希望の星の強調介入ー7
「……お嬢様!」
遠くから斎木の声が聞こえる。気のせいだろうか。
由美香は、長く放心していた。
ここは《スターライツⅤ》の天地航輝に、キツイお灸をすえる為の場所のはずなのに、なぜ自分が責められているのか見当もつかない。
「お嬢様!!」
放心状態となっていた由美香は、ようやく覚醒した。
「斎木?」
由美香のヘルメットに、執事斎木からの通信が入る。
「お嬢様、心配いたしました。」
「斎木、これはどういう事です?わたくしは操られてなどおりません!!」
「それは、私も存じ上げております。私だけでなく、《サンクチュアリ》のメンバー誰もが疑ってすらおりません」
「では、どうして」
由美香は戸惑いの言葉を上げる。
「お嬢様、落ち着いて斎木めの言葉をお聞きください。」
「なんですの!?あなたは、早くあの『嘘』を垂れ流す、厚顔無恥な弱小組織を潰す算段を考えなさいっっ!!」
由美香の
「いえ、お嬢様。今回はここでお引きください。我々の負けでございます。」
人は、思考の片隅にすら浮かんでいなかった言葉を聞いたとき、硬直する。『二の句が継げない』という慣用句がそのような場合を的確に表現しているだろう。
その時の由美香についても、正にそのような状況だった。
「……斎木?」
ようやく、それだけの言葉を発する。
ふつふつと、怒りがこみ上げる。なぜ?もう少しで、航輝の組織を完膚なきまでに痛めつけることが出来るというのに。「負け?」今、この男は、世界的正義の組織のリーダーである自分が「負けた」といったのか。
「斎木!私の言葉が聞こえなかったのですか!?私はあの弱小組織の……」
「お嬢様ッ」
斎木が、大きな声で由美香の言葉を遮った。斎木が由美香の言葉を遮るなど非常に稀な事であるし、声を大にすることなど、今までに無かった事である。
由美香は、斎木の剣幕に押されて、押し黙る。
「あのような弱小組織が、“情報戦”を仕掛けてくるとは思いもよりませんでした。さらに、どうやったか我々が、雇った悪の組織に対して根回しも行い、静観させる事にも成功しています」
斎木は淡々と由美香に事実を告げていった。
「非常に恐ろしい策士が向こうにいます。このままでは、お嬢様は『悪に操られた哀れな人間』と言う『役割』に押し込められてしまいますぞッ!!」
「……ですが、事実は違います!私が事実を話せばわかってくれるはずです!」
「しかし、世の中は信じてしまいました!!」
斎木の言葉に、由美香は硬直する。このような、あからさまな『嘘』が、信じられてしまったというのか。
「現に!わが社およびそのスポンサー企業の株も急落しております。先ほどから本社への問い合わせで、本社の回線もパンクしております。お嬢様……お嬢様が『操られていた』という奴らの嘘は、既に『真実』となってしまいました。」
ハンマーで頭を殴られたような衝撃を受けた。
斎木は、自分の言葉が主に浸透したのを確かめてから言った。
「お分かりくださいませ、今、お嬢様の持つ武器で彼らを攻撃してしまったら、《忍び寄る影》なる組織に操られているという彼らの『嘘』を、お嬢様自ら、みすみす認めてしまうようなものです!」
あいつらを、この場で攻撃して黙らせることも出来ない。
混乱しながら、由美香は斎木に助けを求めた。
「ではどうすれば良いというのです」
「認めなさいませ。《忍び寄る影》の話に乗ってやるのです。そこで『お嬢様自身の力』で、操られている戒めを解き放ったと言う事にするのです。今現在、奴らの“プラン”を修正できるのはこの点だけでございます」
由美香は再び何も言えなくなった。
《サンクチュアリ》の作戦指令所で、斎木はそう答えながら自らの策を再検討する。
つまり、『操られていた』という嘘を否定することが出来ない以上、その『嘘』に途中まで同意して演じ、最後の最後で、ヒーローとしての『強さ』を見せつけるという事だ。それなら、最低限の面目を立てることが出来る。
また、それは悠里が考えた作戦の中で、想定され得る、敵の理想的な行動だった。
由美香がそう動いてくれれば、『精神支配を自力で解いたリーダー』として《サンクチュアリ》組織自体を賛美することが出来る。
斎木もその事には気が付いていたが、ここは敢えて策士の作った『逃げ道』を使うつもりだった。あとは、自分の主人がどれだけプライドを捨て、実利を取ることが出来るかと言う事に限る。
弱小組織だと思って侮った。《サンクチュアリ》は大組織であるがゆえに『評判』や『名声』などを攻撃される事が、時として致命的な結果を招くことがあるのだ。
それにしても、恐ろしい策士である。普通ならだれもが嘘だと見抜ける程度の『嘘』を、効果的に使い、世間を騙しきってしまった。
スターライツレッドがあれだけボロボロになるまで一人で戦ったのも、『残酷だ』とか『可哀そうだ』などという感情を観衆に植え付ける為の下地だったのだろう。あれだけやられれば、裏で工作をしていたなど、誰も思わない。
実際、斎木も、作戦の意図に気が付いたのは、『偽映像』を世界規模で流されてからだった。
斎木は、自らの油断を悔やみながらも、由美香に説得をつづける。
「お嬢様、時間がありません。こうしている間にも、お嬢様の悪評は高まっていくばかりでございます。お早く……どうかお早く、ご決断ください。」




