第76話 普段通りに
翌日。
ほとんど散った桜の木を眺めながら、ハルは珍しく教室で体を起こしていた。
起きてはいるものの、ハルは終始呆然としていたため、寝ている時と大して変わらなかった。
「ハル、朝からずっとあの調子ね……」
「えぇ……」
昼休み、ティアナとテレサは魂の抜けているハルを見つめ、放課後を危惧する様に溜め息を吐く。
「お昼、ハルも誘いましょうか?」
「でも、ハルがこれならレイも……」
頬に手を当て提案するテレサに、ティアナはこの場にいないレイを思う。
妹を放っとくはずの無いハルにどの様に声をかけるか思案する2人は、突然立ち上がったハルに眼を向ける。
「「動いた……」」
徐に動き出したハルは、真っ直ぐにティアナの方へ歩いてくる。
呆気にとられる2人に向かって、ハルは笑顔で告げた。
「レイを、飯に誘ってやってくれ」
晴れやかな表情で声をかけてくるハルに、2人は背筋が凍る。
(おかしい。目の前にいるハルは絶対に本物じゃないわ。だって、あのハルが、私に対してこんな顔をするなんてありえないもの……!)
「あんた、どうしたの!?」
「あ? どうもしないけど」
ティアナの言葉に、先程の怪しい笑みを消し、ハルは普段ティアナを嘲る時の表情を見せた。
「ほら、レイにはアルフが声をかけるかもしんねぇけど、やっぱ女子がいた方が安心すると思うからな」
視線を逸らし、切なそうに笑うハルに、2人は顔を見合わせる。
(ハルって、確かにレイの事大切にしてるけど、ここまで気をかけているのは初めてだわ。でも、だったらハルだって……)
「じゃ、そういう訳で」
言いたい事だけ言い残し、足早に去ろうとするハル。
そんな彼を、ティアナは考えるよりも先に引き留めた。
「待ちなさいよ!」
驚いた顔でハルは振り返り、ティアナを見る。
テレサは親友の行動に、口元を両手で覆い、喜びを隠す。
自分の行動に、ティアナは顔を赤くしハルを開放しかけるが、ハルの制服を強く掴み直した。
「なんだよ?」
首を捻るハルに、ティアナは息を吸い込んで言葉を紡ぐ。
「あんたも、一緒に来なさい!」
ティアナの言葉に、ハルは大きく眼を見開き、テレサは飛び跳ねそうになる身体をなんとか抑える。
顔が熱くなるのを感じながら、ティアナはハルの眼を見つめる。
「いや、俺は……」
自分の制服を掴むその小さな手に自分の手を添えて丁寧に制服から剥がすと、ハルは頭を掻きながら口を開く。
「最初から、行くつもりだったけど?」
ハルの言葉に、ティアナは呆然とし、テレサは青ざめる。
折角の勇気を無駄にするその言葉に、ティアナは肩を震わせ、ハルを睨む。
「あんたなんて……」
首を捻るその顔を叩こうと右手を上げ、しかし踏みとどまったティアナは中途半端に上がった手を下ろし、掴みかかった。
「最初からそう言えばいいじゃない! ほんとバカ!!」
「はぁ!?」
普段の調子で言い争いを始める2人を見て、テレサは胸を撫で下ろし、優しく微笑む。
「二人とも、本当に仲がいいわね」
「「どこが!?」」




