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リアルサウンド  作者: cline
14/15

十月   館 健一郎

コミュニケーションの半分は手から出来ています。なんちって。

 校内の銀杏がくっさい臭いを香らせる頃、この行事は行われる。筋肉万歳祭り。略して、大運動会。総じて、体育祭。

 ちなみに本日は天高く馬肥ゆる秋な空。運動会日和ってやつだな。

「残すのはクラス対抗リレーか。」

 俺は鉢巻をくくり直しながら、席を立ち上がった。が、しかし、どうにも後ろが上手く結べない。すると、誰かがその結び目を俺に変わって作ってくれた。振り返ってみると、いたのは辻本。

「サンキュー。」

「見た目を裏切らず不器用ね。」

「誰かさんみたく小器用に生きてませんからね。」

ドスッ!

腹に一発辻本の拳。こんなやり取りは日常茶飯事だ。それが俺は結構気に入ってる。

「なんて言うか、熟年夫婦?」

すぐ側にいた後藤が口を挟んだ。は?夫婦?しかも熟年?

「だって。辻本。」

俺はポンと辻本の肩を抱く。すると、ギュッとその手の甲をつねってきた。いってぇ!いやマジにいてぇって!俺はとっさに辻本から離れ、つねられた手をフーフーする。

「ほら、集合でしょ。真紀も。」

辻本は顎で入場口を指した。

「いってらっしゃい。」

そしてトンっと俺と後藤の背中を叩いた。あ、笑ってる。可愛いなぁ。周りはこいつのこと綺麗とか言うけど、俺の中では可愛い方だ。姿形は整っていて綺麗かもしんないけど、なんつーか可愛いんだよな。何でだろ?

 俺と後藤は並んで入場口へ向かった。

「まぁC組連合が勝つね。」

細い目で前を見たまま後藤が言う。まぁ確かに。何せ一年から三年まで運動部が集まってるからな、うちは。落ち目など無し!現在の成績もC組連合がトップ。そして次点がD組。ちなみに前原たちA組連合はブービー。ざまぁ見ろ、井倉。

「女子、負けるなよ。」

「誰に言ってる。」

入り口に着いて、俺達は拳を合わせて互いの健闘を祈った。そして後藤は女子の集合に入っていく。

 グラウンドでは今一年生男子の棒倒しが行われている。力の有り余った高校生男子がてっぺん目指して奮闘する姿は、何ともたくましい。テレビや新聞で言われる『今時の若者』の俺達。だけどあれって一部の若者を表立たせて、しかもさも若者代表みたいに取り上げてる。だから俺達は『今時の若者』ってひとくくりの枠に入れられて批判されたりする。ふざけんなっての。みんながみんな同じなわけねぇじゃねぇか。ガキはガキなりに色々あるし色々悩んでんだよ。『今時の若者』を総批判してる大人たちは、自分が若者だった頃の事を忘れているんだろうか?それとも何も悩まなかったりしなかったのだろうか?もがいたり苦しんだり足掻いたり抗いだり、しなかったのだろうか?そんな友達を助けたり、逆に助けられたりしなかったんだろうか?

 人はひとつじゃない。人の数だけ人がいる。って何言ってるかわかんねぇな。

 棒倒しが終わって、女子のリレー選手が入場する。ボーっと見ていると、ポンっと背中を誰かに叩かれた。

「負けないぜ。」

仲林だった。俺より十センチほど低い頭を、俺はグシャグシャと掻きむしってやった。

「足の長さが違うわい。」

 コミュニケーションってやつ。まぁ確かに最近は携帯のおかげで便利になったけど、気持ちを伝えるのには不便になったよな。温度のない電子文字。相手の顔を見ない安堵感。だから好きなことが言える。だけどその言葉に本当の度胸や勇気、気持ちはあるんだろうか。宇宙を飛んでいく言葉は、相手がちゃんとキャッチできるかわからない。エラーするかもしれないし、ボール玉になってしまうかもしれない。ど真ん中ストライクってのは、実はメールじゃなかなか難しいんじゃないかな。大気圏内の直接のキャッチボールなら、相手の顔が見える。顔が見えるから相手がどんなボールが欲しいのかわかる。距離がわかるから届くかどうか緊張して、それが遠かったり障害物があれば投げるのに度胸がいったりする。相手がそこにいるから、必死で取ろうとする。相手が落としても、その必死の姿が見えるから許せる。

