36.蜘蛛は朽ち、魂は空へ
本日(9/3)21回目の更新
宜しくお願い致します。
カラメルの放った一撃は辺り一面を破壊し尽くし、砂ぼこりと水蒸気で視界が悪くなっていた。
いつまでもこの視界の悪い中にいて奇襲されても面倒なので、氷で巨大な扇子を作り身体強化を利用して視界を一気に晴らす。
晴れた視界の中、警戒して立っているカラメルと下半身と左半身が吹き飛んだ土蜘蛛の姿があった。
土蜘蛛は意識を失っているようで、攻撃はおろか肉体の再生も止まっている。
「《太陽の女神》が当たる直前、自分の足元の地面を泥化して衝撃を逃がしたな。それに恐らくもう一体の討伐対象だろう別のキメラが割り込んできて直撃は免れたみたいだ」
「盾になるよう強制したってところかな。一応、再生されないように傷口は凍らせておくよ。既に焼かれているようだから意味はないかもしれないけどね」
「生かしておいても危険だろう。今ここで終わらせるべきだと思うが」
「う~ん、そうしたいのは山々なんだが、いまだにコイツがここに来た理由が分からないんだよね。蜘蛛型のキメラが確認されたのはつい最近の話、つまり何か目的があってここに来ていた可能性がある」
「目的、目的か……私はこの辺りに詳しくないから分らんが、傭兵を襲っていたことと何か関係があるんじゃないか?」
「傭兵……あっ、救出対象の傭兵を探さないと」
「それに関してはもう解決したみたいだよ」
そう言ったカラメルが促す方向に顔を向けると、此方に向かって歩いてくる一人の男が見えた。
あの無精ひげ、間違いなくアルという傭兵だろう。
傷を負っているようだが、生きていて良かった。
「そいつはもう再生しねぇのか?」
「意識を取り戻したらするかもしれないが、もう魔力も殆ど残っていないだろう。最期に情報を吐かせたら浄化して祓うよ。というか先に傷を治すよ、カラメルも負傷してるじゃないか、特に右足。一気に治すから不調があれば言ってくれ」
二人同時に《回復魔法》を掛け、傷を治して体調を全快に持っていく。
特にアルの傷が酷かったが無事傷跡も残らず完治できた。
「グウィ……俺と一緒にいた傭兵は無事か?」
「そっちも問題ない。既に街に入っているし大した怪我もなかった」
「そうか。今回は助かった、礼を言う。それと重ねて謝罪がしたい。あの時、ガキ扱いして悪かった」
「ふふふ、素直なことはいいことだ。でもなんだって急に? グウィの頼みを聞いたからかい?」
「あの化け物相手に戦って無傷なのを見たら嫌でも理解させられるっての」
「違いない」
「おい二人とも、土蜘蛛が目を覚ますぞ」
全員が即座に戦闘態勢に移行する。
「私が質問しても構わないかい?」
私の確認に二人は無言で頷き了承する。
少しして、土蜘蛛が眩しそうに目を細めながらも、意識が戻ったのが見て取れた。
土蜘蛛は私の顔を見ながら少し思案して、何かに納得した様な表情で語りかけてきた。
「あなたが、私を殺してくださったんですか?」
その言葉を聞いた私を含めた三人に僅かな動揺が走る。
まだ情報が何も聞けていないが、緊急事態なので尋問をただの質問に切り替える。
「君の名前は……土蜘蛛であっているかい?」
「いえ、私の名前はウルと言います。土蜘蛛は、後からこの肉体に入れられた魂の名前です。調子が良ければ少しの間だけ自我を取り戻すことが出来るのですが、またすぐに土蜘蛛の意識が戻ってしまうためどうしようもなく」
一つの肉体に二つの魂。
やはり《封緘》が機能しなかったのはそこがネックになっていたんだろう。
「そうか、ではウルさんと呼ばせてもらうよ。ウルさんには悪いが、取り急ぎ話してほしいことがある」
「土蜘蛛の目的、ですよね。土蜘蛛が行動している際は意識が沈んでいるので詳しいことは分かりませんが、この辺りにいる強者を狩ることが目的だったのかと思います」
「強者を? なぜこの辺り限定何だい?」
「そこまで詳しくは……ですが仮面の男が何やら失敗したらしく、その邪魔をした何者かを狩るために土蜘蛛が放たれたのかと。土蜘蛛は己がツクモという男の最高傑作であると誇示するためによく強者を殺して回っていたようですし」
