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借金で売られたけどSR旦那引きました。ただしヤンデレ。  作者: からん


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11/14

招待状で扇子がつくれるタイプ


外出用のミニハットと手袋をして、デコルテの広いドレスを隠すために上着を着こむ。今流行りのすっきりとしたラインで、格好いいドレスだな、と私は鏡の前で思った。


「本来は一度お戻りになって着替えていただきたいところですが」


「時間的に難しいのよね」


「はい、本日午後のアフタヌーンティーパーティーが西の通りのナチュラ家、その後モルツァ家にて演奏会、夜にモダナ家でダンスパーティーになります。旦那様都合で詰め込まれてますが、どの家も出入りは自由ですので、滞在のお時間はあまりお気になさらず」


着替えを手伝ってくれたアリサは今日の予定を簡単に纏めてくれて、ダンスパーティー前のヘアセットなど最終調整は近くのミリオン所有の倉庫でします、とのことだった。


私は気合をいれて頷くしかない。

それぞれの家の事情や家族関係、ミリオン商会との取引など情報はできるだけ詰め込んだ。気安いパーティーだと聞いているが、男女で分けられる場合も想定済み。そうなれば私は一人で話題を回す可能性があるのだ。


カツカツとヒールを鳴らして歩けば、その音に気づいたエドワードが振り向いた。

目を丸くして驚く様子に、そういえば完成したドレスを見るのは初めてだったかも、と思った。ヒールの分いつもより少し視線が近い。


今回私が提案して仕立ててもらったエドワードの恰好は、一見して無地でダークカラーのフロックコートだが裏地と中のベストには装飾が刺繍され、まるで伝統的なフォンセ流とリュノ流を両方取り入れたような形だ。それが洗練されたデザインとして纏まっているのは仕立屋の腕が感じられる。そしてエドワード自身のスタイル良さも引き立っていた。


「エドワード様、よくお似合いです。絶対流行りますわよ」


「え、あ・・・そうだな。もちろん、君の読みに間違いはない」


「ありがとうございます?」


後ろに控えているマスコーが、杖で小突いたように見えたが、エドワードが何も言わないので見間違いかもしれない。二度見していると、いつもの完璧な笑みのマスコーがその杖とシルクハットをエドワードへ渡して馬車へと誘導した。やはり見間違いか。


「す、ステラ・・・」


「はい?」


「似合ってる・・・綺麗だ」


「あらあら、ありがとうございます。二人で並ぶとバランスがいいと思いませんか」


「思う、思うから離れないように」


エスコートにしては力強く手を取られて、私はまだ逃げると思われているなと笑ってしまう。馬車の中でもたわいない会話をしつつ、時折逃げるなと懇願されるように手を握られた。



咲き誇るバラは色鮮やかで種類も様々、その庭を見ただけで家の格をわからされる。

私は計算されつくした庭の美しさに目を奪われながらナチュラ家へ訪問した。既に何人も集まっており、自由に庭へ集まっているようだ。


アフタヌーンティーパーティーはそもそも女性が多い。

エドワードと私が一緒に入場するとひどく目立った。若い男だ、と獲物を狙う鋭い眼差しだったが、ほとんどが私の姿をみて諦めたようだった。だが一部はまだ虎視眈々とした気配を感じる。愛人でも構わないというパワータイプかもしれない。


「どうぞ。ダージリンのセカンドフラッシュよ」


ナチュラの夫人手ずから入れてくれた紅茶を二人で受け取り、庭に広がる椅子は自由に座っていいと言われる。席次が決められていないので二人で並んで座れる、と私は少し安心した。


あとでここの一人娘が歌を披露するらしいのでその舞台周りの椅子へ腰かけた。

奥にある机と椅子には美味しそうなスコーンやケーキが並べられ、三段トレイの皿がお洒落で見ているだけで楽しかった。


「素敵ね」


「・・・そうだな。娘の歌が終わったらナチュラ夫妻に挨拶へ行こう」


君を紹介したい。と小声でそう言われて、少し浮かれていた気持ちを引き締める。エドワードはそんな私をみて、苦笑した。


「君は純粋に楽しんでくれていい、そのほうが主催は喜ぶ」


「うん・・・でも」


「今日の一番の目的は僕と君の衣装だ。美しく着こなそう」


「ふふ、そうね。後でゆっくりお庭を歩きましょう」


エドワードは私の言葉に伏目がちにはにかんだ。それが小さな男の子のような仕草に思えて、どこか懐かしい。


エドワードに女の子たちの注目が集まっているのだから、私も引っ付いてドレスをアピールしよう。


このドレスにも伝統と流行をミックスさせた仕立屋とっておきのお洒落要素が入っているのだ。たぶん。私にはコルセットとドレスの生地くらいしかわからなかったがモリは胸の切り替えがどうの、布の種類を段階的に変えているだの言っていた気がする。