コミュニケーションってやつ。それは心が直接触れるもの。

 ま、俺は携帯持ってないからよくわかんねーけどさ。

 目の前ではもう女子が走り出していた。C組は現在二位。いけるいける。俺は声を上げて応援していた。その隣で腕を組んだ井倉がニヤニヤとレースを見ていた。

「女子の体操服好きなのか?」

「僕は君と違って変態じゃない。」

「あ?誰が変態だ!」

俺は井倉の胸ぐらを掴んだ。だが本気じゃない。井倉もそれがわかっていた。

手の、加減。体が理解する、温度。

「ほら、うちのアンカー。仲のいい子が走るんだけど。」

いつの間にかアンカーまで回っていた。うちは何と三位に落ちていたが、アンカーの後藤がグングン二位に迫っていく。そして井倉の指さしたA組のアンカーは、小柄な女の子。後藤とは正反対だ。だが彼女もグングンと前を追っていく。結構速い。

「あの子って確か前原さんの席と近かったよな?」

「え?あぁ。知ってるのか?」

いつだったか、A組に遊びに行った時ぶつかって軽く言葉を交わした程度だけど。

 すると井倉は何故か嬉しそうに笑った。なんだ、こいつ。やっぱ変態だ。

 そして女子はD組が勝って終了した。次は俺達の番。入場の音楽がかかる。井倉は胸ぐらにあった俺の手を取って、そのまま握手の形にした。

「ま、お手柔らかに頼むよ。」

腹の立つ、嫌みな笑顔で笑うと井倉は歩き出した。俺と仲林も、ゾロゾロとグラウンドに入っていった。

 内側から外を見る。どの組の応援席も総立ちになっていた。そりゃ、男子クラスリレーが最後の種目だもんな。目玉!華!俺はC組を見た。さっき大健闘して二位でゴールを切った後藤を、辻本たち女の子が囲んで労っていた。ハイタッチをしたり、抱き合ったり、手を取り合って喜んでいた。それはどのクラスも一緒で、至る所で同じ光景が見られた。A組の彼女も、仲間にもみくちゃにされてる。

 「アンカーの人。」

係員に呼ばれて、俺達三年生は俺達のスタートラインに誘導される。AからG組までの三年生男子。そしてそれぞれ別々の色のたすきをかけて、体をほぐす。

 パァン!

 一年生がスタートした。

 リレーは各学年二人ずつ参加して計六人でバトンを繋ぐ。どの区間をどの学年が走るかその順番は自由だが、最初と最後だけは一年と三年と決まっている。その伝統は昔から変わらないらしい。

 リレーは混戦を極め、もう団子状態。何組が何位かここからじゃわかりゃしねぇ。誰かが集団を引き離せば誰かがそいつに食い下がる。その繰り返しでレースは進んでいた。

「・・・誰もバトンミスしないな。」

感心するように、井倉が言った。うん。みんなバトンパスがスムーズ・・・と言うか、ちゃんと渡してちゃんと受け取っている。・・・ってもう第五走じゃねぇか!トラックの反対側を走っている第五走のバトンを受け取るため、俺達はコースに着く。

 俺は第五走がやって来る道のりを見つめた。それはきっと俺達が今まで通った道。そして踵を返してゴールへ向かう道を見た。それはきっと俺達がこれから通る道。

 ワァァァっと歓声が上がって、俺はまた後ろを振り返った。もう第五走者はコーナーを回ってきてる。未だ団子状態のまま。

「誰が勝つか。」

「わかんねぇな。」

「あぁ。」

「負けないぜ。」

「こっちの台詞だ。」

「行くか。」

「おうっ!」

 このレースが高校生活だとして、その長い道のりの最後を走る俺達。

 このレースが人生だとして、その遠い遠い道のりを走り出す俺達。

 リレーされるバトンに乗った気持ち。渡す方も受け取る方も必死で、その手から手に何かを繋いでいく。それを線で繋いだら円になる。それはコミュニケーションの軌跡。きっと俺達はこれからも誰かにバトンを貰って、バトンを渡すんだろう。何度となく。

 俺達三年男子は、同時にその手に確かな物を受け取って前へ走りだした。


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