第64話 給仕係
本日三話目の投稿です
「なんで、あんたがいるのよ!」
ジュエリーショップでの事件から3日後、いつものテラス席でティアナはハルの陰に隠れながら、男を指さし叫んだ。
ハルもまた、その男を威嚇し、ティアナを守るように体を向ける。
「ブレア!」
ティアナに名前を呼ばれた男は、黒いカフェエプロンを身に着けており、困った様に、またティアナを見下すように笑う。
「いや、俺ずっといたし」
「え!?」
二2間ほど前、始業式の日に学園へ侵入し、ティアナを襲ったこの男は、あれ以来、食堂にて働いており、ティアナ達のテーブルへデザートを運ぶのも常にこの男が行っていた。
「「あぁ!」」
ようやく思い出したハルとティアナはお互いの顔を見合わせ、声を上げる。
その様子を見て、ブレアは溜め息を吐く。
「でもどうして……?」
「言ってなかったか? 学園で働いた悪事を清算させるために、ここで雇うって」
困惑するティアナに、ドレットはさも当然かのように言い放つ。
救護班による手当を受けたドレットは、すっかりと回復しており、何事もなかったかのように紅茶を楽しんでいた。
「聞いてません!」
「そうかー」
ティアナの抗議の声を受け流すドレットの力の無い声に、ティアナは気力を無くしたように座り直す。
「でも、反対です。こんな人を学園内に入れておくなんて……」
「あのなぁ、俺だって自由の身じゃねぇんだぞ」
ティアナの言葉に、ブレアは肩を竦めながら補足する。
「5年間、学園の犬としてこき使われて、揚句、悪事を働いた対象の人間には絶対服従だ」
「え?」
ニヤリ、と口角を上げ、ブレアはティアナにお辞儀して見せる。
「俺はあんたの犬ってわけだ、お嬢さん」
「「却下!!」」
ブレアの言葉に、ハルとティアナは抗議の声を上げる。
ティアナの事で必死になるハルを見て、テレサは必死に笑いをこらえる。
「なんで俺は対象じゃねぇんだよ」
「お前は自分から巻き込まれに来ただけだろ」
言い争いを始める2人を見て、ティアナは頬を膨らませ、ブレアに言葉を投げつけた。
「だいたい、絶対服従する補償なんてあるの?」
「それは、これだ」
ティアナの言葉に、ブレアは自分の首を指さす。
そこには、2週間前には存在しなかったチョーカーのようなものがはめられていた。
「それが、何か?」
「これ、起爆装置だから。お前の命令に逆らえばすぐに爆発する」
ブレアの言葉に、ティアナだけでなくその場にいた生徒達全員が唖然とする。
そんな教え子たちを、ドレットは紅茶で喉を潤しながら眺める。
「で、でも偽物の可能性も……」
「学園長のお手製だ。完璧に本物だぞ」
信じきることができず、疑い続けるティアナに、ドレットがトドメを刺す。
5人が呆然とブレアを見つめる中、思い出したかのようにレイが呟く。
「待ってください。なら……」
「俺もいるぞ」