主催者の一人娘は自慢の庭の花を髪飾りにして、可愛らしい歌声を聴かせてくれた。伴奏はヴァイオリンで、親戚の男性らしい。一人娘の歌が終わればそのお友達なども有志で歌や楽器を披露してくれる。


「ナチュラ夫人のサロンメンバーだろう」


こそっとエドワードが耳打ちをしてくれた。サロンの人間だということはこの家の夫人と友人ともいえる近しい人間たちだ。覚えておくほうが失礼はないだろう。


演目が終わり、空になったカップをソーサーに乗せて歩いていると見目のいいウェイターが愛想よく私たちに紅茶を注いでくれた。デザートタイプのミルクティもありますので、と言われて机の奥をみれば若い女性陣が皆美味しそうなミルクティーを持っていて、確かに美味しそうだと思った。


「欲しいのか?」


「ふふ、目移りしてます。あちらの洋梨ケーキも気になりますし」


「どれも大した量じゃない、足りなければモルツァ家でもケーキくらいは出るが」


「あらあらコルセットの苦しさをご存じない?」


そう揶揄うように言えば、エドワードは押し黙った。


背後では庭の花の説明を楽しそうにしていて、少し離れたところでは若い子が集まって何か身体を動かす遊びをしているようだった。私たちは比較的落ち着いている飲食物のあるエリアで挨拶の順番を待っていた。


主催者への挨拶にも、それなりに格が関わって来る。

身分制度がなくなったって皆かつての肩書を振りかざして生きている。


そして、私の肩書は元公爵家・エンテ家だ。

順番はわりと早かった。


「本日はお招きありがとうございます。エドワード・ミリオン、こちら妻のステラです」


「あら、ようやく来てくれましたのね!エドワード!」


「結婚の報告をもらったときは驚いたよ」


ナチュラ夫妻は気さくに私たちを迎えてくれて、先ほど舞台に立っていた娘さんも小さく会釈をしてくれた。元々取引があるところで、今回はきちんと結婚の挨拶をしておきたいということだったので、交友関係がしっかりしているのだろう。


それにしても、こうして他人におめでとう、と改めて言われると感慨深い。

正直私は結婚した自覚が全然なかったから、祝われて初めて実感している。


「ステラ・エンテ、この度ミリオンとなりました」


「エンテ公爵の・・・!まぁ、それは素晴らしい」


「安心するといいステラさんエドワードは良い男だぞ」


聞き耳を立てていただろう周囲にもさざ波のようにエンテの家名が広がっていく。私はそんなに威力があるとも思わず動揺したが、顔にはでなかったと思う。


優しく背を撫ぜてくれたエドワードに目配せで感謝をした。

静かに深呼吸をして、背筋を伸ばす。

執事マスコーとメイドアリサの完璧な笑顔で会話を続けた。


「しかし流石のスーツだな、エドワード君。洒落ているよ。最近は皆黒一色で遊び心がないと思っていたんだがね、君は最高だ」


「ステラさんのドレスと合わせているのね、慎ましやかだけど見栄えがするわ。最近ドレスには迷っていたのだけど是非参考にさせてちょうだい」


二人はお手本のごとく私たちのドレスコードを褒めてくれた。

まるで売り込みたいのはそこだろう?とお膳立てされた気分だが、これには乗らないと損だ。


エドワードもそこは理解しているので、お目が高いなんていう営業トークが始まる。


だが途中から何やら相手のご主人とエドワードはかなり本格的に話を始めてしまい、私と奥様が取り残されてしまう。


呆気に取られて奥様と顔を見合わせると、まったくもう、と呆れたように笑ってくださった。そのおかげで私も穏やかな気持ちで奥様に紅茶が美味しかったことなどを伝えられた。


「流行を取り入れた娘さんのようなドレスも素敵ですけど、私の年齢ですと気後れしてしまいますから、やはり伝統的なところを大事にしていきたく思いまして」


「素敵な考えだわ、ステラさん。昔のドレスはもっと自由で華やかだったもの」


結局一周回ってドレスの話になって、宣伝臭くなってしまった。だが娘さんからの視線は好意的であるし、悪くないだろう。これ以上主催者を引き留めるのは失礼になりそうだ、と話を切り上げて、エドワードの方へ視線をやるとご主人になにやら肩を叩かれていた。


