女子格付けチェック
三人でいると言っても騒がしく会話をしているわけでもなく、その騒音はよく届いた。
一階が何やら騒がしい、と顔を見合わせるとまずゴンザレスが様子を窺って来ますと部屋を出た。
暫くして、ゴンザレスは戻ってきたが言葉少なにアリサに来て欲しいと言った。
私は部屋で待っているように言われたのだが、気になったのでアリサに着いていくことにし、再び一階の店舗へ顔を出すと、何やら少女の声が響いていた。
「ねぇ、女性の店員さんいないの?!」
これが理由か、と察したアリサが前に出た。若い勢いに押され気味だったモリはこれ幸い、と入れ替わるようにして私の隣に来た。私たちに聞こえないように少し声を潜めるのをみて、私はゴンザレスとモリの二人を離れさせた。
「私も聞いていいかしら?」
「・・・あ、うん。お店の人だよね」
「具体的な話になると先ほどの職人が必要になりますが、一旦私たちで要望を聞きますので」
アリサが至極落ち着いた口調で返せば少女も引きずられるように大人しくなった。椅子をすすめて話を聞く体勢に入れば、少女はおずおずと学校の話なんだけど、と言った。すかさずアリサが制服についてですか?と尋ねた。
「制服のことでもあるんだけど」
「制服はうちでは扱っていませんが」
「そうなの?!じゃぁ下着は?!」
この辺りで女子生徒となると近くの名門女子メリア神学校だろう。ああいった制服事業というのは独占販売のようで、私たちが勝手に模倣して販売はできない上に厳しい神学校のルールとして制服の改造禁止があり、制服の裾上げの受付さえしてはいけない。
それを知らなかったらしい少女はショックを受けた顔で下着についても詰問する。私は下着さえ指定があるんだろうか、と首を傾げれば少女は堰を切ったように話し出した。
「知ってるかもだけどうちは質素倹約を重んじなさい、とかで華美な恰好が禁止なの。スカートの丈や靴下の丈が決まってて襟の形だって変えちゃいけない。フリルもリボンも禁止なの!」
だんだんと声が大きくなっていって、正直扉の向こうの男たちにも聞こえているだろうな、と思った。二人で相槌を打って聞いていると、少女の本題が見えてきた。
「だからね、制服の下にすっごい派手な下着をつけるのが流行ってるのよ、今!」
「・・・下着ですか」
「そう、うちの生徒八割寄宿生だからネグリジェでマウント取るの!」
「あらあら~」
コメントしづらいわね、と私はただ笑顔を保った。
ちらっとアリサを盗み見たら大体似たような笑顔だった。
「そういうの、アクセサリーをこっそりつけるとかじゃないんですか」
「昔はそうだったみたいだけど、今はすぐ告げ口で没収されるから」
アリサが宝飾品の棚を指し示しながら言ったが、少女は複雑そうな顔で否定した。
いくら神学校といえどそれなりに見栄とプライドの世界があるらしい。
「一般的には手袋や帽子で階級を示すのではなくて?女学生だとすれば香水やハンカチなどが相応しいのでは」
「そういうの、本当に値段のかかるやつしか理解してもらえないし・・・。バレると盗まれるから」
「うふふ・・・」
中々闇が深い。それにしても下着か、と思った。あとネグリジェもだが、一目で高い値段のものだとわかればいいのだろうか。先ほどいった手袋を例にとれば牛革や子山羊革なら上等で毛糸やコットンは下品だとみなされがちだ。詳細を尋ねれば、判断基準がはっきりしないようで少女は曖昧なことをいった。
「刺繍がいっぱい、とかシルクだったらいいとか?」
普通は綿でしょうか、とアリサが首を傾げ、少女も素材はわからないと眉間に皺を寄せた。彼女自身も審美眼に自信はなく、とりあえず仕立屋に相談しようと思って来ただけのようだった。行動力は結構だが、割と後先を考えていない。
「制服の下はドロワーズかしら」
