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借金で売られたけどSR旦那引きました。ただしヤンデレ。  作者: からん


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3/10

( ノД‘)逃げないでね


「エドワード様って忙しいのねぇ」


「はい、この街だけでなく、あらゆる商売に手を出しておりますので」


刺繍をしながらポツリと呟く。まだ釣りは出来ていない。

なんなら最近朝食は一人になり、夕食の時間は遅くなった。どうやら釣りの時間を捻出するために仕事を詰めているらしい。


執事のマスコーはすぐに肯定したが、同時にフォローもしてくれた。


「そもそも奥様のおかげできちんと食事の時間を取るようになりましたので」


「以前までは常に目の下に隈がありました」


「奇声が収まりました」


「あらあらぁ~」


私が自覚している口癖に、貴族らしく、という母の言葉を守るために困ったり口調が乱れそうになると、とりあえず「あらあら」と言っておく癖がある。なんとかおしとやかにみせようとする努力である。


立て続けにエドワードの謎の情報が集まって反応に困るが、結局笑ってしまった。笑ってもいいのだと、最近気づいた。


執事もメイドも随分私の存在に慣れてくれたようで、気安く喋ってくれる。


「無茶なお願いだったかしら」


「いえいえ、いい機会ですよ。いつまでも上の人間が齷齪働くものじゃありません」


執事のマスコーはまるでエドワードよりもずっと上流階級のような物言いをした。もしかしたら元々はどこかの貴族だったのかもしれない。これを機に現場に任せられる体制を作るべきだと進言していて、と熱心に言うので屋敷の管理以外に商人としての仕事もかなり関わっているようだ。


「なんだか私が家で遊んでばっかりなのが心苦しくなるわね」


「む、私が余計な事を言ってしまいました。旦那様は奥様にこの屋敷でこれまでの苦労を慰撫して欲しいのですよ」


「苦労?苦労だったのかしら」


刺繍枠を置いて、アリサのいれてくれた紅茶を飲んだ。

ぼんやりと考えていると、アリサは奥様には苦労ではなかったのかもしれませんが、と前置きをしてひどく優しい手つきでスコーンの皿を置いてくれた。


「旦那様はそうお思いなので、できれば付き合ってあげてくださいまし」


「・・・ふふふ、好き勝手すればいいのね?」


「はい、なんでもお申し付けください」


「ねぇ、エドワード様のお仕事について教えて欲しいわ」


そう言うとアリサとマスコーは視線を彷徨わせた。迷っているようだった。


「ちゃんと旦那様について知りたいの」


駄目押しでそう言えば、仕方なさそうに触りだけならば、と笑ってお薦め本とともに教えてくれた。エドワードの仕事を教えてもらう以外にも、改めて屋敷の人間・・・アリサ以外のメイドや料理人、庭師など屋敷に関わる人間たちの顔合わせをするなど、ようやく私は屋敷に腰を据える覚悟をした。



「明日釣りに行くぞ」


「あらあら・・・ボロボロですね」


「気にするな、明日早朝からアクアローズ川へ行こう」


夕食時に、疲労感がにじみ出ているエドワードが少し顔色を明るくさせて宣言した。

目の下に隈があるのでゆっくり休んだほうが、とつい口に出してしまいそうになったが私が釣りをしたいと言ったのが原因である。素直に喜んでおいた。それで正解だったようで、エドワードからは満足そうなドヤ顔が披露された。


「村が近くにあるからそこまでは馬車で行くが、上流まで少し歩く。ヒールはやめておけ。服装はアリサに選んでもらうといい。釣り道具類は僕が持つ。護衛を連れて行くが顔は出さんから安心しろ」


てきぱきと段取りを説明してくれて、その饒舌振りに私は驚いた。

いつもどこか不機嫌そうに口を堅く閉じていることが多いのに、と思わず壁際にいるアリサへ視線をやった。目の合ったアリサは大きく頷いた。たぶんこちらのほうが通常なのだろう。


(無口ではないだろうと思っていたけど・・・)


