26.釣果、戦闘神官
本日(9/3)11回目更新
宜しくお願い致します。
スクリューの街、港街の要である船着き場で私は腰かけて釣りに興じていた。
何やら漁業権がどうのと説明書きがあったが、子供の遊びと見逃されている。
手慣れたように釣竿を握りすました顔をしているが、実は私は前世で釣りを一度もしたことが無い。
霊園の近くに釣りができるような場所が無かったということもあるが、そもそもカナヅチで水辺に近づかない男だった。アンデットは水辺に滅多に近寄ってこないので、前世では水辺で戦闘する羽目にならなくてよかったと思う。
この世界に来てから移動中でさえもまともに休憩をとっておらず、釣りをしているとはいえ動かずにぼ~っとするような時間は久しぶりだ。
思えば年老いた後もせかせかと動き回っていたような気がする。グレイクロスはさぞ心配したことだろうと、今更ながら申し訳なさと懐かしさが胸に訪れる。
「釣れないねぇ……」
一時間程経過して釣果はゴミや海藻ばかり。また捨てるのも気が引けるので《封緘》回収して再び竿を振る。
水平線を眺めつつ、先程の傭兵ギルドでの成果について思考を巡らせる。
アンナとの世間話が終わり、素材売却と依頼の達成料金が支払われ、その後私の傭兵ランクの昇級が行われた。
ギルド職員が私たちを呼びに来た時点では既に昇級は済んでおり、そのあと簡単に個人識別証カードの更新しただけで終わった。
それとギルドでのアンデットの扱いについて聞いてみたところ、基本的にアンデットの死体が持ち込まれることはほぼ無いそうだ。《封緘》が便利すぎて失念していたが、素材や討伐証明部位を持ち帰るだけでも嵩張るのに腐った死体や気味の悪い骨をわざわざ持ち帰る人はいないだろう。
偶に依頼の討伐証明部位として持ち込まれたものも素材としては扱われないので、ゴミと共に焼却されてしまうようだった。
どうやらこの世界、アンデットに対して浄化を行い天に還す習慣が無く、ただ動けなくなるまでバラバラにするか魔法で消滅させるかしかしないらしい。
他の国のことは分からないが、少なくともこの国ではそういった習慣は無いようだ。
それにしてはゴーストなどの肉体を持たないアンデットを全然見かけない気がするが、何か私が知りえない仕組みがあるのだろうか。
考えても答えは出ない。
私が唸っていると後方から誰かが声を掛けてきた。
「釣れているか?」
「いいえ、全然釣れませんよ」
ゴミや海藻は回収済みなので、さも釣り始めたばかりという雰囲気を装いながら、声を掛けてきた人物の方に顔を向ける。
そこにいたのは白を基調とした鎧を身に纏った長身の女性で、鋭いライトブルーの瞳が私を見下ろしていた。
女性は私の隣に腰かけ、海の方を向きながら口を開く。
「私はアヴァロメル聖国の戦闘神官、カラメルだ。よろしくな」
「私はブラックドッグ、先日傭兵になったばかりだが、よろしく」
はて、アヴァロメル聖国、戦闘神官……全然知らないはずだが何処かで……。
そういえばこの街に入る前に殴り掛かってきた傭兵が確かそんなことを……ああそうだ、聖国__《鎖縛》の勇者がいる国だ。思い出せた。
「聖国はこの国の近くにあるのかい?」
「君はあまり地理に興味がないようだね。自分の国の周辺国位は把握しておいた方がいいと思うぞ。聖国は他の国と比べてもダントツで遠いかな。なんせ大陸の反対側だしな」
「そんな遠くからこの街に何しに来たのか聞いても?」
「簡単だ、私はアンデットを滅するためにここへ来た。正確にはこの国の南端、ハイテ村辺りまで行く予定なんだ」
わざわざ遠方から、アンデットを滅するためだけにハイテ村まで? 理由は不明だが、嫌な予感がする。
「今から約半年前かな、ある予言が最高位司祭からもたらされた。内容を簡潔にまとめると、この国の南端で強力なアンデットが目覚めるというもので、その調査・討伐に私が選ばれたという訳だ!」
……へぇ、ハイテ村付近でアンデットねぇ。
強力なアンデットかぁ。そっかぁ………………って私か!?
ハイテ村周辺にアンデットはいたが強力というほどではない。バルガは強かったが正確にはアンデットではないし、何より目覚めるというワードが私の目覚めと繋がっている様に思えてならない。
目の前の少女が急に死神のように見えてくるが、ハイテ村へ向かうのならばその間に船でおさらばできる。
バレなければいいか。
目の前の女性には悪いが、バレたら殺されるとあっては仕方がないだろう。
話せば分かってくれるようなら、正直に話して私が眠りに就くための手伝いをしてもらってもいいかもしれない。
「それで? わざわざ私に声を掛けたのは、カラメルの目的と何か関係があるのかな?」
「うーむ、簡単に言うと情報収集だな。先程ギルドを尋ねてアンデットに関する情報を集めていたんだが、奇しくも同じようにアンデットに関心を向けている人物がいたと聞いてね。一応話を聞いておこうと、こうして君を尋ねたという訳だ。どんな些細なことでもいいから、何か聞かせてくれると嬉しい」
「最近なら……蜘蛛のキメラがこの辺に出没しているくらいだね。出現理由が不明だからもしかしたら関連性あるかもしれないね」
アンデットの情報ではないが、どんな些細なことでもと言われると、何もないと答えてしまうと違和感を持たれるかもと疑ってしまう。
正しい情報を出しつつ白を切る方向で。
「そうか……ありがとう! 私は明日の朝この街を出立する! 何か気になることや思い出したことがあれば『宿屋 潮風』を訪ねてくれ。話を聞いてくれてありがとう! では!」
「はーい、またいつかー」
カラメルは立ち上がり簡単に挨拶をすると、颯爽と街中の雑踏へ姿を消した。
終始和やかに話は進んだが、私がなぜアンデットに関心を持っていたのか聞いてこなかったのは気になった。
あえて聞かなかったのか、忘れていたのか、どちらかは不明だがとりあえず危機は去ったため安堵の息を吐く。
私もこれから来る夜に備えようと釣竿を引き上げると、針に掛かっていたのは海藻の絡んだ木材だった。
もう二度と釣りはしないと心に誓い、私は船着き場から撤退したのだった。
一日二食生活を脱却せねば。あと野菜たりてないや。
読んでいただきありがとうございました。
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