17.とある男の分岐点
本日(9/3)2回目更新
新章です。
宜しくお願い致します。
ハイテ村を出発し約二日、私は休まず歩き続け、ついに巨大な城壁を視界に収めた。
「あの城壁の向こうが、港街スクリュー」
ここに来るまでに小さな村が幾つかあったが先を急いでいるためスルーしていた。
あったことといえば、スクリューからハイテ村のある南方面へ向かう商人と出会い、この港街に関する情報などを貰った。
商人は護衛を雇っていたが、盗賊に対応しているところに運悪く魔物が集まってきてしまい、対応が追い付かなくなっていた。そんな時に偶々通り掛かった私が加勢して窮地を脱したため、そのお礼に情報などを教えてもらったというわけだ。
ちなみにその盗賊は別の国との国境辺りから南下してこの辺りの村まで来たようで、その理由は商人への奇襲でミスをして、アンデット化した商人に逆に追い払われたのだとかなんとか。実に自業自得で、話を聞いていて吹き出してしまった。
なんでもスクリューは海に沿うように半円状に広がる港街で、海を越えた向こうにある別の国と商船を行き来させているらしい。また船は一般人は利用出来ず、例外は貴族や護衛として同乗する傭兵のみだそうだ。もちろん王の勅令などは特例となるが。
そんなことを考えていると、街の方から一人の男が街道を通って此方に向かってきた。
まだ早朝であることを考えると、傭兵か何かだろうか。
もちろん敵対する理由は無いので、挨拶をして男の脇を通り過ぎようとした。
だが男は急に立ち止まり、顔に驚愕を張り付けて此方を、私の顔を凝視する。
「どうかしまし__っ!!」
声を掛けようとしたが、男は瞬時に間合いを詰め、その勢いのまま右ストレートを放ってきた。私は対話を一旦諦め、とりあえず回避を行う。
相当速い打撃だが、まだまだ対応圏内だ。
男の腕の側面を捉え、最小限の動きで攻撃をいなす。
ハイテ村で負傷した右腕は既に完治しているが、特に戦う理由も見当たらない。
私は反撃はせずに少し距離を取り、相手の事情についての探りを入れる。
「随分と乱暴な挨拶だね。君とは初対面のはずだが?」
「……」
数秒、互いに沈黙。
男は何かを確かめるように再び私の顔を見つめた後、戦闘態勢を解いた。
お互いの距離はそのままに、男は話し掛けてくる。
「悪い、知り合いに似ていてつい、な。だけどそいつはあんたみたいな動きは出来ねぇし、何より目が全然違う。マジで人違いだったみてぇだ」
「その知り合いさんだったらどうしていたのかな? 私でなければ回避出来ずに殴られていたと思うのだがね」
「ハッハ! まぁ良いじゃねぇか。そんなことより、お前さん俺と結婚しないか?」
「…………はぁ?」
この男はやはり頭がおかしいのではないか。
いきなり同性にプロポーズされても答える気は更々無いが、この男の感情の振れ幅にはただただ困惑する。
「それはまた唐突だね。理由を聞いても?」
「強いから」
返答は簡潔で、シンプルだった。
「俺が強い女が好きだからだ。お前さんの動きは俺の想像以上、それにまだまだ先があると見た。その強さに、一目惚れだ。さあ、お前さんの答えを聞かせてくれ!」
「すまない。私は男に興味が無いからね」
この手の輩にはハッキリと自分の主張を突き付ける必要がある。
まぁ、ストレートに思いを伝えるのは好感が持てるが、それだけだ。
「残念! それじゃあ諦めるしかねぇな。俺はこれから国を出るが、縁があればまた会えるだろうさ」
男は振られたにも関わらず、何処かほっとしている様にも見える。
「国を出る? 君も旅をしていたりするのかい?」
「いやいや、仕事だよ。お隣の国は勇者のバカ息子が内乱を起こしているみたいでな、元々気性が荒く激しいやつが多いし。今じゃ国のあちこちで戦争中、傭兵は稼ぎ時ってやつなのよ」
おお、勇者についての情報が聞けそうだ。先程の無礼に対する謝礼として情報を貰おう。
「勇者の息子? 私は勇者に関して詳しくないけれど、君は勇者について詳しいのかい?」
「傭兵に限らず戦闘を生業としている奴なら強者は把握してかおかなきゃな。なんだ、お前さん、勇者に興味があるのか? まぁ、さっきの詫びだ、何でも聞いてくれて構わねえよ」
「本当かい? では遠慮なく聞かせてもらうよ。勇者__アイゼンワンド氏以外で勇者に子供がいるのか教えてくれないか?」
「子供ぉ? なんでまたそんなこと……いや、詮索は無しだな。あー、《結界》、アイゼンワンド以外だと全員だ。アルカイダの《双剣》には双子の息子、イルカルラの《精霊》には娘がいるな。聖国の《鎖縛》には息子が一人、ガダスの《進化》には息子と娘がいた。……娘の方は何年か前に死んでいるな」
僥倖。殴り掛かられたとは言え、やはり挨拶はしておいて損はないことが証明された。
アナスタシアの家族はガダスという国の勇者でほぼ確定だろう。
「ふむ、なるほどね。参考になったよ」
「そうか? ならさっき殴り掛かったのはチャラで頼むぜ」
「ふふっ、実は初めから気にしていなかったりもする」
「んなっ! ……お前さんは将来魔性の女になるかもな。次会ったら身ぐるみ剥がされねぇようにするわ。怖え怖え」
……私達に”次”は無いかも知れないし、将来に関しては確実にやってこない。もし生きていたのならアナスタシアはどの様な女性に成長していたのだろうか。
あったかもしれない可能性をどうしても考えてしまう。
「失礼な、そんなことしないよ。また殴り掛かったりしてこない限りはね。それじゃあ、引き留めてしまって悪かったね」
「どちらかと言えば引き留めたのは俺の方だろう。邪魔したな」
男は軽く手を振り、足早に去って行ってしまった。
私も先を急ごうと街門へ向かうが、ふとあることに気づき、立ち止まって振り返る。
「しまった、名前を聞き忘れたな」
出会い頭に殴り掛かられたため、自己紹介を忘れてしまった。だが男の姿は遥か遠く、もう会うことも無いだろうと考えて、追いかけることはしなかった。
「ガダス王国、《進化》の勇者」
私の頭はこれから向かう目的地の事でいっぱいになっていた。
10話分のWordファイルが消失。つらみをかんじる。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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