34.ツクモの手帳
本日(9/3)19回目の更新
宜しくお願い致します。
目の中に入ってくる砂ぼこりが不快だが、目の前に広がる、自らが放った魔法の結果を見れば気も晴れる。
先程まで傭兵の男で遊んでいたが、途中で看過できない気配を感じた。
あの人の匂い。
失われたはずの、忘れるはずもない匂い。
匂いの元は、要塞跡の中にいると感じ取ったあとの行動は早かった。
探すのも面倒だし、あの人に関わる人がこの程度で死ぬわけがない。
だから私は要塞跡に特大の魔法をぶち込んだ。
《土魔法》、私の持つスキルの一つであり、あの人からっ授かった最初の繋がり。
さて、匂いの元とあの人との繋がりは如何程か。
私よりも愛されている作品は存在しないだろうが、もし、もし私よりも特別な作品なら、確実にバラバラにしてすり潰して廃棄してやる。
目の前の瓦礫、その一部が跳ね跳んだ。
中から姿を現したのは二人の女。片方はまだ子供だ。
さあ、コイツらは一体何なのか。
確かめるためにも私は前に一歩踏み出した。
*
要塞が崩れる瞬間、私はロメリアを《封緘》で回収し、《氷魔法》で自分を中心にドーム状の氷壁を形成した。
氷壁の上に瓦礫が降り積もるが、その程度では氷壁にはヒビすら入らない。
「今の魔法、見えたかな?」
「ああ、打ち込まれたのは岩の砲弾かなにかだね。凄い威力だ」
「なんにせよ助かった。私は何かを守るような戦い方はできないからね、ロメリアが巻き込まれたら一大事だったよ。……ロメリアはどうしてる?」
「大丈夫、私のスキルで創り出した空間でゆっくりしているよ」
「そうか、なら遠慮はいらないな。さっさと脱出してこれをやった奴にお返ししてやろう」
「了解だ。一、二の、三っ!」
氷壁を消すと同時に、私とカラメルの蹴りが瓦礫を吹き飛ばす。
また瓦礫で埋まらないよう脱出して、敵を視界に収める。
一目見て分かった。
アレは今までこの世界で見てきた敵の中でも別格だ。
上半身は獣人の少女。イヌ科の生物が混じっているとみて間違いないだろう。
そして下半身は巨大な蜘蛛の体。
恐らくアレが蜘蛛型のアンデット。今回の討伐対象の内の一匹で確定だ。
もし違っても蜘蛛型のキメラは狩っておくに越したことはない。
彼方も一歩前に出て戦う気は満々の様だ。
「来るぞ」
「カラメルに合わせる。好きに動いていいよ」
「分かった。様子見はせず一気に行く」
私達はほぼ同時にキメラへ接近するために地面を蹴る。
しかしキメラは予想に反し、私達のいる方向とは逆の、後方へ飛び退く。
「《マシンガン・ロックバレット》」
放たれたのは岩の弾丸。要塞に打ち込まれた岩弾よりだいぶ小さいが、物量が違いすぎる。
正に弾幕と言って良い程の圧倒的物量が私達の目の前に展開された。
「氷壁」
岩弾と私達の間に氷壁を展開する。
瓦礫を防いだ時とは違い、流線型の氷壁を形成して受け止めるのではなく軌道を変えて受け流す壁としてイメージした。
それにしても重い。逸らしているだけとはいえ一発一発が氷壁に当たるごとに衝撃が伝播してくる。
時間にして十数秒程弾幕は放ち続けられ、そのたびに魔力で氷壁を補修して凌ぐ。
弾幕が止み、相手の位置を確認して氷壁を解除する。
キメラは追撃をしてくるかと思ったが、何を考えているのか立ち止まって此方を見ていた。
理由は分からないが、此方に待ってやる義理は無い。
「お返しだ」
イメージするのは氷の弾丸。カラメルもいるので数は一発のみだが、一工夫しておく。
魔力による氷塊の圧縮での高度上昇、回転追加による貫通力の上昇、そして着弾時のことを考え氷塊の温度を極限まで下げる。
カラメルは手持ちのモーニングスターに炎を纏わせ一閃し、キメラの身体を上半身と下半身に引きちぎる。
私はカラメルの攻撃に合わせ、キメラの頭部へと氷塊を射出した。
射出した氷塊は吸い込まれるようにキメラの頭部へと着弾し、その頭を木端微塵に消し飛ばす。
仕留めたかと見定めていると、地面がひび割れ、まるで開かれた口のように岩の牙が出現し、カラメルを噛み砕こうとする。
しかしカラメルもその程度でやられる者ではなく、岩の牙を難なく躱して私の元に戻ってきた。
経過した時間はその程度、せいぜい十秒かそこらだったのだが、キメラは既に体の修復を終えていた。
「なぁるほどぉ? 直にヤッて嗅いで理解した。お前だろ、ちんちくりん。ツクモ様に関係しているものがあるなら差し出せ。今ならまだ降参すれば生かしといてやるからさ」
……ツクモ様? ツクモ、ツクモ? ……思い出せない。
絶対に私の記憶にない。
「いや、知らない人だね。ツクモさんとやらと私は面識がないと思うんだが」
「なら最近何か拾わなかったか? 例えばどっかの研究所とかでさぁ」
「あ、もしかして手帳?」
研究所と言われてピンときた。恐らくこのキメラがツクモ様と呼んでいる男は、アナスタシアの身体を改造した男と同一人物だ。
現に手帳を取り出すと鼻を鳴らし興奮した様子で此方を凝視している。
「そ、そ、そ、そそそれは手帳か!? ツクモ様の手帳か!? レア物だ! それよこせ!」
「その必要はないね」
「あ?」
「だってどの道君はここでリタイアだ」
言い放った瞬間、相手の目が座る。
手帳を寄越さなかったのが余程気に入らなかったらしい。
戦いの火蓋は、再び切って落とされた。
あと少し。更新もう少しだけお付き合いください。
読んでいただきありがとうございました。
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