野生の猫が心を開いてくれたようだと思い、私はひそかに達成感を味わった。

そうして珍しく私は聞き役に回って夕食を楽しんだ。


その調子でシチューの肉の種類がわからないが美味しいので教えて、と軽く尋ねると、タンシチューだ!明日から常備させよう、なんて言い出した。どう考えてもテンションの上がりすぎているエドワードを皆で止めつつ、私はもしかしたらエドワードは面白い人かもしれないなと思った。


翌日、まだ朝靄のかかった時間に支度をして馬車へと乗り込んだ。


二人で向かい合わせになったのも、私が外にでるのも初対面の時以来だ。だがあの時のように混乱していないし、気まずい空気でもない。


「いい天気ですね」


世間話の基本は天気。

街中よりも空気が綺麗で、少し冷たい。風が湿気を含んでいるのが、髪の毛のウェーブがいつもより強くなっていることで理解した。釣りだから、と後ろでお団子にまとめ上げてしまいたかったが、アリサに随分凝ったヘアスタイルにされてしまった。動きの邪魔にならずくせ毛でも可愛いので気に入っている。


「あぁ、暖かくてよかった・・・」


「お疲れでしたら、眠られてもいいと思いますが」


「いや、問題ない。平気だ」


エドワードはそう言ったものの、暫くして頭は何度か耐えきれずに揺れた。無理に会話をさせるのも可哀そうで、黙って彼を見つめていると観念したかのように寝息を立て始めた。じっとその小奇麗な顔を観察すればやはり隈が濃くなっている。

やはり大変だったのか、とマスコーに教えてもらっている彼の仕事の規模を思い出す。


(何か手伝えたらいいんですけど)


かくかくと揺れる頭に首を痛めそうだな、と私は彼の隣に座りなおして肩を貸した。身長差のせいでそんなに楽な体勢ではない気がするが、まだマシだろう。いっそ寝ころんで膝枕になったほうがいいだろうに、眠ったまま頑なに体勢を維持するエドワードに笑ってしまう。


私は彼の気難しそうな眉間の皺をつついて遊んだ。


「はっ・・・僕は」


「おはようございます、首痛くありません?」


「ステラ、肩を・・・すまない、重かっただろう」


目的地への到着とともにエドワードは目を覚まし、私に凭れかかっていることに気づいて飛び起きた。思っているよりも近距離にいたことに驚いたのかぎこちない動きで距離を取られる。手の置き場所がわからないのか彷徨わせるので、反射的にその手を取った。


「さぁ、降りましょう」


「あ、あぁ」


まだ寝起きの頭のままなのか、エスコートが逆転してしまっていても、抵抗なくすんなり流されてくれた。降りて直射日光を浴びると頭がはっきりしたのか、エドワードはどこか気まずそうに頬をかいていた。


私はというと初めての街の外に感動していた。

山の斜面に沿って家が上下しているのが圧倒される光景で、屋根が赤いのも壁がピンクなのも可愛らしく思えた。街とは違う家の造りだな、ときょろきょろしていると、エドワードが先導してくれる。小さく気合を入れなおす仕草はしっかり見えていた。


「ここから川へいける、足元に気を付けろ」


「ええ、ありがとう」


二人横に並ぶことができない狭い階段を降りて行く。エドワードは不格好な蟹歩きになっても、私の手を離そうとはしなかった。心配をされているのだと嬉しくなって微笑めば、掴まれている手に力が入った気がする。


街では見慣れぬ森に、急流な川、水の落ちる音が肌に響くのが新鮮だった。ころころとした丸い石を踏みつけるのは慣れなくて、エドワードの腕に捕まりっぱなしになる。


「手前は浅いが、半ばから急に深くなるから入る時は気を付けろ」


「・・・え、入っても?!」


「あ、いや、スカートが濡れるか。すまない」


エドワードは驚く私に、失言したと言わんばかりの表情をした。

貴族の女が川に入るなど、と言われるかと思っていたが、もしもエドワードが許してくれるならば俄然足をつけてみたい。はしたないと言われるだろうか。期待の眼差しを向けると、眉間の皺を深くしてエドワードは苦悶の表情で頷いた。


