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借金で売られたけどSR旦那引きました。ただしヤンデレ。  作者: からん


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2/11

( ;∀;)お人形なんて思ってないよ


三日ほど過ごしてみたが、見事に何もなかった。

平和だ。エドワードはたまに朝食と夕食を一緒にするぐらいで、特別な会話もしないが険悪というわけではなく、何か要求されることもない。


勝手に出てくる食事、屋敷内ならば何をしていても構わなくて、執事やメイドににこにこと世話をされる。


「・・・ダメ人間になるし、暇だわ」


窓際のソファへ身を預けて、呟いた。窓の桟に埃もなく、窓ガラスも美しい。掃除が行き届いていて感動する。そんなことをぼぉっと考えながら、現状を考える。


正直言うと、借金で頭がいっぱいいっぱいだったので、今何を考えればいいかわからない。


たった三日前までは、朝起きてなけなしの食事を両親の分まで用意して、外へ鶏のエサやりとか配達業務とか、細かい日雇いのお小遣い稼ぎをして、常時雇ってくれているパン屋で接客したりパンを焼いたりしていた。そのお金で日用品をできるだけ安く買って、可能な限りはやく家に帰っていた。家に商人を勝手に連れ込んでツケで買い物をしたりしていないか確認して、金の催促だなんてなんて卑しいの!と取り立て屋に怒鳴る両親を宥めたり、代わりになけなしの金を払ったり、売れるものを引き取ってもらったりと慌ただしく、しんどくて、惨めで、羞恥で死にそうになる日常だった。


「・・・最悪だ」


改めて思い返すと、なんとも言えない自分の日常に軽蔑にも似たため息が出る。


この三日間、現実味のない現状に何度も両親のことを思い出した。

また借金をしているのか、食事は誰が用意しているのか、私を売った金で豪遊しているのか、なんて心配や無意味な焦燥感。


エドワードも執事もメイドも、そんな私を労わるように、そっと静かな一人の時間をくれる。今もそう、ぽかぽかと日の当たる時間。いつもなら紅茶を持ってきてくれる時間だがメイドはこない。私は温かな光を浴びて、うとうとと意識を飛ばそうとしている。


睡眠時間が増えた。贅沢に、ゆっくりと睡魔に身を委ねた。

この身体は、ずっと疲れていたのだ。



「ステラ、君の行動は全て報告させている」


「・・・はぁ」


私の間抜けな返事に、エドワードは眉を動かした。

朝食後の紅茶で一息ついていたところで、エドワードは仕事の鞄を持ってこさせてすぐにでも出勤するようだった。


「いいか、この家から逃げられると思うな」


「あらあら」


執事やメイドにお願いをしてみて、断られたのは外に出ることだった。

きっとそのことを言っているのだろうけども、それを逃亡だと受け取られるのは不満だった。少し買い物や、働いていたパン屋への様子を見たかっただけだというのに。


エドワードはまるで言い逃げをするようにネクタイを締めてバタバタと玄関へ向かった。私の反論は聞いてくれるつもりはないらしい。


「・・・奥様」


「構わないわ、エドワード様って変わってるわね」


気遣わしそうなメイドが恐る恐ると声をかけてきたが、私は手を振った。

上流階級の女が一人で外に出ることが許されていないのは、儘あることだ。母も必ず父と出掛けていた。貴族制度が廃止されたとしても、まだまだ女性の一人歩きは推奨されていない。


商売がかかわってくる以上エドワードにも敵は多いだろうと考えれば決して理不尽な要求でもない。それをあんなにも突き放したように言うだなんて不思議な人だ。


「この紅茶美味しいわ」


「気に入られました?旦那様が奥様のために用意した最高級のオレンジペコです」


「・・・え、うっそ」


驚く私に、メイドは悪戯っぽく笑った。

思わず口調が乱れてしまって口元を抑える。メイドは内緒です、と言って新たに紅茶を注いでくれた。


湯気のあがったカップを今度は慎重に口を付けた。薫り高く美味しい。俗物の私の頭は値段を気にしてしまっていたが、それもだんだんと落ち着いていく。


「・・・私のため、か」


親切なメイドのリップサービスの可能性はある。だが、私のためという言葉はひどく魅力的だった。私のために何かしてもらったことなど、私は何も思いつかなかった。


「ふふ・・・ねぇ、エドワード様は何時ごろに帰宅なさるの?」


ひどく久しぶりに自然に微笑みがこぼれていた。

執事とメイドは微笑ましそうに教えてくれて、私はこの夢のような時間をようやく受け止められそうだった。


そうなってくると、そろそろ何をしよう?という問題にぶつかってくる。

今まで働き詰めでずっと動き回っていた私は金銭が絡まない趣味の類がまるで思いつかなかった。


「普通何をするのかしら、アリサ」


「一般論でしたら刺繍か読書でしょうね」


「刺繍は得意よ、ほつれの補修や丈の調整は小遣い稼ぎになるの」


「奥様、刺繍です」


暇を持て余している私に、メイドのアリサはにこやかに教えてくれた。

ここの執事とメイドは笑顔が鉄壁である。


とりあえずやってみようかしら、と言えば、待ってましたと言わんばかりの速度で刺繍道具が用意された。


ではまず図案である。布とペンを片手に悩む。


「・・・ご婦人たちに人気のあるモチーフを教えていただける?」


「売りつけないのでしたら」


「・・・そう、では旦那様の好きなモチーフを」


考えを見透かされたような返答に複雑になりながら、そう訊ねればテンポの良い返事が途切れた。振り返ると笑顔のままだが、何か悩んでいるようだった。


「知らないのならいいのだけど」


「・・・星でしょうか」


「星座ってこと?エドワード様の御生まれはいつかしら」


季節の星座がぱぱっと頭に浮かぶ。アリサは少々複雑そうなままに誕生日を教えてくれた。それで刺繍の図案を考えるが、素人が考えても上手くはいかない。


名前入りとかのほうがいいだろうか、と悩み結局参考文献が欲しい!と書庫へ行くことにした。


この屋敷にはきちんと図書館のように整えられた地下室があるらしく、それはとても珍しいと案内された時に思った。少なくとも私の家にあった本というは見栄を張るためのアイテムであって、装丁ばかりが立派な印象だった。


