↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/26

《No.25》赫輪の天使


 帰ったエルカは、まず日記に向き合うと決めていた。

 あれから自分の気持ちを整理して、伝えるための言葉をこねまわしていた。

 カマエルへの気持ちに気付いた今だ。きっと昨日までのやり取りとは同じにはできない気がする。

 それでも結局、本当に言いたいと決まった言葉はシンプルだった。


────もう一度、見に来てほしいです。


 ところが、向こうから先手を打たれていたようだ。

 投函されていた一枚の便箋に、いつもより丁寧で慎重な文字で綴られた本文。


───すまなかった。もう一度時間をくれないか。


 文章から声が聞こえてくる。不安なのはきっと、向こうも同じだったのだ。

 たとえ彼に見えない過去があっても、金輪天使で遠い存在だとしても。

 自分が抱いている心は、本物だ。

 背を向けている間に消えてしまわないように、今度はしっかり向き合って思いを伝えよう。

 互いの間に横たわる距離と時間に、負けないように。

 

 軍校へ出ると、心配した様子のダイヤが迎えた。

 アンバーから昨日の不調を聞いていたのか。

 その心配を晴らすためにも、心機一転するためにも、エルカは大きく息を吸う。


「よろしくお願いします!」


「……ああ!元気いっぱいだね」


 安心したようにダイヤは笑う。


「さあ、始めようか!」


 そして始まる飛行訓練、憑き物が落ちたように上手く飛び立てた。

 入校以来、ベストフライトな気さえする。

 まるで体の内側から、エネルギーが無限に湧き上がってくるかのようだ。

 集中していれば時間の流れもあっという間だった。


「そういえば、今日はヒスイ先生いないんですね」


「俺も今日の朝に知ったよ。急な呼び出しに応じなきゃいけないってさ。金輪天使は忙しいんだよな」


 今日の飛行が上手くできたのは、ヒスイのお陰だ。

 自分の気持ちを整理して、見つめ直す機会をくれた。

 改めて礼を言いたかったが、またのお預けになってしまった。


「エルカちゃん、お昼食べておいで。俺、片付けなきゃいけない書類があるから」


 昼のチャイムと共にダイヤと別れ、久々の1人での食事だ。

 ペースを合わせる相手がいないと、どうしても早食いになってしまう。

 というよりは、あまりの好調に体が急かされているようだった。

 早々に食べ終えて、食堂からトレーニングルームへ戻る。


 時間が時間なので、教官も他の利用者も誰もいない。

 こんな時こそ、自分の思うがままにやりたいことをやってみたくなる。

 午前練で感じたような、全てが上手くいくような感覚。

 これが成長の前触れならば、なんとかモノにできないだろうか。

 翼を顕現するとき、いつもより強めに念じてみる。このチカラを、翼に集めるように。

 

「熱ッ」


 一瞬、体内を焼かれるような痛みが走った。

 驚いて膝をついてしまったが、その後は何ともない。

 翼も、残念ながらいつも通りの手のひらサイズのようである。

 何も変わっていない?そう思いかけたところで、違和感は視覚に現れた。

 

(……赤?)

 

 白い床を照らすのは、いつもの銅色の光ではない。

 強く鈍い、赤色の光である。コレの発生源は、自分の天輪。


「なに……これ」


 スタンドミラーを呼び出し、確認するとやっぱりそうだった。

 天輪が赤く染まっている。これまでの銅輪よりも遥かに強く煌めく。

 その光は辺りを焼き尽くさんばかりで、円状に自身を縛り付けるかのようである。

 まさか今日の好調の要因は、天輪がこんな色に染まったから?


「でも、なんで」


 天使の輪は金、銀、銅の三種類のハズだ。

 それなのに、今頭上に浮かぶのは攻撃的なまでに赤い輪っかである。

 こんな事象、聞いたこともない。ただ素人目にもわかるのは、決して手放しに喜べる変化ではないということだ。

 警戒色として強く本能にゆさぶりをかける。鏡ごしに見ていても気が狂いそうだ。


「早いね、もう始めてたのか」


 ダイヤが戻ってきた。彼ならば何か知っているだろうか。

 すがるように駆け寄ると、ダイヤの反応は悪い方で当たってしまった。


「……嘘だろ」


 いつもの活気立った目には、畏怖に近い濁りが混じっていた。

 エルカが近寄ると、それに合わせて一歩退く。


「さっき、急にこんな色になったんです。これ」


「それは……」


 言い淀んでいるのは、それが良いモノではないと証明している。

 それならば尚更知っておきたいものだ。エルカ自身の、今置かれている状況を。

 ダイヤは眉を捻じ曲げ、意を決したように口を開いた。


「エルカちゃん。君の、その天輪は」


「赫輪(かくりん)だ」


 ダイヤを押しのけるように、知らぬ男性の声が刺される。

 そちらを振り向くと、見知らぬ金輪天使1人、銀輪天使が4人部屋に踏み入ってきた。

 肩には派手な腕章。ミカエルドメインのものとはデザインが違う。


「その腕章は天界神様直属の……」


 ダイヤは頭を下げるが、天使の軍団は見向きもしない。

 彼も銀輪天使であるハズなのに、まるで意に介していないような扱いである。

 

「天界の命運がかかった天輪だ。貴女は運命に選ばれたのだよ」


「う、運命?」


 金輪天使の声色は恐ろしく冷たかった。

 投げかけられた言葉も目線も、エルカではなく赫色の天輪に向けているようだ。

 エルカはダイヤに視線を向けるが、彼も同様に金輪天使に気圧されていた。


「そうだ。その天輪こそが、天界を救う英雄の器なのだ」


 運命、英雄の器。どの言葉も、エルカの耳を通り抜ける。

 突拍子がないからではない。この金輪天使は、本当にエルカではなく赫輪に話しかけている。

 唯一引っかかった単語は"赫輪"。以前出会った冥魔、メフィエラが口にしていたのを思い出した。


「天界神様は赫輪の覚醒を待ち望んでおられた。さあ、我々とともに来てもらおうか」


 金輪天使は無遠慮に歩み寄り、手を伸ばしてくる。

 そこへ、ダイヤが割って入った。


「ま、待ってください。彼女は新人の天使、私の教え子です。天界神様の下へ向かわれるなら、教官の私が同行……」


 金輪天使はため息をひとつ吐いた。

 それが音として2人の耳に届くときには、ダイヤの胴に剛針が突き刺されていた。

 あのリッターも使っていた強烈な麻酔だ。ダイヤはそのまま倒れ伏す。


「木っ端の若造に用はない」


「ダイヤ先生……!」


 そして逃げようと後ずさったエルカにも、無情な一撃が入れられた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。