「ま、まぁここは人目もないしな」


「あらあら!まぁ!是非!あちらの岩場まで行きましょう!」


「待て待て、先に行くな」


私は思わず元貴族から商家に嫁いだ女となったことにこんなメリットがあるなんて!と喜んだ。たかが書類一枚での婚姻だというのに、私は外で裸足になって川へ入ることが許されるなんて、と感動した。


大きな岩場へ腰かけて靴を脱ぎ、スカートをたくし上げて人前で脚をさらけ出すという行為。足先をつけた川の水は冷たかった。


「・・・・釣り竿はどうする」


「もちろん釣りもします!」


ばしゃばしゃと子供のように遊ぶ私に、小さく声をかけてきたエドワード。背中を向けて持ってきた釣り道具を触っているらしい。もしくは目のやり場を気にしてくれているのかもしれない。


「釣り餌は、一応虫と練り餌を持ってきた」


「エドワード様!ちっさい魚がいます!」


「ステラ、思い切りがいいな?!」


足先で水を蹴るばかりでは物足りず、私は浅瀬から駆け出した。足裏にささる砂と石の感触に興奮がやまない。くすぐったい、と思って足元をのぞき込めば水の流れとともに小さな魚がちょろちょろとしていて、私の身体で影になるとひゅっと岩の隙間へ隠れてしまう。


「凄い!エドワード様、見てください」


「見ているよ、君は思っていたよりお転婆だ。ほら、それ以上行くと危険だ」


腰かけていた岩場から、飛び石を踏んで迎えに来てくれたエドワード。差し出してくれた手を取れば、ぐいっと抱き上げられた。器用に運ばれて、岩場へと戻される。上等そうなタオルを膝にかけられて、はしゃぎすぎたかと反省した。でも楽しかったので満足である。


「ふふ、すみません楽しいです」


「それはなによりだよ」


その言葉は本当のようで、エドワードは薄く笑みを浮かべていて、朝より健康そうに見えた。お互いにご機嫌なら、いい日だ。


渡された釣り竿を受け取って、見様見真似で振った。エドワードは影の落ちている深いところを狙う、と遠くへ投げていた。私はすぐに手前まで引いてしまって、何度も遠くへ投げることになった。魚がひっかかる様子はない。その内動かすのが面倒になり、じっとそのままにしておくことにした。


二人の間に沈黙が落ちるが、川のせせらぎも遠くの鳥の声もある。嫌な空気ではなかった。私はつくづくいい時間だと思った。そんな時間をわざわざ作ってくれた彼に何度だって御礼をいいたくて、そう声をかけた。


「街の外も、川も」


「ステラ・・・?」


「家族以外とお出かけするのも、初めてです」


だから、ありがとうございます。

そう言って見上げれば彼は不思議そうな顔をして、直後、くしゃりと目元に皺を寄せた。そろそろ見慣れてきた百面相に、エドワードはどんなことを考えているのだろうと思った。悪い事でなければいいな。


「あ、引いてますよ!」


「えっ、あぁ!」


釣り糸がピンと張っているのを見て私が声を上げれば、焦ったエドワードが釣竿をとりあえず高く上げた。糸を手繰らねば、と網がいる、と釣り初心者の二人が無意味に慌てたところで上手くはいかない。


わっとかきゃっとか悲鳴を上げて川へ落ちた。


大した高さでもなければ浅瀬で助かったが、二人はびしょぬれになって立ち上がった。服のままに水に浸かるのって不思議な感覚だわ、と私はもう少し川を堪能してみたかったが流石に諦める。エドワードは謎の唸り声をあげながら、小さくすまない・・・と謝ってくれて、私は思わず噴き出して笑った。


「そんなに笑うことか」


「ごめんなさい、決して馬鹿にしてるわけではなく、こんな経験もいいですね」


水を吸ったスカートを絞り、整えられた髪の毛も軽くほどいた。みっともないかもしれないが、よれたままよりはマシだ。怪我もお互いない。拾い上げた釣り竿に餌はついておらず、逃げられたようだった。結局二人で一匹も釣れていないけれど、つまらないとは思わなかった。


「君は、綺麗だな」


「何を言ってますの?今のあなたのほうがよっぽど絵になりますことよ」


水も滴るってやつでしょうね、と言えばエドワードは妙な顔をした。眩しいものをみるように目を眇めて、何かを誤魔化すように咳払いを一つ。茶褐色の髪は濡れるとより濃く見えて美しいと私は素直に思った。


