第91話 視線と助け舟
「どうすっかなぁ……」
フィーネとの再会を果たしてから20時間後。
翌日の昼休み、5人揃って昼食をとっていた。
が、ハルだけは紅茶に手も付けず、頭を抱えて唸り続けていた。
「なんなんだよ……」
午前中、フィーネはハルの在籍する2年2組に顔を出していた。
教室の隅に立ち、何も語らずハルを見つめるその姿は、氷山にて吹雪の中1人で佇む雪女を想定させた。
普段は賑やかなクラスが静まり返り、体感気温は5度下がっていた。
ハルも居眠りをしていられず、教科書を広げるだけ広げてドレットに助けを求め続けたのだ。
「結局助けてくれないし……」
「そりゃそうでしょう」
落ち込むハルを見て、ティアナは呆れたように笑いかける。
結論から言うと、4時間もハルの熱烈な視線を浴びせられていたにもかかわらず、ドレットは一度も助け舟を送らなかった。
「あんなの、どう助ければいいのよ」
頬杖をついて言葉をかけるティアナを、ハルは涙目で睨みつける。
「お前なぁ! 他人事だからそんな事言えんだよ!」
「な!? クラスの雰囲気が死んでたのよ!? 私たちも被害者よ!」
心配を無碍にされたことで、ティアナは堪らずハルに食い掛かる。
穏やかな昼下がりに騒がしい言い争いを始める2人を見て、気力を消耗していたテレサは、僅かに笑顔を取り戻す。
「なら、午後はレイのとこか?」
「恐らくは……」
隣で痴話喧嘩を繰り広げる2人をよそに、アルフはサンドイッチに齧り付きながらレイに問う。
憂鬱そうに顔に影を落とすレイは、マカロンを口に運びながら溜息を吐いた。
「今の時期に来たってことは、アレが目当てよね」
テレサは2人の言い争いを止めつつ、ティアナに語り掛ける。
ハルを負かし切れなかったことに少々不満を覚えながら、テレサの言葉にティアナは1つ頷いた。
「でしょうね。他には何もないもの」
「やっぱり……」
腕を組みながら答えるティアナに、テレサは心配そうに溜め息を吐く。
思い出したように眼を泳がせるアルフに、レイは首を傾げ、ハルはティアナを凝視した。
「なんだよ。何かあんのか?」
「……え?」
理解していないハルとレイに、ティアナは顔を引き攣らせ、テレサは目を丸くする。
アルフは、兄弟の反応に、目元に手を当てた。
「……あんた達、聞いてないの?」
「だから何を?」
顔を顰めて問うハルに、ティアナとテレサは顔を見合わせ、大きく溜め息を吐く。
ティアナは自分の両頬を両手で叩き、気合を入れた後ハルに向き直る。
「いい? 魔術格闘祭は、まだ終わってないのよ」
「は?」
理解しがたい、と首を傾げるハルに、ティアナは眼を逸らさず、声に力を込めて真っ直ぐに告げた。
「魔術格闘祭決勝戦出場者によるエキシビションを目的とした個人トーナメント戦が、2日後に開催され
るのよ」
堂々と言い放たれたその言葉に、ハルは眉を顰め、レイは大きく眼を見開く。
「募集要項にも書いてたわよ……」
「ドレット先生、一言も言ってなかったわね……」
呆れたように視線を外すティアナとテレサの態度に、真実だと思い知らされるハルとレイは、人目を気にせず思う存分叫んだ。
「「はああぁぁああぁ!!??」」




