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《No.17》天界を守るためのプロセス


「か、神様って……」


「天界を守るためなら、たとえ神であろうが手をかけるのに躊躇いはない。なあ?」


 天使にとって神は絶対。ふつうの天界人なら誰でも知っているし、実際にカマエルはそれを破ったから天使の資格を失った。

 そのカマエルの上司が言っては、冗談に聞こえない。声色も表情も、偽りのものではない。


 神が天界の敵になるなんてことがあるのか。

 それならミカエルがカマエルを呼び戻したのだって、黒幕の神を討つために同志を呼び戻したことになる。

 カマエルは神に反逆したのは、天界を守るため……?


 エルカの推理が組みあがり、それを口に出そうとした時だった。


()()を天界のためにやったってのなら見当違いだ。そこまでぶっ飛んだ正義感は持ち合わせちゃいねえ」


 数秒もせずに否定された。口に出さず正解だったと、エルカはひとり眉を下げる。


「ほう。それならあの日、なぜ神に楯突いたか聞いておこうか。この場で吐き出せる理由なら聞くまでもないがな」


「なら話す気はねえよ。今となっては証明できるものも何も無くなったしな」


 ミカエルの最後の一節が無ければ聞けたかもしれないのに。とエルカは心の中でうなだれた。

 カマエルは出会った時から一向に話してくれる気配もなく、せっかくの上司との再会でもこれだ。これ以上に決定的なチャンスは来るのだろうか。


「まァ、お前にどんな理由があろうが構いはしない。銅輪時代から面倒を見ているんだ、ある程度想像はつく。それに、お前は俺の計画の大事なピースだ。天界を守るためならどんな前科者だろうが利用するぞ、俺は」


「まさか、もう一度神に特攻してこいとでも言うんじゃねえだろうな」


 嘘と言い切れない表情は変わらずだ。本当にそうだと言われたら、カマエルは今度こそどうなってしまうのか。

 隣で聞いているエルカは気が気でない。


「当然、俺の計画に必要となればそうさせるさ。だがそれ以前に優先すべきターゲットがいるだろう。お前には当面、そいつを目標に動いてもらう」


()()()()か」


「ああ。奴を倒さんことには話は進まん。今、天界が手を焼いている紫水晶も煉獄由来の物質だそうだ。天界への浸食を止めるには、大本を断つのが手っ取り早いだろう」


 煉獄。このワードは2人の間で当たり前のように交わされているが、エルカにとっては初出の単語だ。


「あの……すみません。煉獄って、何ですか?」


「天界と冥界の間にあるって言われてる次元(ばしょ)のことだ。そこの王が攻めてきたんだよ」


 エルカの質問にはカマエルが答えてくれた。

 それならひとつ前の話題でも質問しておけばよかった。


「どの世界にも行き場のない(ゴミ)が行き着く場所だが、何万何千と時間をかければ特異点が生まれるようだ。それこそ、天界も長い歴史の分岐点にあるのかもしれんな。存続か破滅か……現状を見れば、結末は火を見るより明らかだがな」


「今の天界はそんなに兵力が足りてないのか。ヴァルハラを守るだけの天使は残ってんだろ」


 ミカエルはため息を吐き、椅子に深くかけなおす。


「覚えているか。半年前、煉獄の軍勢が攻めてきた日だ。犠牲こそ多く出たが、一次侵攻を押し返すことはできていた。金輪だった頃のお前を筆頭にな。後手に回りがちな天界には珍しいくらいの出来だった」


 今の天界やカマエルの状態をみるに、皮肉にしか聞こえない。

 ミカエルはただ淡々と続ける。


「だが以降の半年間、一向に進展が見えん。どころか天界は紫水晶の浸食を食い止めるのがやっとだ。停滞は後退と同じという例えがこれほど当てはまる状況はないが、その原因がお前にわかるか」


「さあな。煉獄が天界より上手だったってことじゃないのか」


 その返答にミカエルは短く笑う。これは一蹴する嗤いだ。


「今の天使どもには、()()()()()()()()()からだ。一般の天界人もそうだろう。このままでは職場が倒産すると告げられようが、平時以上の成果を上げられる者はそうはいない。今まで通りをこなしているだけで、その日暮らしはできてしまうのだからな」


