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奪還


「んっ……!」


「うぎゃっ!!!」


「おい、三人で一斉にかかるぞ!!」


 大槌を一振り一振り雑魚を蹴散らし吹き飛ばし、たった今も四人を消し飛ばして鮮やかに着地。やはり大槌は良い物だ。


 ギルドホーム奪還作戦はまあまあな調子で進んでいた。こちらの動向を予測していたのは流石に紅蓮連盟と言ったところだったが、詰めが甘かったなといった所で置かれていたのは雑魚ばかり。ただやたらと数が多いために順調とは行かず、団長みたいに範囲攻撃が得意なのはともかくとして私みたいな一対一を基本とする人間は数に若干圧されかけていた。


 陽動して主力を引き付けているのに流石は顎で遣うだけで人を大きく動かせる絶対主義物量主義のクソ共が、これじゃ陽動の意味が無いだろう、などと罵りを入れてみるがそんなことをしても変わるものは無い。寧ろこれは想定内だ。であれば私がやることはただ一つ。


「っぁ!!!」


 ひたすら目の前の敵を薙ぎ、潰し、散らす。何を考えるでもない至極単純なことだ。


「っと、クアイ! 大丈夫か!」


「ん、団長こそ……」


「俺は問題無いが、まあ皆がな」


 三方から飛びかかってきた奴らの攻撃を持ち前の低身長とフィジカルで避けてガンガンガンとリズムよく吹き飛ばした所で、風を纏った範囲攻撃で文字通り敵を吹き飛ばしていた団長が私の背後までやってきていた。

 やっぱり団長も周りが圧されているのには気にしていたようで、辺りを見遣っては歯噛みしている。


「数が多いから……仕方ない……」


「ってもどうにかしなきゃジリ貧だ。サラ達陽動部隊もいつまでも引き付けていられるワケじゃないしな……こうなったら」


「何か……あるので……?」


 流石我らが団長、ちゃんと何か対策を……と思っていたら奪還対象に向けて片方の大剣を構え始めた。


「あの、団長……?」


「なあクアイ、俺が少しここを離れても皆持ち堪えられると思うか?」


 続いて何やら意味深な言葉。これはもう……そういうことだろう。


「なんとか……多分、イケる……」


「おし、じゃあ早速だ! ……皆ぁ! 一旦退いててくれ!!」


 団長は自身とギルドホームの間の交戦中の団員らに対して退避するように言った。それを聞いた奴らは団長の構えで察したらしく、続々と相手の攻撃を受け流したり勢いに乗せて後ろへ跳んだりして退いていく。

 突然の戦線後退に相手側もおろおろして攻め倦ねているようで丁度良い隙が生まれる。


「行くぞ、『ウィンドブロウ』!!!」


 その機を逃さず団長は力強く技名を叫ぶ。瞬間、隣に居る私が吹き飛ばされそうな程の風が辺りで荒れ狂い、団長が突風のようにギルドホーム目掛け突き進んでいく。

 その光景の凄まじいこと凄まじいこと。指揮官らしき風格の男が何かを叫んで退避するように腕をバタバタと動かしているが時既に遅く、団長の目前に居た奴らは次々と撥ね飛ばされ、ある者は枝に刺さり、ある者は地面に頭から突き刺さり、またある者は地面と平行に飛んでボーリングの球のように仲間を弾き飛ばしていく。


「うわ……」


 思わず声が出てしまう程の阿鼻叫喚だったが、団長は意に介さずそのままギルドホームに突入する。中はトラップでいっぱいだろうが、まあこういう時の団長なら大丈夫だろう。


 さて、団長が何をしに行ったか、はっきり言われなかったがまあ自明だ。今回のギルドホームの奪還、という目標は具体的には石像の破壊と全体の制圧である。制圧に関しては丁度今までやっていたことで、もう片方は乗り込んでからやることだった。

 まあ要は団長手ずから単身乗り込みで石像破壊しにいったってことだ。罠だって張り替えられてるだろうし、一筋縄では行かないかもしれない。が、罠は発動すれど当たらなければなんてことないのである。それを可能にするのが我らが団長だ。きっと少し待てば吉報が入るだろう。


「な、なんだったんだ……」


「狼狽えるな! 敵の思う壺だぞ! 陣を立て直せ!!」


 さてさて、団長からは持ち堪えられるか、という話だったが見た所この時点で相手は先程の凄惨なアレを見てから隙だらけだ。

 それならば相手が持ち直してしまう前に完全に……。


「叩き……潰す……っ!!」


「ァがっ!!!」


 丁度近くでおろおろしていた敵の一人を不意打ちでフルスイング。そいつは元々ダメージを受けていたのと油断していたのもあってバラバラになって消滅した。

 一瞬辺りがしーんと静まり返ったが、クアイさんに続けと誰かが後ろで叫ぶのを皮切りに一転攻勢に出る。






 時間から言ってだいたい十五分ぐらいだろうか。また一人また一人と大槌を奮っていた所で大きな気配がすぐそこに現れるのを感じ取った。私は団長が上手くやったのだと直感した。