身体が冷えるといけない、と川から上がり荷物を置いているとこへ近づくと少し遠くから様子を窺う人影があった。男三人で、エドワードのいっていた姿を現さない護衛かと思ったがそうではなさそうだった。


「お貴族さま、川に落ちたんですか!可哀そうに」


「荷物が置きっぱなしだったので気になっていたんですよ、どうぞこちらへ」


最早存在しない階級である貴族というものを揶揄うかのような呼び方。親切心を前面に出す大げさな身振りでエドワードと私をそれぞれ案内しようとした。


「さぁさぁ向こうで火を焚いておりますし、着替えも用意しています」


「待て、どうして彼女と引き離そうとする」


「何故って・・・そりゃ着替えを一緒にさせるわけには」


「お前たちも男だ、彼女に近づくな。いや、それよりも川で着替えさせるようなことをさせない。村の人間か知らんが出しゃばりすぎだぞ」


男たちがエドワードと私の間に無理に入って距離を取らせようとするのを、エドワードは強い言葉で制止した。実際、男たちはタオルの一つも持っていなかったし、信用には値しない。


「おい、こっちは親切で言ってるんだ。俺の家が近くにあるから温まっていけばいい」


「いらん世話だと言っている・・・それよりも」


頑なな男たちがエドワードの背後を取り、私の肩へ手を回し、拘束しようとする。


「彼女に、触れるなと言った」


ぱきゃっ、と軽い音がした。

その軽さは骨が折れた音だったのだろう。衝撃はそんなに軽いものではなかったはずだ。私の肩を掴んでいた男はわずかに宙を飛んで私の背後へ滑っていった。川砂利の上だ。痛そうなうめき声と擦り切れた血の色が見えた。


原因であるエドワードは既に背後の男に掴みかかって、首を絞めていた。抵抗する男は苦悶の表情で、死ぬのかもしれないと私はハラハラと見守るしかできなかった。だが男は三人いたのだから、あと一人が私を押さえつけるのは当然だった。


「てめぇ、大人しくしねぇとこの女がっぁ!」


私の耳の隣を通り過ぎて行ったのはバケツか何か。

エドワードが釣りのために用意してくれていたもののはずで、顎を狙い撃ちされた私の背後にいた男は、さらに追い打ちでエドワードの蹴りを食らっていた。中々の重たい音が響く。


エドワードが締め落とした男は転がっていたし、振り返って最初に殴り倒された男も蹲ったまま動いていない。というよりも距離をとって傍にいた護衛たちが駆けつけてきて、抑え込んでいた。


さて、水を差してきた男たちは護衛たちにより回収されて残ったのは怒りが抜けきれないらしいエドワードと私。


荒れた釣り道具を黙々と片づけていると、エドワードは震える声で謝った。


「・・・すまない、すまない」


「謝ってばかりですわね、エドワード様、どうしてですの」


おそらくは上流階級の男女を引き離してそれぞれ甚振られる強盗の類だったはず。それが未然に防げたなら私はエドワードに感謝こそすれど謝罪される謂れはない。


「き、君を金で買った男は、暴力的なんだ・・・すまない」


絞り出すように言われた言葉に私は目を丸くした。最初からずっと、何か罪を背負ったような表情をしていたが、彼は私が思うよりもずっと誠実で柔らかい心根をしてそうだった。


「まずは言わせてください」


私から目をそらそうとする臆病な彼の顔を、そっと固定して真っすぐ見つめる。


「助けてくれてありがとう、強いんですね」


彼の瞳は少し潤ったが、眉間の皺は取れなかった。苦々しく、商人は強盗に遭いやすいから、と呟いた。彼の手が私の手を覆い隠し、川の水で冷えた手先が温まる。このままでは風邪をひいてしまうな、と馬車へ戻ることを提案した。


「こ、こんな貴族ごっこをしているが、僕はただの商人だ・・・」


「貴族ごっこなんて、私のほうがずっとそうよ。知ってるでしょう」


元貴族なんて見栄だけで膨れ上がった借金の額を、と言えば繋いだままの手をぐっと握られる。寒さだけでなく震えていて、一体何がそんなに怖いのだろうと思う。戻ってきた護衛の人が厚めのタオルをくれて、二人でそれに包まって馬車へ乗り込んだ。


