表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/7

第七話

 休日。

 アイリーンは再びクラレント家へ赴いた。


 侍女に案内されて向かったのは、陽当たりの良いサロンだった。

 扉を開けるとラルフがいた。


 先日と違い、きちんとした私服を着ていた。落ち着いた濃紺の上着。首元まで丁寧に整えられている。そして右手に、細い杖をついていた。


「よく来てくれたね、マーガレット嬢」

 微笑んだ。


「ごきげんよう。ラルフ様!」

 よし、今日はちゃんと声が出た。態度もアイリーンらしくできてる。


 二人で向かい合って席に着く。侍女がお茶を置いて静かに下がった。

 しばらくしてラルフが口を開いた。


「先日は……」

「ご、ごめんなさい!」

「えっ」

「あたし、あの時自分勝手なこと言っちゃって……」


 言いながら自分でまた恥ずかしくなってきた。

「あんなはしたない事……ごめんなさい」

 しゅんとしてしまった。令嬢らしくない。わかっているが先に言っておかないと落ち着かなかった。


「謝らなくていい」

 穏やかな声でラルフが言った。

「むしろ……あの言葉で、目が覚めた気がしたんだ」

「え」

 アイリーンは顔を上げた。


「私は、ずっと自分のことばかり考えていた。騎士団に戻れないこと、これからどうするか、自分が、自分が……と」

 ラルフが静かに続ける。

「でもふと気づいたんだ。オルガのことをちゃんと見ていなかった、と」

「オルガ様を……?」

「オルガは私に気を使ってくれていた。ずっと私の事を心配してくれていた。それなのに私は自分の事ばかりで、オルガを見ようともしなかった」


 ラルフは少し目を細めた。弟を思う顔だった。

「マーガレット嬢の言葉がなければ、ずっと気づかないままだった。だから……ありがとう」


 まさかお礼を言われるとは思っていなかった。

「あたしは、ただ思ったことを言っただけで……」

「それが嬉しかったんだ」

 ラルフが柔らかく笑った。

 アイリーンは視線をカップに落とした。


 (ずるい)


 そんな顔で笑わないでほしい。平静を保てる自信がなくなってくる。


「そうだ、最近、リハビリを始めたんだ」

 ラルフが続けた。


「騎士団に戻るのは……難しいと思う。でも君が言ってくれたように今まで積み上げてきたものは、形を変えれば活かせるかもしれない。貢献できることを探してみようと思って」


 杖をそっと見下ろした。

「まずは自分の足でちゃんと歩けるようになることから始めたんだ」


 その言葉は自嘲ではなかった。静かに前を向いている人の顔だった。

 アイリーンはじっとその横顔を見た。


 (ああ……やっぱり好きだ)


 ゲームで追いかけていた頃とは違う。画面の向こうの推しに向けていた気持ちとも違う。もっと近くて、もっと切実な何か。


 格好いいとか、尊いとか、そういう言葉では追いつかない。

 ただ、この人のことをもっともっと知りたいと思った。


 ラルフがわずかに躊躇うような間を置いた。


「……一つ、お願いがあるのだが」

「なぁに?」

「リハビリを続けて、もう少しスムーズに歩けるようになったら」


 少し視線が揺れた。珍しく迷っているような顔だった。


「よければ……一緒に出掛けてほしい。城下でも、どこかの庭園でも。気晴らしに付き合ってもらえたら」


 アイリーンは満面の笑みで答えた。

「もちろん!」


 ラルフが少し目を丸くして、それから柔らかく笑った。

「ありがとう」

「こちらこそお誘いありがとう! 楽しみにしてるわ!」

 完璧な笑顔で言った。


 侍女がお茶のお代わりを注ぎに来て、アイリーンは礼を言って受け取った。

 カップを口に運んだところで、ふと気づいた。

 (……待って)

 ラルフと二人。城下か庭園に。

 (それって)

 お茶の味が全然わからなかった。

 (デートじゃん……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