EP 22
試食担当(無料の晩飯)集結
【太郎国・王城 大食堂】
「うおおおおッ!! 太郎! 本当にタダで、腹いっぱいメシが食えるんスね!?」
王城の大食堂に、地鳴りのような野太い歓声が響き渡った。
声の主は、着ぐるみバイトとドカタ作業を掛け持ちするエリート竜人・イグニスである。彼の目は、これから運ばれてくるであろうご馳走を想像し、血走るほどにギラギラと輝いていた。
「はいっ! 私も飛んできましたぁ! 今日は炊き出しのカレーがお休みだったので、夜ご飯を『パンの耳を水でふやかした謎のゲル』で済ませようとしてたんですぅ!」
その隣では、極貧アイドル人魚のリーザが、感動のあまり両手を合わせて天を仰いでいる。
先日ついに『食パンの白い部分』を買えるようになった彼女だが、根っこの貧乏性はそう簡単に抜けない。「王城での無料試食会」というプラチナチケットを前に、彼女のヨダレは限界点に達していた。
足元では、すっかりペットとして定着した始祖竜も、「キュア〜!」と尻尾を振ってヨダレを垂らしている。
「まぁまぁ、二人とも落ち着きなって。今日は開発中の『戦闘糧食』の味見だからね。忌憚のない意見を聞かせてほしいんだ」
長机の奥で、佐藤太郎がコーヒーを飲みながら苦笑いした。
その横には、腕まくりをして気合十分の天才料理長・サクヤが控えている。
「……で。お前ら二人は、どうしてここにいるんだ?」
太郎が呆れた視線を向けた先。
長机の反対側には、イグニスたちとは全く別のベクトルで「底辺」を極めている二柱の神話級存在が、堂々とパイプ椅子に踏ん反り返っていた。
「大将、水臭いこと言わんでつかぁさいや。新しい『商品』の開発と聞きやぁ、このデュアダロス、黙って見過ごすわけにはいきませんけぇ」
インテリヤクザ邪神・デュアダロスが、ビシッと決めたアルマーニのスーツ姿で、葉巻の煙をくゆらせた。
観光ビジネスの時はエセ関西弁だったが、身内だけの場ではゴリゴリの広島弁に戻っている。
「保存が利いて美味いメシじゃと? クックック……もし出来が良ければ、観光客向けに『太郎国サバイバルセット』として金貨10枚で売り捌けますわ。味のチェックは、ワシの舌に任せときんさい」
「お前は金儲けのことばっかりだな……」
太郎がため息をつく。
「ちょっとォ! メシもいいけど、お酒はどうなのよお酒はァ!?」
ドンッ! と机を叩いたのは、ピンク色のジャージにサンダル姿という、近所のコンビニに行くような格好の絶世の美女——創造神ルチアナであった。
「私、太郎から『無料の飲み会がある』って魔導通信で聞いたから、神界の面倒くさい書類仕事(世界の理の調整)を全部ヴァルキュリアに押し付けてサボってきたのよ!? さっさとストロングゼロとツマミを出しなさいよ!」
「はいはい、わかったから。後で『大人の嗜好品セット』も出すから、とりあえず最初は真面目に味見してよ」
タダ飯に命を懸ける底辺組(イグニス、リーザ)と、職務放棄で酒と金銭を求める神々(ルチアナ、デュアダロス)。
この、世界観のスケールが完全にバグった四人が、今回の『新・戦闘糧食』の試食担当である。
「よし、全員揃ったな。それじゃあサクヤ、早速『戦闘糧食1型』から頼む!」
太郎が合図を出した。
「はいっ! 皆様、まずは日本の自衛隊スタイルを参考にした、こちらの『缶詰セット』からご賞味ください!」
サクヤが満面の笑みで、銀色のカートを押して登場する。
その上に乗っていたのは、無骨なオリーブドラブ色に塗られた、いくつかの『缶詰』だった。
「……なんスかこれ。鉄の塊じゃないスか」
イグニスが不思議そうに缶詰をコンコンと叩く。この世界には、まだ『缶詰』という高度な密閉保存技術が存在しないのだ。
「フフッ、ただの鉄の塊ではありませんよ。……パカッとな!」
サクヤがプルタブに指を掛け、小気味良い音を立ててフタを開け放つ。
その瞬間。
缶の中に閉じ込められていた『旨味』と『スパイス』の香りが、一気に大食堂の空間へと解き放たれた。
「こ、これは……ッ!?」
リーザの鼻がピクピクと動き、イグニスがゴクリと喉を鳴らす。
「さぁ、太郎軍が誇る『戦闘糧食1型』! とくと味わってください!」
太郎の号令と共に、無料の晩餐(試食会)という名のカオスな宴が、ついに火蓋を切ったのである。