「ねぇ、きちんと話をしてなかったけど・・・私借金がなくなって喜んでるわ」


「・・・君の借金じゃないだろう、あれは」


「一緒よ、家名に乗っかってたんだから」


こそこそと互いの体温を分け合いながら、内緒話をするように言う。


「だからね、いきなりお金の悩みがなくなって私ふわふわしてたわ」


「ふわふわ」


「現実的じゃない、夢かもしれない」


私の人生は最初からずっと借金で縛られていた。

途方もない未来までずっとそういうものだと諦観しかなかったというのに、突然取り上げられて、さぁ貴方の人生を歩みなさいと言われたようで、戸惑いしかなかった。だから、いつ裏切られてまた借金を負うことになるかと心が準備したまま。変わってしまってはいけないと自分にストップをかけていた。だが、それも今日で終りそうだ。


「夢でもいいわ、楽しいもの」


貴方のおかげよ、と言えば彼は泣きそうに顔を歪めた。

よかった、という小さな安堵の声を拾えたのは、くっついていたからだ。


「夢じゃないよ。夢にはしない。僕がちゃんと責任をとるから」


「ありがとう、気負わないでね。私、エドワード様が不安そうなのが不思議なの」


金で買ったとか、貴族ごっこだとか自虐的に言うが、そんなものはよくある話だ。

貴族同士でも金をちらつかせて嫁をとるなんて珍しくもない、適当な一代貴族の男爵家など貴族ごっこという言葉がまさに当てはまる。


エドワードのように成功している商家は貴族よりも貴族らしいと言えるだろう。


返事を待って、じっと見つめれば彼は視線を彷徨わせた後、怯えるように私と目を合わせた。


「逃げないで欲しい・・・」


また出た、と逃亡のワードに私は相槌を打った。


「や、屋敷にいて欲しい、僕から逃げないで欲しい・・・」


彼の瞳は真剣だ。


「他の男とは話さないで欲しいし女の友情とか作ってほしくないし誰かから物を貰ってほしくないし僕の隣にいて欲しいし僕が選んで僕が買ったものしか身につけないで欲しいし無暗に外に出ないで欲しいし僕の目の届く範囲にしてほしい・・・」


「あらあら」


つっかえがなくなり彼の言葉は息継ぎの間もなくとめどなく吐き出された。まだまだ出てきそうだったが、私は一旦口を挟むことにした。


「じゃぁ私、あなたの仕事に同伴するほうが良いのではないかしら」


「え」


ぽかんと呆気にとられた気の抜けた顔。私はマスコーをお手本に笑顔を作った。


「エドワード様は私に傍にいて欲しい、私は外にも出たいし何かしたい、なら二人一緒にいたらいいんじゃないかしら」


「ぼ、僕の仕事は」


「もちろん邪魔にならないように頑張って覚えますわ。とりあえず屋敷にずっと軟禁するよりいいでしょう。貴方の不安も解消されます」


ぱくぱくと何か言いかけてはやめる、という口に思わず指を差しこんでみたくなるが、黙って見つめていると、どこか悲壮な表情をしたまま低く「に、逃げたら殺す・・・」と唸った。


「殺すの?」


「・・・殺さない。逃げないで」


オウム返しに首を傾げると、一拍おいて否定された。縋るような言葉はどこか子供のようにも思えた。俯きがちになった彼の濡れた髪の毛にタオルをかけて大雑把に拭けば、私の手の動きに合わせて頭がぐらぐらと揺れる。


「じゃぁ約束は一つだけで大丈夫ね。私は貴方から逃げない、これでいいかしら」


「・・・あぁ、十分すぎる」


低く柔らかい彼の声に、私も安堵して揺れる馬車の中でぽつぽつと会話を続けた。

帰宅してすぐに報告したのは服を濡らしてごめんなさい、と魚は一匹も釣れなかったというものだった。マルコーたちはやはり完璧な笑顔で出迎えてくれた。


ストックがないので必死。

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