「・・・すっごい!面白そうな本ばっかり」


「奥様、高いところにあるものはお申し付けください。上の方は埃がありますので」


書庫の掃除は日取りを決めて大勢で一気にするらしく、今は少々埃っぽい。ランプを用意してくれるアリサに感謝をしつつおススメの本を手に取る。探している内に興味深いものも見つけて、何冊か纏めて積んだ。


星座の本、刺繍の図案、装飾図案、パンの本。豊かな蔵書にふと疑問に思う。


「これって全部エドワード様の集めた本なのかしら」


アリサはとてもいい笑顔だが答えてはくれなかった。

こういった疑問ももしかたらエドワードに報告がされるのだろうか、と考えたが、されたところで特に支障はない。エドワードの口から答えが返って来るならばそれでもよかった。


そしてその日の夕食には、書庫の話になった。


「欲しい本があれば、言え。書庫にまだ余裕はある」


「ありがとうございます、でも今すでに気になる本がたくさんあるので」


そう言えばエドワードの気むずかしそうな口許が少し緩んだように見えた。

やはりあれらの本はエドワードの趣味ではなく、私を気遣って買っておいてくれたのかもしれない。私をこの家に迎え入れる準備をしてくれたのだと、木洩れ日が暖かいと気づいたような気持ちになった。


「エドワード様、私がやるべきことはあるかしら」


「・・・またそれか」


「仕事の勉強とか、社交やマナーとか」


「しなくていい、なにもしなくていいんだ」


「あらあら、ではお人形のようにしておいたほうがいいという」


「ち、違う。・・・し、したいのか、書類仕事やどうでもいいおべっかのパーティが」


「そういうわけではないですけど、なにか目標があるほうが楽しいですし」


エドワードは怖い顔をしたと思えば、しどろもどろに焦ったような顔になって、なにか言いたげに口を開閉した。誤魔化すようにメイン料理の子羊の肉を一口食べて、咀嚼している。


凝視、といっていいほど私を見つめているのが少し怖いが、私の言葉を深く考えてくれているのだと思うと変に邪魔する気にはならない。私もソースと絡めて肉を食べた。


こんなに美味しいものが毎日出てきて仕事もせずに刺繍だけしておくなど、完全に太る。危機感しかない。


「刺繍を、しているのでは」


「刺繍の完成も目標ですが、それだけではやっぱり・・・」


やはり掃除も料理も金策もしなくていいとなると、何をしたらいいかわからない。

改めて私って何が好きなんだったっけ、と考える。


残り物のパンを抱えて家に帰っているとき、壊れた扉を直しているとき、いろんなタイミングで憧れや欲しい物、やりたいことを考えていたはずなのに、今はいまいち浮かんでこない。


「希望があれば言ってくれればいい。習い事も検討しよう、外にでなければある程度は・・・」


「それってエドワード様と一緒でもダメなんですか?」


「・・・外のことか?出たいのか」


「ええ、釣りとか興味あります」


釣り、とエドワードが初めて聞いた言葉のように繰り返した。


「近所の子供が川沿いてやっておりまして、魚が釣れれば一食確保できるといつも思ってました。結局憧れただけでやってませんの」


「・・・食事を気にする必要はないだろう。魚が食べたければ用意できる。それともなんだ、隙をみて逃げるつもりか。許さない、許さないぞ・・・」


カトラリーを乱暴に置いたエドワードは、私が逃げると思ったようで強くこちらを睨み付けた。なかなかの迫力だったが、私は別に逃げるつもりはないのだから縮こまる気はない。


「あら、いけません?楽しそうだと思いましたの」


悪びれずにそう言えば、エドワードは勢いが削がれたのか言葉で形容しづらい複雑な表情をして、長考した。


どうしてだかエドワードは私が逃げると思い込んでいるようで、それを恐れるくせに彼は中々自分のことを教えてはくれなかった。食事での会話も私が話すばかりの上、部屋もベッドも別、そろそろエドワードという人となりを知っておきたい。

まさか肥えさせて喰ってしまおうなんて昔話のような可能性はない、だろう。たぶん。


「・・・・・・釣りは、僕もしたことがない」


絞り出された返答に、私は嬉しく思った。


「では一緒にやりませんか。楽しいかもしれません」


「・・・僕と、釣り」


信じられないものを見るようにして、呟くから私は上流階級で釣りって野蛮な扱いだったかしら、と心配になった。


「い、いつ」


「もちろんエドワード様の仕事がお休みのときにでも」


「平気だ。仕事は調整できる。マスコー」


エドワードは執事のマスコーを呼んで、私に聞こえない程度の声でどこの商品が、どこどこの場所での打ち合わせが、などと話し合っている。マスコーが鉄壁の笑顔で駄目です、無理です、といいながら日程を確認している。


それにイライラしているエドワードの横顔をみつつ、とりあえずエドワードと一緒にならば外に出ることは許されるらしい、と私は思った。



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