第59話 冒険者登録の実技訓練④「白魔法と変態ガリオ」
「……な、なんだよ」
「レオンさんは、どうして男の人の格好───」
「うわあああああああああ!」
今度はレオンが突然慌てて大声を出して、ティフォーネの口を右手で塞いだ。
そして、そのまま彼女をガリオから離れた所に引っ張っていく。
残されたガリオは、訳が分からず、呆然とその場に立ち尽くすのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
───カンカンカンカン
体育館の中に、木剣同士のぶつかる音が響く。
レオンが様々な角度から攻撃を繰り出すが、ガリオは易々とその攻撃を防いでいた。
「くッ! このッ!」
やがてレオンは、突きや足元への攻撃など工夫するが、彼の木剣はどれもガリオの体をかすりもしなかった。
しばらくすると、さすがのレオンも疲れが溜まってきて、攻撃の手が止まる。彼の金髪からは汗が滴り落ちて、濡れた髪がペットリと顔に張り付いていた。
荒い息を吐いて立ち尽くしているレオンを見て、ガリオは思わずゴクリと息を飲む。上気してほんのりと赤くなった彼の顔が、妙に妖艶で色っぽく見えたからだ。
(……ハッ! レオンは男だろッ!)
一瞬だけ見惚れてしまったガリオは、彼の性別を思い出し、ブルブルと頭を横に振る。そして、レオンから視線を逸らすと、構えを解いた。
「一旦休憩にしようか」
ガリオの合図で、レオンは大きく息を吐いてその場に座り込んだ。すると、ティフォーネが近づいてきて、彼に新しいタオルを渡す。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして。レオンさんの剣、ガリオ様にまったく通用しなかったね」
「うぐッ……」
「しょうがないよ、ティフォーネ。彼はまだ剣の素人みたいだし、契約精霊の助けを得られる訳じゃないんだから」
悔しそうに唇をかむレオンを、ガリオが肩をすくめてフォローした。
そして、彼は腕を組んで少し考えごとをする。
「ティフォーネもそのまま聞いてくれ。契約精霊がいない冒険者の弱点って、なんだと思う?」
ティフォーネはレオンの横に座って、ガリオの質問の答えを考え始める。
レオンのほうは完全に疲れ切っており、タオルに顔をうずめて下を向いていた。
「えーっと、単純に遠距離攻撃に弱いですよね。あと、精霊がいれば危険を知らせてくれるけどそれもないし……そうそう! 精霊魔法が使えないッ!」
「そのとおり。4つのどの属性であっても、『身体強化』なんかの自分の体を強化する精霊魔法がそれぞれ存在していて、ほとんどの冒険者は使っている。しかし───」
レオンを上から見下ろすガリオ。そして、ガリオに見られていることに気づいたのか、レオンが疲れた顔を上げる。
「───俺たちには契約精霊がいない。そんな俺たちが、他の冒険者に少しでも近づこうと思うのなら、白魔法を習得するしかない」
「白魔法……」
レオンの青い瞳が、不安げに揺れていた。
白魔法や黒魔法というのは、極めて限られた人が使うもので、一般的にはあまり知られていない。
特に黒魔法は、奴隷を従わせるために用いられることも多いため、マイナスのイメージを持つ人も多かった。
ガリオはレオンの前に座り込んで、彼の瞳をジッと力強く見つめる。
「『人間の体は、魔力回路に縛られている』」
「えッ?」
「俺に白魔法を教えてくれた先生の言葉だよ。『人間の体は、魔力回路に縛られている。故に、魔力回路こそが人間の本質』らしい」
キョトンとするレオンとティフォーネを見て、ガリオは苦笑した。
すると彼は、唐突に腰に下げたポーチからナイフと回復ポーションを取り出す。
不審そうな目で見るレオンの前で、ガリオはいきなりナイフで自分の左腕に浅く切り傷をつけた。
「何をッ───!」
「───静かにッ!」
突然のガリオの奇行に驚いたレオンは、それを止めようと思わず立ち上がろうとする。
しかし、ガリオは一喝して視線だけで彼を押し止めた。
ティフォーネのほうは、静かに笑みを浮かべてガリオを見守っている。
