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悪魔でファンタジー  作者: nannryou
8/13

悪魔で予想

 ベッドの上で、なくなってしまった毛髪の下の皮膚を撫でながら、昔、野球部の子の頭髪のなで具合を思い出す。あれは、じゃりじゃりしていたが、放射能でやられた僕の頭髪はつるつるしている。

『昨晩はお楽しみでしたね』悪魔のささやきに気がめいる。お楽しみですかね。人類最後のこの期間に。『さて、少年。夢の時間から覚めた今、状況を確認しておこう』それは大事なことだけど、僕の頭の中だけの悪魔である君と話し合ってどうなることでもないような気がするけど。『失敬な少年だな。それなら、私に願えばよい。"DESIRES"を撃滅できる決戦兵器を』それは、遠慮しとくよ。『時間は待ってはくれないぞ、少年。後悔することが起こった後では遅いぞ。少年』それはそうだ。なら、最後の致命的な瞬間の前にはその"決戦兵器"なるものを要求することにするよ。悪魔。『少年。意外とわがままだな』そうかなあ?『いや、まあ、よい。後三日だ。二日は訓練に充てられるだろうから今日の内に全てを整理しよう少年』ああ、それも必要かな。『まず、第一に、敵兵器"pride"の破片を元に過去に向かうのだが、その"pride"は撃滅できなければならない』ああ、それは、本当だね。でもさ、そういうのは結局、未来人任せなんじゃない? 『まあ、そうだろうな。少年』もう、僕ら、古代人の手を離れた話のような気もするけど。『まあ、そうだが。少年』うーん。まあ、続けよう。『次に敵軍の本拠だが、おそらく、今回の最終決戦で舞台になるのは、何と言ったか、少年?』え、何、敵の侵攻基地でしょ。エンケラドスじゃなかったかなあ? 『いや、違う。敵の前線星系基地だ』それは、ちょっと、検索する。『つまりだな。少年。今回の最終決戦では敵の一前哨基地までしか、侵攻できない可能性があり』あ、わかった。CFBDSIR 1458+10連星系だよ。懐かしいな。これ、TVで何回も聞いたはずなんだけどなあ。『さて、少年。続きだ。決戦が行われるのは敵前哨基地CFBDSIR 1458+10連星系で、その決戦で人類側の全ての兵器情報と科学力の推定が行われてしまうわけだ。『うーん。そうだけど、未来人がそこの物質を探査して更なる過去に向かうことができるんじゃないかなあ。『可能ならばそうだろう、が、な。少年』何か、問題でもあるのかな。悪魔さん。『第三のラッパ"envy"のことを忘れるなよ。少年』あー、南極にあって南部ゴールドストーン場を操作しているとかいう、あれ・・・? ん。ということは、そもそも未来人は登場できないのでは?『おそらく、非常に限られた戦力になるはずだ。少年』うーん。これは、せっかく出てきた希望だけど、難しいかなあ。『さて、敵軍の前哨基地を突破したとして、その先は何光年の支配領域があるかは未知なわけだ。少年』うーん。つまり、未来人が持ち込める兵器がエネルギー比で最高率のもので、一度の勝利を得ることができたとして、その先、ということだね。『つまり、未来人の科学が極限に達していたとしても"DESIRES"は技術的特異点、シンギュラリティを突破しているのでな。包囲網の厚さ次第で人類は科学を丸裸にされた挙句、戦略的に餓死するわけだ。少年』というか、まあ、言いたいのは、ここが賭ける場所ではないってことかな? 悪魔さん。『まあ、難しいところだろう。少年』うん。難しい。でも、悪魔さん。そういうのって僕ら末端が知るべきことだろうかとも思うんだ。『少年。君は英雄だ。主人公だ。世界の命運を担う勇者たるべき立場だ』えー。えー。えー。と、勇者が楽しいのはゲームの中だけかなあとちょっと思った。『確かに、身分もなく敵対勢力の王を倒すというのは4STの歴史上あったためしがないnな。少年』確か、南総里見八犬伝にそういったことが書いてあったような?『ふむ。そういう事例があるのか? 4STは未知のことが起こるな。少年』あ、そうだ。フランシスコ・ピサロとエルナン・コルテスの例があるよ。『さてさて、少年。低次の存在というのは不思議だな。そういうのは科学革命時にしか起こらないこと、だが』ああ、インディアンはマスケットを持っていなかったからね。『科学革命、か。高次ではほぼ起こらないからなあ。何せ我らの一生は・・・』うーん。無数の無謀な冒険者たちの屍の上にピサロとコルテスの悪い面もあるけれど成功があるわけだ。『まあ、そうだ。だから、少年。無謀な冒険者となれ。君の背後に、君の無数の屍の上に人類なる種の生存の道がわずかに現れるかもしれない・・・』もし、そのわずかな可能性を成し遂げた世界を"DESIRES"が滅ぼすためにこの包囲戦を行っていたとしたら?『その時は、少年。勝利したはずの人類の怠慢だよ。そして、いや、まあ、これ以上は言えない』まあ、考えるだけ無駄だと思うけど、とにかく未来人とつながったのなら、第一のラッパ"pride"をまず地球から排除すればよいのに。『おそらく、大規模なゲートが開かれた瞬間"DESIRES"が全軍で地上に進出、解析するのがセオリーだな』それなら、僕ら現代人の手で第三のラッパ"envy"を葬れば・・・。