「ええ、そう。着替えの時にかわいいドロワーズを着てると噂になるわ・・・でもやっぱり談話室とか寝室で会う時に見るネグリジェで格がでちゃうのよ!」
一通り少女の主張は聞いたが、やはりプロの意見を聞かないとわからないなとアリサと私はモリも交えて話をしようと思った。男性をいれても構わないかと訊けば女同士でのマウント部分はぼかして欲しいらしかった。さもありなん。
そしてモリに要望をかいつまんで話したところ特に驚くこともなく言った。
「シュミーズドレス作るってことですかね」
「シュミーズ・・・肌着のドレス?」
私が初耳だと首を傾げれば、アリサが思い当たることがあったようでぼやくように言った。
「あぁ・・・身体のラインを出す流行の」
「流行ってるんですかね、あれ。とにかく極薄ワンピースドレスだからあんなのは下着じゃないか!って非難されてるっていうか」
「メイド仲間の間でも話題になりました。何でもそのドレスを着用した上から霧吹きで水をかけてさらに身体のラインを出すのだとか」
「破廉恥では?」
私がそう言えば聞いていた少女が頬を紅潮させて不安そうだった。余計なことを言ってしまった。モリはそんな少女を気にすることはなく、あっけらかんと布に希望ありますかとさらに聞いていく。
「パーティに出る用じゃなくてネグリジェとしてなら裾は短い方がいいですよね。シュミーズドレスだと人気の生地はモスリンで・・・」
モリはぺらぺらと喋り続け、少女は理解しているのかどうかわからないが押され気味だ。
私は失礼かと思いながらも率直に少女に予算を聞いた。上流階級相手であればそんなことは聞かないが、今までの反応から彼女は中流階級だ。
「お金は、そのぉ・・・」
見栄を張っていくらでも、と言わずに押し黙ってしまう様子に、彼女の素直さや真面目さを感じた。
不審そうにしているモリよりも私はおそらく気持ちがわかる。
値段を言って話にならないと言われないか、惨めな思いをしないか、侮られないか、自分が考えるよりも敬意を欠いた値段を提示してないか、決して相手を安く見積もっているわけではないのに誤解されたらどうしよう、そんな面倒な葛藤が渦巻く時がある。それは貧乏な時よりも貧乏を自覚しただけの、まだ余裕のある段階でくる。
「もしも一から仕立てられなくとも、すでにお持ちのネグリジェに加工するとかでもいいと思うの、刺繍を入れられずとも袖の形ひとつでおしゃれに見えるわ」
「そうです、お客様。結局は高いものであるよりも似合っているかどうかが一番女同士の格付けとなりますよ」
私に続いてくれたアリサは少し小声でそういってくれた。少女も勝ち気そうだった顔つきを緩めて、頷いてくれた。私たちに余計な口を挟むなと言わなかったモリにも感謝の思いで目配せをすれば、小さくウインクを返してきた。
結局、予算についても一旦両親に話を通すといって、後日改めて来店するとのことだった。
「いやぁ今日は女性の御針子がいなかったので助かりました」
「勝手に進めて悪かったわ、でもあの子のことちょっと気になるし・・・よかった次もあの子の件に関わらせてもらえない?」
「あー・・・ボスがお許しになれば?」
モリが苦笑しながらそう濁すように言い、私はそれもそうかと思った。仕事の邪魔になってはいけないし、とゴンザレスへ視線をやると暫くの沈黙のあとにお伝えしておきます、と同意した。
シュミーズとネグリジェの定義をそこそこごっちゃに書いてますが時代によって変遷が大きいのでまぁ、シュミーズは肌着、ネグリジェはパジャマ、たまに兼用するしどっちも下着よばわりぐらいの認識でお願いします。バッスルドレスは19世紀後半でシュミーズドレスのほうが18世紀ではやいとか諸々ツッコミご容赦を。特定の国や時代の服飾文化を想定していません。ごっちゃですごっちゃ。異世界なんで。




