げに口を尖らせた。
「完全に**『お酒のツマミ』**じゃないのよ! ストロングゼロでもいいけど、これ絶対日本酒とかビールが欲しくなるヤツでしょ! ほら太郎、出しなさいよ!」
「お前は本当にダメな女神だな! お酒は最後のModulo型までお預けだよ!」
試食係たちは、あっという間に1型の缶詰を空にしてしまった。
「美味しいですぅ……もう一個いいですか?」「俺様もコンビーフおかわりッス!」と、さらに要求してくる始末だ。
「……太郎様。これは革命です」
セバスが震える声で言った。
「こんなにも美味なる食事が、数年単位で備蓄できるなど……。これを最前線の兵士たちが食べれば、士気は天を衝くでしょう!」
「ふふん、驚くのはまだ早いよ、セバス」
太郎はニヤリと笑い、ホワイトボードの次の項目を指差した。
「1型もいいんだけど、欠点がある。缶だから重いし、食べた後の空き缶が邪魔になる。それに、やっぱり『温かいメシ』が食べたい時もあるだろ?」
「確かに……冬の遠征では、火を熾せない状況も多いですから、冷たいまま食べるのは少し寂しいですね」とライザが頷く。
「そこで登場するのが、次の『戦闘糧食2型』だ。火も魔法も使わずに、アツアツの飯が食える魔法のアイテムを見せてやるよ」
「火を使わずに温かい飯ですと!?」
イグニスたちが、空になった缶詰を置いて目を丸くする。
太郎のドヤ顔と共に、現代日本のレトルト技術が、異世界の常識をさらに破壊しようとしていた。




