EP 21
魔導スマホと、青い狸の神獣伝説
夕刻のアルクス。
西日が街をオレンジ色に染め始める頃、太郎たちは無事に東の森から帰還し、冒険者ギルドの重厚な扉を押し開けた。
夕時のギルドは、一日の依頼を終えた冒険者たちでごった返しており、酒と安堵の入り混じったむせ返るような熱気に包まれていた。
「報告に上がりました。東の森にて、ゴブリン5体の討伐を完了しました」
ライザは受付カウンターに進み出ると、血抜きと洗浄を済ませた麻袋をコトンと置いた。
受付嬢のルシアが、慣れた手つきで袋を開け、中身を確認する。
「はい、確認いたします。……うん、ゴブリンの右耳が5つ、そして質の良い魔石が5つですね。それにしても……」
ルシアは、取り出した右耳の切り口を見て、少し目を丸くした。
「傷口がとても綺麗ですね。暴れるゴブリンを相手に、これほど的確に急所を突いて動きを止めるなんて……流石はライザ様とサリー様のパーティーですわ」
画鋲トラップで身動きが取れなくなった所を処理したとは知らないルシアが、感心したように頷く。太郎はバレないように、横でそっぽを向いて口笛を吹く真似をした。
「では、依頼達成の確認が取れましたので、報酬の手続きをいたします。確認してください」
ルシアがカウンターの奥にある水晶のような魔道具に手をかざすと、ライザは自身の胸元から、手のひらサイズの『黒く四角い石版』のようなものを取り出した。
「はい。……ええ、10000Gの振り込みを確認しました。お疲れ様でした」
「え? え?」
太郎は、ライザの手元を見て目を白黒させた。
「どうしたんですか? 太郎さん」
サリーが不思議そうに顔を覗き込んでくる。
「いや……それ、何? 黒い石の板みたいだけど、今、表面に数字が光って浮かび上がらなかったか!?」
「え? あぁ、これですか?」
ライザは黒い石版を指先で器用にスワイプ(?)しながら答えた。
「これは『魔導通信石』と言って、ゴルド商会が数年前に開発し、ギルドや大商人の間で普及し始めた最新の魔道具ですわ。離れた相手と通話も出来て、こうやって大金が動く時は、重い硬貨を持ち歩かなくても、この石の口座に直接数字で振り込まれる仕組みになっているんです」
「へ、へぇ〜……」
(それって完全に、現代の『スマホ』と『電子マネー決済』じゃないか……!)
太郎は内心で激しくツッコミを入れた。
そして同時に、ポンッと手を打つ。
(そういえば、あの芋ジャージの駄女神ルチアナ……天上界で『エンジェルすまーとふぉん』とかいう羽の生えたスマホを弄ってたな。絶対にあいつが、この世界に適当に文明の利器の概念を落としていったんだ……)
ファンタジーな異世界でありながら、妙なところでインフラが近代化されている理由に気づき、太郎は一人で深く納得していた。
「それより!」
サリーが、パンッ!と手を叩いて元気よく話題を変えた。
「無事に怪我なく、パーティー初勝利です! 今夜はパーッと宿でお祝いをしましょうよ!」
「良いですね。初陣の無事を祝うのは、冒険者の嗜みですわ」
ライザも口元を緩めて賛同する。
「うん! じゃあ今夜は、僕のスキルで『とびっきり美味しいお祝いの料理』を出してあげるよ」
太郎が胸を叩いて宣言すると、サリーはパァッと顔を輝かせた。
「わぁい! 本当に太郎さんって、何でも不思議なものを出してくれるんですね! まるで、昔話に出てくる『土座衛門』みたい!」
「…………えっ?」
太郎の顔が引き攣った。
「サリー、それを言うなら『ドラえ……』何だったかしら? 確か、何でも願いを叶える道具を出すっていう、青い神獣の伝説よね?」
ライザが顎に手を当てて記憶を探る。
(いやいやいや! なんでこの世界の住人が、日本の国民的アニメの青い狸を知ってるんだよ!? 絶対ルチアナの奴、昔この世界に降りてきた時に適当な作り話(アニメの布教)をしていきやがったな!?)
「僕は青い狸じゃないから! そしてサリー、『土座衛門』は水死体だからね!? 縁起でもないからやめて!!」
「えぇー? でも太郎さん、時々お腹のあたりがぽっこりして狸みたいだし」
「してない! 腹筋は割れてないけど狸じゃない!」
ギルドの片隅で、現代知識と異世界ファンタジーがカオスに混ざり合う、ドタバタなツッコミ合いが響き渡る。
こうして、初めての報酬(電子マネー)を手にした100均の勇者パーティーは、祝勝会という名の宴へ向けて、笑い合いながら夜の街へと繰り出していくのだった。
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