「やられた……っ!」


 騒乱の会の旗が上がり、ガコンガコンと外装が変わっていくのが目に見えた。ここからはこちらのペースから変わることはないだろう。悔しそうな顔をする敵の大将が勝ち目は無いと悟ったのか真っ先に逃げていこうとするのを見るや否や見るからに戦意を喪失し始め、残って戦おうとするなり逃げるなりしていた。


「できるだけ……捕まえろ……」


 私は近くに居た一般団員らに指示を出して捕虜を取る意向を示す。あちらがこうして物量で攻めてくる戦法を取るなら少しでも減らしてやるのが一番効く対抗策だろう。

 まあなんにせよこちらは最早後始末の状態で一先ずは片付いたことになる。案外さっさと行けたな、と思ったがだいたい団長一人の功績なんだからやっぱり団長は色々と規格外だ。


 規格外と言えば他に思いつく奴が二人居るが、あちらの戦況はどうなっているだろうか。 今回は情報部の後ろ押しもあるとはいえギルドホーム攻略において罠の場所なんかは奴らは殆どアテにならない。せいぜい牢獄の位置がどこかってぐらいか。まあ内部がどうなってるかわかるだけで助かるといえば助かるのだが。

 というかそもそもの話で敵の手に落ちたギルドホーム内に視線を張り巡らすなんてどうやってるんだ? そういうスキルやアイテムがあるんだろうが……そんなポンポンどこにでも設置できるとすれば私なんか監視されてたりしないか、そう思うと気味が悪くて身が震えてくる。


 と、話は逸れたがともかく的確なサポートがあればあの決戦兵器二人も上手く立ち回れるだろう。


『どうだー、クアイ。そっちはだいたい片付いたか』


 なんて色々考えつつ敵兵の捕獲に勤しんでいると、ギルドホーム内に居る団長から連絡が入った。


「ん……順調です、と……」


 今頃団長はギルドホーム内の残党の確認や捕まえられていた同盟ギルドの一般団員の救出作業を進めているハズだろう。それが終わり次第ここに警備の人員を割いてユズやハープの方に合流するか、或いはここで一旦待機して各部隊の状況を見るかする。

 あの二人の居る方も勿論心配だが、サラの居る陽動部隊も気にかけなくてはならない。とっくにあちらもギルドホーム襲撃の報せは受けているハズだからこちらの奪還が完了したら機を見て離脱する流れになるが、親玉らが出しゃばってきたら相当にマズい。奴のことだからそんなことしてきたら陽動部隊を捕虜にするでもなくそのまま強引に打ち破って本部まで攻め入ってくるかもしれないから。

 ……いや、訂正しよう。かもしれないとは言ったが恐らく出てくる。こちらの団長が前線に出てきてることを聞いたらあっちも乗じて出しゃばってくるのは有り得るからな。個人間の因縁というよりかはそういう性格だからな……カイアは。


『あっ、クアイ! もう片方も取ったみたいだぞ』


 そっちにも気を配るよう団長に提言しようとすると、丁度団長からメッセージが飛んできた。どうやらあちらも奪還成功したらしい。これで奴らの橋頭堡は潰せたから前線は再び初期位置に戻るだろう。


『はは、ハープちゃんが煮えを切らして突破口を開いて皆で突っ込んだみたいだな。なんでも『新技』ってことらしいが』


 団長からついでに送られてきた写真にはまだ外では戦闘中だろうのに、生え変わった石像の前に立って満面の笑みでピースしてるハープとどこか申し訳なさそうにしてるユズが写っていた。


『ともかく、これで本来の目的はほぼ達成だな』


 ほぼ、というからにはもう一つの目的、カイトの救出がまだ終わっていないのだろう。あちらには副団長が付いてるから簡単に失敗したりとかは無いと思うのだが……とりあえず報告が無いのは順調に進んでるか忙しくてそれどころかじゃないかだと思うので待ってるに越したことはない。


 まあこれで陽動部隊も完全に撤退できるだろう。派手に叩いた後、今頃はゲリラのようにあちらのギルドホームを叩いては退いてを繰り返しているハズだ。

 副団長の方は良いのか、と言えば確かにそうだが元々少数精鋭で派手にやらずこそっと遂行する感じな上、意図せずともギルドホーム奪還も陽動のように作用している所もあると思うのでそちらを隠すには既に充分な働きをしたのではないか。それに副団長のことだからもう殆ど作戦は完遂目前ぐらいだろう。


 ……さてさて、アレだけフラグを立てたんだ。別に来て欲しいとかそんなのではなく、嫌な予感がしてるからひたすら言及したワケで……まあともかく大抵こういう時の予感というのは当たるもの。実際陽動開始から充分な時間が経った。


『……そういえばだけどさ、クアイ。お前そういえばあっちの団長と知り合いだったよな』


 この語り口は、つまりそういうことではないか。


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