「・・・どうされました?」


「いや、よくあるおべっかを言われただけだ」


「娘を嫁にやりたかった、とかですか」


「んぐっ」


図星のようだった。

一気に紅茶を飲みきり、ソーサーを近場にいたウェイターに押し付けてしまう。

怒ったというよりも気まずいような気持ちなのだろう。


彼自身が言ったようによくある決まり文句なので私は気にしないのに、と思いながら少し離れてしまったその背中を追った。


「ミルクティーは、これでよかったか」


「あらあら」


手渡されたのは女性陣が群がっていた人気のミルクティー。

手渡されて御礼を言うがエドワードはむすっとした表情で頷いた。機嫌悪いというより複雑な感情を押し込んでいるようだった。


「ナッツのいい香り」


ホイップクリームと砕かれたナッツがまぶされたミルクティーは甘さと香ばしさが絶妙だった。


最初の挨拶を終えた、というだけだが少しだけ緊張がほどけていく。

その穏やかさのままにエドワードを見つめると、彼と視線があった。主催者への挨拶が済んだとて次に挨拶しておきたい人ぐらいはいるはずだが、探している様子はない。


座ってミルクティーを堪能する私と、そんな私を見つめるエドワードだけの時間だった。

その空間が突如として破られたのは甲高い声だった。


「えっあの時の!」


「あらあら」


驚きの声、それは貴族マナーとしては不躾ではあったがパーティには相応しいような気がした。振り返った先にいたのは見覚えのある少女だった。


「メリア神学校の子ね」


「そうです、お久しぶりです。ご挨拶させていただいても?」


流行のふわふわとした薄布のドレスを着た少女はパタパタと友人たちを引き連れてきたが、友人たちはどうやら気後れしているようだった。


それもそうだろう、本来声をかけるというのにも身分が関わって来る。

緩いパーティーだとはいえ、気になるはずだ。この少女が中流階級なのは間違いなく、ましてやパートナーもなしにいきなり声をかけるというのは中々根性がいる。


「メリア神学校一年、パンオル・ヴァインです」


「ステラ・エンテ・ミリオン、こちら夫のミリオン商会代表のエドワードです」


パンオルは、分かりやすく焦った顔をした。素直すぎてびっくりするが、一礼したエドワードに一生懸命ぎこちないカーテシーをした。友達も私たちの名前を聞いて次々と挨拶をするが、どことなく距離がある。それは仕方がないだろう。彼女たちもミルクティーを楽しんでいるようだった。


私はパンオルにこそっとネグリジェについて聞いてみた。


「ネグリジェいいの完成した?」


「ばっちりです!感動しました!おかげでなめられずに済んでます!」


「ふふ、よかった。私あの後関われなかったから」


彼女はこんな生地を追加して、こんな飾りをつけてもらった、など本当に嬉しかったのだろう。本当に笑顔で色々教えてくれた。女学校特有の格付けや雰囲気なども興味深くて、好奇心を疼かせてくれる。


「それにしても、貴女パーティーでていいの?」


「もちろん駄目なんで、まじで内密にお願いします!あの学校親族以外の男と会話をしてもいけないのよ!帰省中でもね!」


やはりそうか、と私は苦笑した。

親の知らないところで勝手に恋愛をしないように放り込まれる意図が大きい女学校はとにかく貞淑のルールが厳しい。こういったパーティーの類はもちろん禁止だろう。


もしかして、少し離れて窺っている友達たちも女学校の子たちかもしれない。そうだとすると顔を覚えられるなんてとんでもないだろう。


「ところであなたたちを見習って隠れた部分を派手にしてみたの、どう?」


「うぉっ」


「最高!ていうか旦那さん格好よくて羨ましい~」


気を使って話題を変えてあげよう、と隣で暇そうにしていたエドワードを引っ張り寄せてスーツを見せつける。パンオルもノリよく持ち上げてくれた。そのテンションに離れていた友人たちも警戒する小動物のように近づいてきて、微笑み返せばドレスが気になっていたのか質問がいくつか飛んできて、そこからは一気に空気が打ち解けた。


「お父様にも着てもらいたいわ」


「貴方のお父様懐古主義がすぎるのよぉ、いつも目立ってるわ」


「そのドレスって元がシュミーズドレスでもアレンジできるかしら」


三人以上になってしまえば姦しいものだ。エドワードが若干気圧されているようで微笑ましい。


「あ、パーティー梯子されるんですか?」


「本当にそんな人たちいるんだ、凄い・・・!」


「招待状で扇子が作れる人にしか許されない所業・・・!」


反応のいい女学生たちに、この子たち中々宣伝効果高そうだな、と思いながら会場を後にした。


「面白い子たちだったわね」


「女性客を扱うのはやはり女性のほうがいいと心底思ったよ」


「あらそう?確かに彼女たち学校で広めてくれそうよね」


疲労感の滲むエドワードを労わりながら、馬車で次は演奏会。


エドワード曰く今までは割と女性への宣伝が疎かになっていたらしい。

女性が優先されて出張って来るのはパーティーだが、パーティーのメインは結婚相手探しが大きい。そうなるとお客としてのアプローチをエドワードではしにくかったのだろう。


「私、役に立てたかしら?」


どうだ、と胸を張ってそんな軽口を叩けば、エドワードは十分に、とほほ笑んでくれた。

その満ち足りたような笑みは、エドワードを魅力的に見せる。


「本当は、役に立たなくてもいいんだけど」


「あら、残念かしら?」


「わからない、僕の巣穴に何もできないままに居てくれればいいと思っていたけど」


おっと。

私は笑顔のまま彼に握られた手を握り返した。


「こうして、僕の隣にいてくれるのも嬉しい」


何かの絵画のようだな。

私はそんなことを思った。



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