EP 22
確立された必勝法と、ステップアップの森
アルクスのギルドで冒険者として登録してから数週間。
太郎たち『100均の勇者パーティー』の戦術(勝ちパターン)は、すでに完全に確立されつつあった。
その日も東の森には、ゴブリンたちの悲鳴が響き渡っていた。
「ギギャッ!?(足に何か刺さった!)」
「グゲェッ!?(見えない糸に引っかかったぞ!)」
太郎が100円ショップスキルで出した『ダルマ画鋲』と、木と木の間に張り巡らせた『釣り用の透明なナイロンワイヤー』。
この極悪非道な現代のトラップ群に足を取られ、無様に転倒したゴブリンたちを、太郎が安全圏から弓矢で射抜き、ヘイト(敵の怒り)を買ってさらに罠の奥深くへと誘い込む。
そして、身動きが取れなくなった獲物の首をライザの剣閃が鮮やかに刈り取り、密集した残党をサリーの『ファイヤボルト』が一網打尽に焼き払う。
被害ゼロ。消費アイテムの経費は数百円ポッチ。
現代の悪徳な罠と、異世界の剣と魔法が融合した、あまりにも効率的で血も涙もない「ゴブリン・フルボッコシステム」の完成である。
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そんな連戦連勝の報告を連日ギルドに叩きつけている太郎たちは、冒険者ギルド内でもすっかり注目の的になっていた。
「おい、見ろよ。あいつらが、最近東の森のゴブリンを片っ端から根絶やしにしてるって噂の……新人パーティーか?」
「なんて効率だ。討伐依頼の紙が、あいつらのせいで品切れになってるらしいぜ」
「……いや、それより問題はあっちだろ。おい、なんだよあの超絶美少女二人は!?」
「燃えるような紅蓮の髪の凄腕剣士に、天使みたいに可愛い回復術師!? なんであんなヒョロヒョロの優男が、あんな極上の女二人を侍らせてんだよ! 俺もあのパーティーに入りてぇ!!」
(うわぁ……野郎共からの妬みとやっかみの視線が痛い。背中に無数の矢が刺さってる気分だ……)
太郎はギルドの隅で、周囲から突き刺さる殺気じみた視線に肩をすくめ、小さくなっていた。
男の嫉妬は、ある意味でゴブリンよりもタチが悪い。
「う〜ん……困りましたねぇ」
掲示板の前で腕を組んでいたサリーが、不満げに頬を膨らませた。
「今日はもう、美味しいゴブリン討伐の依頼が一枚も残ってないみたいですねぇ」
「私達が狩り尽くしてしまいましたからね」
ライザも掲示板を眺めながら、少し真剣な顔つきになった。
「ちょうど良い機会かもしれません。そろそろ、私達も新しい魔物にステップアップして取り組むべき時です。毎日毎日ゴブリンばかり相手にして『あいつらゴブリンしか狩れないのか』と陰口を囁かれては、私の剣と誇りに申し訳がありませんわ」
「おぉ、ライザは向上心が高いね。じゃあ、次は何を狩るんだい?」
太郎が尋ねると、ライザは掲示板から一枚の羊皮紙を剥がし取った。
「これなんかどうですか? 『サーベルウルフの討伐』。報酬もゴブリンの倍以上ですわ」
「サーベルウルフ……っ!」
その名前を聞いた瞬間、太郎の背筋に冷たい汗が流れた。
(サーベルウルフ……僕がアナステシア世界に蹴り落とされた初日、森で遭遇して、殺虫剤とライターの火炎放射で泣きながら追い払った、あの額に角の生えたデカい狼か!)
あの時と違い、今は頼もしい仲間がいる。だが、本能的な恐怖が太郎の心臓を早鐘のように打たせた。
「狼の魔物ね! 大丈夫よ、太郎さん! 今の私の魔法なら、あんな犬っころ、チョチョイのチョイよ!」
サリーが白杖を振り回し、自信満々に胸を張ってフラグのようなセリフを放つ。
「わ、分かった。じゃあ、それにしよう」
太郎は引きつった笑顔で頷きながらも、内心で急ピッチで思考を巡らせていた。
(サーベルウルフ……。四足歩行で、ゴブリンとは比べ物にならないくらい素早い魔物だ。俊敏な獣相手に、いつもの画鋲作戦が通用するだろうか? 透明なワイヤーも、あの跳躍力なら軽々と飛び越えられてしまうかもしれない)
ゴブリン専用にカスタマイズされた今の罠では、狼の突進は止められない。
ならば、別の手を打つしかない。
(もっと足止めに特化したアイテム……100円ショップの防犯グッズか、園芸用品か、それとも……!)
「行きますわよ、太郎殿! サリー!」
「おーっ!」
気合十分な二人の美少女の背中を追いながら、太郎は脳内の100均カタログを必死に検索しつつ、新たな戦場となる森へと向かうのだった。
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