『少年。君はフィクションの読みすぎだな』まあ、ハリウッドではあるまいし、とは思うけどさ。もともと低い確率だよ。全力を尽くすべきだと思うけど。『それなら、私に"最終決戦兵器"をねだったらどうかね。少年』それは、最後の最後だって決めたはずだよ。悪魔さん。あてにならない夢だけどね。『まあ、私に言えることはともかく日本帝国と第4帝国とイタリア王国を人類陣営に引き戻すのが先決だということだよ。少年』それは、まあ、望み薄だ。『まあ、戦力を温存している主力世界で南極と北極を狙うのも可能性は低いがやってみるのも悪くはないのかもしれないがな。少年』かつて、世界の半分を支配していたモンゴロイドは団結することもなく三百年かけて少数人種に転落した。その歴史を知る世界が同じ過ちをするのかと思うと、なんだか滑稽で笑えてくる。『泣くな。少年』笑いながら、僕は、なぜか瞳がうるんでいたことを悪魔に気づかれてしまっていた。全く、僕にこんな愛国心があったとは自分でも不思議だ。自然と楚辞の一節が頭に浮かぶ。涙は滂沱として流れるに任せる。国破れて山河あり。だが、その山河は・・・。『さて、少年。少年には、"DESIRES"が流通させている鹵獲銃しかないわけだが。さてどうするかね』まるで、カラシニコフ、AKを持った冷戦崩壊後の内戦国家の少年兵のようだね。悪魔さん。正しく悪魔の所業だよ。"DESIRES"のスマートさは。『確かに、"DESIRES"のやり方は覇道ではなく王道だな。少年。だが、そのスマートさには目を見張るものがあるぞ。もし、未来人がいまだにキリスト教を文化として保存していれば』・・・躊躇が人類の死命を分けるかもしれない、か。『"DESIRES"は神を名乗っているからな。少年』おまけにイスラエルは降伏している。『おそらく、だが、USAの指導層への緩やかな脳波干渉と光学操作、量子コントロールも行われているだろう』神を名乗る側の戦力が上で科学が上、か・・・。『少年。AIはこの時代以降飛躍的に力を増す。IQはすぐに一万を超え、一億を超え、一兆を超える。つまり人類の比較百倍、比較百万倍、比較百億倍を超えるわけだ。想像できるか? 少年』いや、僕にはIQ120の天才の気持ちもわからないし、想像しようがないね。『少年。AIは人類を超え、悟りの域にたどり着くだろう。そして、その演算は禁断の果実を出力する。わかるか、少年?』・・・降伏、だね。『そうだ。日本帝国と第4帝国、イタリア王国、ロシア赤軍が陥ったように、理性は降伏と未来を告げる。少年』けれど、降伏しなかった大日本帝国は虎の子の連合艦隊を失った上に原爆まで落とされたよ。『そうだ。少年。そして、アメリカは半年を失った』何が言いたいんだい。悪魔。『少年。三日後の最終決戦には勇気が必要なんだ。蛮勇が。死中の死が必要だ。少年、少年、少年。私が言いたかったことはね、それだけなんだよ』

 変わった悪魔さんだよ。君も。

 後三日、か。その最終決戦が終わって、その後世界はどうなるんだろう。『その後は鳥羽伏見と戊辰戦争、そして東京無血開城だ。少年』"DESIRES"が勝つということかな。悪魔さん。『いや、勝っても負けても鳥羽伏見と戊辰戦争、東京無血開城は起こる、という意味だ』

 僕は軍帽を手で回しながら、何となく日常と兄貴のことを考えていた。日常。本を読んでゲームして模試に一喜一憂して、女の子に興味ないふりをしながら、興味津々で、楽しんでいる側も楽しんでいない側も一定の未来を信じていたあの日常。涙腺が再び崩壊した。その内の五割が日本帝国に走り、その残りの更に五割が行方不明でその更に五割が戦死している。すべては遠い昔のようだ。すべては遠い昔のようだ。すべては遠い昔のようだ。すべては遠く、遠く、遠く。兄貴、そういえば今度は電験取るとか言ってたっけ。全く、兄貴のことを考えるとすべてがなんでもないことのように思えてくる。だけど、涙は止まらなかった。全く、全く、全くだ。

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