ガリオは回復ポーションの瓶の蓋を歯で噛んで開けると、傷口にポーションを振りかけた。
すると、みるみるうちに傷が治っていく。
「ガリオさんは何がしたかったんだ……」
ガリオは無言で血の痕跡をタオルで拭い去ると、口を尖らせて憮然とするレオンに真剣な視線を向けた。
「レオン。どうして傷が治ったんだと思う?」
「はあ? ガリオさんは自分で回復ポーションをかけたじゃないか。治るに決まってるだろう」
「じゃあ、どうして回復ポーションをかけたら傷は治ったんだ?」
「えッ! どうしてって……回復ポーションは傷を治すためにあるんだから、当然だろう」
「ふむ。最後に、回復ポーションはどうして傷を治せるんだ?」
「そんなの知らないよッ! 錬金術師に聞いてくれよッ! ガリオさんは何が言いたいんだッ!」
ガリオから立て続けに訳の分からない質問をされて、とうとうレオンは怒ってしまった。青い瞳を爛々と輝かせて、ガリオを睨みつけている。
ガリオは苦笑しながら、レオンに「すまんすまん」と軽く謝罪した。
「簡単に言うと、俺たちの体は魔力回路を元に作られていて、体が傷ついても魔力回路が無事なら、いくらでも復元できると言いたかったんだ」
「……ごめん。ガリオさんに言っていることが、少し分からない」
眉間にしわを寄せて、自信なさげに小さな声でつぶやくレオン。
すると、ティフォーネが明るい声で隣から助け舟を出した。
「レオンさん。契約精霊って魔物とかに倒されても、また召喚すれば同じ姿で戻ってきますよね?」
「ああ。当然じゃないか」
「ガリオさんは、人間の体はそれと同じだと言いたいんですよ。契約精霊は、精霊界に本体が残っているから、また召喚できる。人間も魔力回路が無事なら、傷は元通りに治るんだって」
ニコニコと嬉しそうに語るティフォーネの言葉を、レオンは腕を組んで必死に理解しようとしていた。
しばらくすると、彼はどんな結論を自分で導き出したのか、両手をドンッと床につくと驚愕した表情を浮かべて、ティフォーネに詰め寄る。
「わたッ───僕たちって、精霊だったのかッ!」
ガリオとティフォーネの体が、揃ってガクッと斜めに傾く。そして、二人は顔を見合わせて苦笑した。
「まあでも、レオンの言うこともあながち間違っちゃいないか。白魔法というのは、自分だったり他人の魔力回路を操作することで、その人の肉体に影響を及ぼす効果を持つものなんだ。傷を治したり、自分の体を強くしたりね」
「……だったら初めからそう言ってくれよ」
「いやいやいやいや。『白魔法は魔力回路を操作して体を強くする事』だけ言っても、レオンは何のことだか分からないだろッ!」
「うわッ! 汚いッ! 唾飛ばさないでッ!」
「すまなかったなあ!」
まるで親子のように口喧嘩をする二人を見て、ティフォーネは両手で口元を隠して「ウフフッ」と笑いだした。
そんなティフォーネに見られて、ガリオとレオンはバツの悪い顔をして顔を逸らす。
ガリオはハーッと大きなため息を吐いて、ポリポリと頭をかいた。そして、再び真面目な表情に戻り、レオンを向き合う。
「どうする? 白魔法、覚えてみるか?」
一方のレオンは、ガリオの雰囲気に気圧されたように、キョロキョロと視線が天井を泳ぐ。
その表情は、少し嬉しそうでもあり恥ずかしそうでもあり、彼にとって複雑な感情であふれていた。
しばらく悩んだ末、決心を固めたレオンはガリオを見つめ返す。その頬は少し赤くなっていた。
「しょうがないから、ガリオさんから習ってみるよ」
「しょうがないって何だよ」とガリオは苦笑する。そして、自分の右膝をパンッと叩くと、明るい表情で言い放った。
「よし、じゃあ早速服を全部脱いで、上だけ裸になってもらおうか」
「───ッ! 変態変態へんたあああああああああいッ!」
パアアアンッ!
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第60話 冒険者登録の実技訓練⑤「ひふみの祝詞とレオンの異変」
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