「ちょっと待った仮面の男ってもしかして、ギギラとかいう名前だったりする?」
「……っ! そうです! ツクモという研究者が死んでからはそいつが土蜘蛛に仕事を持ってきていました!」
点と点が繋がっていくが、私にとっても重要な情報が出てきた。
ツクモとかいう研究者がアナスタシアを改造し、私をこの体に入れ込んだのは土蜘蛛の情報からも確実だ。だがまさかそのツクモがすでに死んでいると誰が予想できただろうか。
若干動揺してしまったが、知りたい情報は手に入った。
後はウルさんを浄化して天に還すだけだ。
「ありがとう、ウルさん。ギギラに会ったら必ず報いを受けさせるよ」
「こちらこそ、有難うございます。欲を言えば、もっと生きてみたかったのですが土蜘蛛がいる限り不可能ですし、一度死んだ人間がまだ生きたいと願うのも、わがままですよね」
「わがままなんかじゃないさ、普通のことだよ。悪いのは君を殺し、利用した奴らさ」
死後まで縛られて利用され続けるなんて地獄、やった奴らは当然許すことは出来ないし、利用されたウルさんには幸福を掴んで行ってほしい。
「空……綺麗ですね。暫く地面しか見ていなくて、…………本当に綺麗です」
「そうだ________んん?」
ウルさんの見ている空を目に焼き付けようと空を見上げると、何処かで見た鳥が上空を旋回していた。
此方がその存在に気づいたのが分かったのか、その鳥__アヌビス・オウルはウルさんを挟んで、私の正面に降り立った。
「ア、アヌビス・オウルっ……! 夕方でもないこの時間帯に活動しているのはかなり珍しいぞ……っ! 」
何やらカラメルがテンションが上がってしまっているがスルーしておく。
「あら、可愛い……梟さんですか? ふふっ、初めて触りました」
アヌビス・オウルはウルさんに撫でられ気持ちよさそうに鳴いてから、額の紫紺の水晶を発光させた。
「これは……」
紫紺の水晶に呼応するように、ウルさんの身体も発光し始め、光は水晶へと流れ込んでいく。
あの光は恐らくウルさんの魂だろう。アヌビス・オウルが死者を導くという話は本当なのかもしれない。
光が全て水晶に吸い込まれると、アヌビス・オウルは羽を広げ此方を見つめていた。
「もしかして、この間のお礼をしようと付いてきてたのか?」
その問いに、アヌビス・オウルは短く鳴いて答える。
この間森を出た時に感じた視線はコイツのものだったらしい。
アヌビス・オウルはそのまま飛び立ち、どこまでも青く澄んだ空へ姿を消した。
「さて、さっさと街へ戻ろうぜ。よく分からんがまだそん中に土蜘蛛とかいうやつの魂が入ってんだろ? 情報は履かせたしもう用ねえだろ」
「いや、ここで始末してしまった方がリスクは少ないし妥当だろう」
「取り敢えずギルドの判断を仰ごうか。今回だって正式に依頼を受注したわけじゃないんだし」
ロメリアのこともあるから早めに街に戻っておきたいということもあり、私達は今回の一件についての反省をしつつ街へ戻ったのだった。
*
私の視界は梟さんと繋がっているのか、空の上から地上の様子も見渡せた。
自分を解放してくれた人たちが遠ざかり、見えなくなるまで感謝をし続ける。
視線を上げると、今まで生きてきた中でも見たことが無い景色が眼前に広がっていた。
何処までも、何処までも広がっていく美しい景色。
もう体は無いはずなのに、涙が溢れる感覚がある。
生まれてから死ぬまでに、したいことはたくさんあった。
父や母はまだ存命しているだろうか。
先立ってしまった申し訳なさもあるが、今はこの景色を見せてあげたいと思う。
何処までも、何処までも広がる大地。
朝日が葉の朝露に反射し輝くような、そんな光をたくさん集めたような、キラキラと目を焼く雄大な海。
そのずっと奥の景色は未だ見えないけれど、きっと待っているのは見たことのない綺麗な景色なのだろう。
私の行く先も、きっと____
残り閑話一話!ヨシ!
読んでいただきありがとうございました。
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