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第75話 過去と、今を

本日二話目の更新です


「これが、全てだ」


 語り終えたハルは、静かに紅茶で喉を潤す。

 6人は、意外にも落ち着いている2人にかける言葉を探す。

 だが、2人から眼を離すことができず、言葉も見つからない。


「お前等は、そんな重く考えることはないだろ」


 周りの反応を見て、ハルはブレアの作ったデザートを口に運びながら、呆れたように肩の力を抜く。


「本当に、レイの中にハルの……?」


 ティアナは2人の話を理解しきれない混乱した頭で、一番の疑問を口にした。

 レイは微笑みながら、自分の腕を撫でる。


「はい。私の中には、お兄様の魔術回廊があります」


 魔術回廊とは、魔術を発動時、魔力が駆け巡る神経であり、移植は不可能とされている器官である。

 それを移植したと言ってのける2人に、6人は益々眼を丸くする。


「じゃあ、レイの魔術回廊は……?」

「俺の中だ」


 今度はハルが自分の腕を眺めながら答えた。

 そもそも、適性の無かったレイに存在していたかも分からない神経を、ハルが当然のように肯定したことで、ティアナの頭は更に混乱する。


「俺からレイへ移植する時、お互いの3分の2だけ交換したんだよ」

「それにより、お兄様は魔術を継続して使うことができますし、私は魔術が使えるようになりました」


 淡々と語る兄妹は、互いに目配せをして己の腕を撫でる。

 先程まで震えていたレイが、今は愛おしそうにハルを見つめることを不思議に思ったブレアは、その疑問を言葉にした。


「なら、レイが怖がってたのは?」

「……どうしようもなく、あの日の光景が忘れられないんです」


 ブレアから出された問いに、レイは困った様に笑い、自分の銀髪を撫でた。


「あの日、目の前で殺された使用人の表情が、私を突き放したお母様の眼が。どうしようもなく、怖いんです」


 こんなことで、と誤魔化すように笑うレイ。

 彼女の頭を、隣に座るアルフが乱暴に撫でた。


「そんなトラウマ、誰だって怖いわ」


 アルフの言葉と行動に、レイは驚いたように彼を見上げる。

 続いて、ティアナとテレサもまたレイへと声をかける。


「そうよ! 目の前でなんて、そんな、無理して笑うことないじゃない!」

「幼いころでしょう? 尚更よ。辛かったわね……」


 当然だ、と肯定する3人に、レイは眼を見開いた。

 今一度、周りを見渡すレイの瞳には、先ほどの印象と違い、優しく微笑む6人の顔が映った。


「……みなさん」


 慰めるように接してくる年上の笑顔に、レイは目頭が熱くなる。

 強がることを止めたレイを見て、ティアナは改めてハルに問うた。


「その、助けてくれた男の人は、ハルの質問になんて答えたの?」

「それは……」


 自分達をどうして助けるのか、その理由をしっかりと答えていないことについて追及されたハルは、あの日言われた言葉を思い出した。


 ――それは、君たちの母親に頼まれたからだよ


(あの時、たしかにあの人はそう言った。だが、あれが未だにどういう意味なのか理解できない。母親が、俺達を助けるよう仕向けるはずもないのに……)


「ハル?」


 考え込むハルに、ティアナは心配そうに顔を覗き込む。

 我に返ったハルは、誤魔化すように口角を上げた。


「もう忘れた」


 ティアナに嘘を吐き、ハルはドレットに視線を向ける。

 物足りなさそうに紅茶を継ぎ足す彼を、ハルは鋭く睨んだ。


「それで、明日のいつ、どこに来るんだ」


 現実の話を切り出したハルに、ドレットは少しだけ視線を向け、すぐに自分のティーカップへ視線を落とす。

 紅茶に映る綺麗な三日月を眺めて、ドレットは答えた。


「明日の放課後、校門前に」




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