第92話 エキシビション
本日二話目の投稿です
「嘘だろ……」
ティアナより告げられた真実に、ハルは再度頭を抱え項垂れる。
心配事が増えた兄妹は、胃が痛むのを感じていた。
「まだ魔術格闘祭引っ張んのかよ……」
「まぁ、今更よね」
完全に雰囲気が壊れた2人を一瞥し、ティアナは紅茶で喉を潤す。
ハルの様子に笑いを堪えるアルフは、だがこらえきれずに失笑する。
「ざまぁねぇな」
「でも、レイまで知らなかったなんて……」
テレサは俯いたまま動かないレイを見て、頬に手を当てながら声を漏らす。
ゆっくりと頭を持ち上げるレイは、テレサ見つめた後、すぐにまた俯いた。
「お母様の件で頭がいっぱいでして……」
両手で顔を覆うレイに、項垂れるハルに、ティアナはかける言葉を慎重に選びながら口を開く。
「出場辞退はできないわよ」
「畜生!!!」
図らずもトドメを刺してしまった事で、ハルはテーブルに頭を打ち付ける。
異様なまでの拒否反応に、3人は顔を見合わせた。
「逆にチャンスだと思えばいいんじゃねぇの?」
「そうね。見返してやりましょう?」
アルフが漏らした言葉に、テレサが賛同し、落ち込む2人を励まそうとするが、逆に2人の空気は更に重くなる。
「失敗したら……」
「今から考えないの!」
不穏な呟きをするレイに、ティアナは大声で言葉を遮る。
立ち直ることの無い2人に手を焼いていると、食堂の方からパフェを持ったドレットが歩いてきた。
「そうだぞー」
「ドレット先生!?」
甘いデザートを頬張るその姿は、あまりのもイメージからかけ離れており、アルフは躊躇わず笑い声をあげる。
「お前ら、これぐらいで凹んでどうすんだ」
例の如く、ドレットはフォークを飛ばし、見事にアルフの頭に突き刺さる。
悶えるアルフを尻目に、ドレットはハルとレイを交互に見比べた。
重い空気を纏う2人に、ドレットは溜め息を吐く。
「どっちかが優勝すりゃあいいんだろ」
潜伏を使い盗み聞きをしていたブレアを捕まえ、レイに追加のマカロンを持ってこさせながら、ドレットはハルの頭を乱暴に撫でる。
「アルフ、お前の幼馴染2人は今年どうするって?」
「あ?」
頭に刺さったフォークを抜きながら、アルフはドレットを威嚇する。
少し考え込んでから、アルフは口角を上げて嗤った。
「今年は、工夫するってよ」
どこか嬉しそうに笑うアルフに、ドレットは呆れたように微笑む。
未だに顔を上げないハルの頭を、ドレットは良い音を立てて叩く。
「いって!!」
「頭上げろ」
頭を押さえて睨みつけてくるハルを一瞥して、ドレットは席に座りながらパフェを頬張る。
どこからともなく成績表を取り出し、ドレットは2人を評価する。
「お前ら、別に魔術の成績も悪くねぇし、余裕だろ」
「レイに勝てねぇよ!」
「お兄様に勝てるわけないでしょう!?」
その言葉に、兄弟はすかさず反応を示した。
突然頭を上げて抗議するハルとレイを見て、ドレットはスプーンを咥えたまま悪戯っぽく笑う。
「ほら見ろ、お互いの事しか眼中にねぇ」
「「……あ」」
ハルとレイは顔を見合わせ、何事もなかったかのように座り直す。
そんな2人の様子に、ひそかに燃えだす人物がいた。
「眼中に……」
「ねぇって?」
突如湧き上がりだした殺意に、ハルとレイはビクリ、と体を震わせる。
ティアナとアルフの眼には、確かな闘志が燃えていた。
「先生も悪い人ですね」
「これくらいの方が面白いだろ」
テレサの言葉に、ドレットは今までにない程、口角を上げて嗤う。
4人の反応を面白がるテレサとドレットに、ハルは憤激して立ち上がった。
「面白がるな!!」
「いいだろ別に」
涼しい顔でパフェを食べ続けるドレットに掴みかかろうとしたハルは、両肩をアルフとティアナに強く掴まれる。
「な!?」
「「絶対に、負かす!!」」
口論を繰り広げる3人を、誰も止めることは無く。
戦意を焚きつけられるハルを見て、ドレットはレイの頭を優しく撫でた。
「お前も、存分にお兄様と戦える場所が欲しいだろ?」
優しく語り掛けるドレットに、レイは眼を丸め、だがすぐに微笑む。
しっかりと顔を上げ、ドレットの眼を見て返事をするレイにもまた、闘志が宿っていた。
「はい!」
「ん、頑張れよ」
「「「全員なぎ倒す!!」」」