 勉強しないと将来大変だよ。そんなことを言われても、なかなか重い腰が上がらないようなものだろうか。

 天使どころか働いたことすらないエルカは、自己流に解釈してみる。


「それも、伝説と呼ばれたお前が出向いてまで討伐まで至らなかった敵だ。末端の奴らは、自身が戦況にどれほど貢献できるかを理解できない」


「覆せるかわからん状況に命を懸けるよりは、全てが終わるまでの間を神の守護に費やした方が安パイだと思ってるってことか」


「逆に言えば、可視化された天井があれば下層の奴らが登ってくるのは早いものだ。追うべき背中の有無で、後進の成長スピードはまるで違ってくる。かつてお前が金輪に昇格した頃、銅輪試験の参加者が例年より多かっただろう。今銀輪で活躍している若造は皆、その世代だ」


 若い銀輪天使。そう言われて思いつくのは、列車でカマエルと戦ったガネットという男だ。

 彼もまた、カマエルへ憧れていた天使たちの想いを語っていた。象徴を失った怒りや失望など、天使たちの思いは複雑のようだ。


「つまり、お前には再び前線に立って天使を導いてもらう。華麗なる伝説の復活ってやつだ。事が全てうまく運べば、お前も天使に戻れるかもな?」

 

 カマエルの表情は難しそうだった。

 エルカもミカエルの話には懐疑的だ。

 恨みに近い感情を持つ天使が何人もいるのに、そんなに都合よく受け入れられるのだろうか。


「勘違いしてはいないだろうが、全ては天界を守るプロセスのひとつに過ぎない。俺たちの最終目標(ゴール)は煉獄の王を討伐することでも、”若き伝説”の復活でもないんだからな。お前が天使への復帰を断るのは構わないが、全てが片付くまでは俺に従ってもらうぞ」


「ああ。でなきゃここには来てねえよ」


「それでいい」


 こうして見ていると、男2人の関係性は不思議なものだった。

 ミカエルの試すような態度も、カマエルの穿った態度も、互いの信頼が見え隠れしているような気がしなくもない。


「それと銅輪の小娘だが……ヴァルハラにいる間は軍校に通わせておけ」


 軍校。話には聞いたことがある。いわゆる天使の学校のようなものらしく、銅輪試験に受かった新米天使がそこで基礎を学ぶのである。ヤマトも通ったと言っていた。

 話題が急にエルカ自身へ飛んだことは驚いたが、一番反応が大きかったのは、隣のカマエルだった。

 ちらりと横目に見ただけで、恐ろしい形相が目に入った。


「ふざけるな。エルカは天使じゃねえ。お前の計画に巻き込ませねえぞ」

 

「無論、戦場に送り出すつもりはない。だが、不慮の事故とは言え銅輪を持ち腐れにしておくことはないだろう。それに、小娘に万が一のことがあればお前に守り切れるのか。護身術を身につけさせるだけでも勝手は違うハズだ」


「これから天界を救うんだろ、たった1人を守る守れないの話に逸らすなよ。それに、俺は今まで…」


 納得していないカマエルに、ミカエルは追撃する。


「お前が向こうで人助けをしていたのは知っているさ。実際、避難所の利用者という数値に現れていたからな。お前の住んでいた区画は他より数パーセントほど多かった。が、所詮その程度だ。気が向いたときに守れたらいい。そんな女じゃないんだろう?」


「なんとでも言いやがれ。そんな奴がいるなら誰だろうが叩きのめすだけだ」


金輪(かつて)のお前なら俺も疑いはしない。だが、今のお前は違う。すべてカバーするだけのチカラはないだろう」


 そんな女じゃない――。軽く流されたのが逆に気恥ずかしかった。カマエルはそう思ってくれている、と捉えてよいものなのだろうか。

 そんなことより、エルカにとってはこの提案を断る理由はなかった。

 ただ天使になっただけで終わりたくない、その思いは天使の輪を授かったときから変わらずだ。

 自分にできることが増やせるなら、それに越したことはない。


「カマエルさん。私、天使の学校に行ってみたいです。ミカエルさんの言う通り、せっかく天使になったのに何もできないなんて、もったいないですよね」


 カマエルの眉間は固く閉じていた。苦渋の決断を呑まされたと思っているのが伝わる。

 だからこそ、彼の不安を和らげるためにも軍校で自衛手段を身につけるべきだ。ただ興味があるから話に乗るわけではない。


「約束しろ。絶対にエルカをお前に関わらせないと」


「俺は計画に不安要素を持ち込まない主義だ」


 





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