第26話 睡魔
「まさか先生が大食いだっただなんて……」
各々が早めの夕食を手に席に着き、テレサとティアナは溜め息を吐く。
教え子の勘違いに、ドレットは呆れたように肩を竦めた。
「ウェダーだけで賄えるわけないだろが」
「でも、先生いつも顔色悪いじゃないですか」
ティアナの純粋な質問に、ドレットは紅茶を飲みながら眼を逸らして答える。
「それは、あれだ。魔力が足りてないんだ」
適当な言い訳で躱そうとするドレットに、ティアナとテレサは更に追求しようと質問を投げかけるが、まともな答えは返ってこず、2人は肩を落とした。
「まぁ、今日はよくやった方なんじゃないか」
話題を逸らそうと、ドレットは魔術格闘祭について触れる。
すると、テレサもドレットを追及する言葉を止め、ティアナをみて微笑み頷く。
「本当に。怪我することなく3回戦進出だなんて凄いことだわ」
自分のことのように嬉しそうに笑うテレサを見て、ティアナは照れ臭そうに笑う。
「ま、こんなもんだろ」
「お兄様がいるのですから当然です」
そう声を上げる兄妹は、余裕を含んだ笑みでティアナを見る。
2人の顔に、驚愕したティアナは、だがすぐに笑い返した。
「そうよね、当然よ」
そうはっきりと言い切ったティアナ含め3人で顔を見合わせる。
満足げに互いを評価し終えた後、ティアナはテレサに向き直った。
「それでね、テレサ。明日の対戦相手についてなんだけど……」
「3回戦の対戦相手ね」
そう語りかけるティアナに、テレサは微笑み頷く。
だが少し眉間に皺を寄せ、テレサは申し訳なさそうに告げた。
「それが、少し特殊な相手で、もう少し時間が欲しいの。明日の朝には確実に情報を渡せるわ」
顔色を窺うように言うテレサ。
親友の表情に、ティアナは少し不機嫌になりながら、言葉を返す。
「明日の朝でも構わないわ。私がお願いしているんだもの」
少し怒ったように、ティアナはテレサに言い放った。
その後すぐに微笑んで見せるティアナに、テレサは胸を撫で下ろす。
「えぇ、必ず確かな情報を。約束するわ」
親友が笑顔に戻ったことに安堵するティアナは、視界が揺らぐのを感じた。
突然睡魔に襲われたティアナは、何の抵抗もできず、その身を任せた。
「ティアナ?」
コクリ、コクリと首を動かすティアナに話しかけるテレサの声は、しかしティアナには届いていなかった。
そのまま寝息を立てる親友を見て、テレサはくすりと笑う。
「こんなに体を動かしたのは久しぶりだから、きっと疲れたのね」
夢の中に落ちると同時に、ティアナの体はハルに寄り掛かり、心地よさそうな寝顔を見せる。
3人の視線がハルへ集中し、ハルは面倒そうに眉間に皺を寄せる。
だが、すぐに諦めたように溜め息を吐き、ハルは3人へ宣言した。
「あー、俺が動いたらこいつ起きるだろうし、ちゃんと送っていくから。心配しないで帰っていいぞ」
***
ティアナが寝息を立て始めてから、数十分。
2人きりになったテラス席で、夕焼けを眺めながらハルは紅茶を楽しむ。
「まだ起きねぇのか」
長い時間寝ているにも関わらず、一向に起きる気配のないティアナに、ハルは呆れたように声を漏らした。
「そんなに無防備なら、また襲ってやろうか」
そう言ってハルはティアナの綺麗な金髪を撫でる。
その手つきは優しく、まるで割れ物を扱うかのように繊細であった。
「王族でさえなければ……」
ハルはティアナの頬を撫で、寝顔を見、小さく呟き、唇を噛む。
その時、
「ん……」
ティアナがハルの制服の袖を引っ張り、顔を上げた。
いきなり引っ張られたことにより、少し体勢を崩したハルの頬に、ティアナの唇が当たる。
その感触に、ハルは眼を見開いた。
ハルは驚いてティアナを見るが、彼女はまだ夢から覚めていなかった。
(くそ、コイツ……)
ティアナの唇の感触に、寝惚けていると理解していてもハルの鼓動は跳ね上がる。
気持ちよさそうに寝息を立て続けるティアナに、ハルは再度唇を噛んだ。
「無防備すぎるんだよ……」
そう悔しそうに呟いたハルは、ティアナの左手を取り、その細く、白く折れそうな薬指にキスをした。




