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希望の星の強調介入ー6

悠里の声が携帯端末から聞こえる。

待ち望んでいた知らせだった。首領達を説得し、戦っている戦闘員や怪人を引き揚げさせる事が、この作戦の第一段階なのだ。

「そうか!ありがとうっ!!」

よくぞ、一人で首領たちを相手に戦い抜いてくれた。これで作戦の第二段階に入ることが出来る。ただ、さすがに、百を超える悪の構成員と一人で戦ったのは、無理があった。至る所ボロボロで、今にも倒れそうだ。

「やったわね、航輝」

都が、無くしていた熱線銃を航輝に渡しながら小声で言った。《ラ・フィエスタ》の戦闘員がどこかから拾ってきてくれたようだ。

「ああ、やったな」

航輝も小声で答える。

まだ、作戦の第一段階を突破しただけだが、航輝にはこの作戦はうまくいくという、確信があった。皆が、実力以上の力を発揮している。

そう思うと、目の前で怒りに震えている由美香の姿が小さく滑稽に映った。

「内緒話は終わりまして?」

「ああ、終わったよ。聖園さん」

航輝は由美香を、様付で呼ばなかった。

「口のきき方に気を着けなさい。天地航輝」

由美香が威嚇するが、航輝は意に介さない。

ここが倉庫の中で良かった、普通に話す分には、観衆に聞こえる事が無い。

「《スターライツⅤ》が傘下に入る話、あれは無しだ。あなたと俺とは、これまで通り、対等の正義の組織のリーダー同士ですよ」

 悠里と都が命がけで作ってくれたチャンスである、ここで作戦を失敗させるようなら、由美香の言う様に正義の味方など、やめたほうが良いと思う。

 みんなの期待を受けて、困難を乗り越えることが出来るのが、正義の味方だ。

 ここで、この傲慢なお嬢様に打ち勝つ―――。皆が自分をその為の舞台を作り出してくれた。ならば、その期待に全力で応えるのがヒーローというものだ。

 航輝は決意で拳を握りしめた。


「馬鹿な子。悪の組織にあれだけ痛めつけられたのに、まだ誰が主人か解らないなんて」

 由美香が、冷笑する。

「その悪の組織だけど、もう戦う気は無いようですよ」

航輝は、その冷笑を無視して答えた。今までの会話から、この女性は、自分の言葉を『無視』される事をなにより嫌がることを知っていたのだ。

「なにを言っているんです!?」

案の定、話に乗ってくる。

「周りを見てみたらどうです?貴女に協力してくれる怪人が何処にいますか?」

 由美香が、集まった悪の怪人や戦闘員をみると、戦場には居るものの、由美香たちを遠巻きにして戦おうとはしなかった。

 悠里の説得に応じて、戦闘を停止した首領達からの連絡が入ったのだろう。

 各々の武器を収め、由美香たちの行動をただ、見ているだけだった。

「な、みなさん、何をしていらっしゃいますか?!」


慌てる由美香の端末に、斎木からの通信が入る。

『お嬢様!緊急事態です。すべての悪の組織が契約の解除を通告してきました』

「なんですって?!この期に及んで、どうしたというのです!」

『わかりません。彼らが言うには、我々は《サンクチュアリ》と契約したのであって、《忍び寄る影》のような新興組織と契約を交わした覚えはないとの事です。』

「《忍び寄る影》ってなんですの!?もう一度打診しなさい」

『やっておりますが、連絡が取れません』

 斎木の言葉を聞いた由美香は、刃物のような目で航輝をにらみつけた。

「あ、貴方達ですわねっ!い、いったいどんなペテンを使ったんですの?!」

「貴女に人望が無いからじゃないですか?」

「な、なんですってぇ!!」

 そうだ、もっと怒れ。正常な思考など、どっかに置いてきてしまえ。

「ペテンじゃない、俺の妹の真心が届いたんですよっ!!」

 そういうと、都と共に倉庫の入り口に駆け出す。

「お、お待ちなさい!!」

 由美香が大剣を構えて二人を追い、倉庫の外に出た。

 倉庫の入り口の前で、由美香と航輝は相対する。

 中継のヘリコプターが灯光器で、二人を照らし、周囲のギャラリーもようやく倉庫から出てきた三人を凝視した。

 最高だ。この時を待っていたのだ。

由美香が一人で衆人環視の中に取り残されたその瞬間を。

 航輝は、大きく息を吸い込むと、全世界中継しているレンズの前で堂々と啖呵を切った。


「さぁ、ようやく尻尾を出したな!《忍び寄る影》の怪人よ!!」


「……は?」

 突然、訳の分からない事を言われ、由美香はたっぷり5秒間は沈黙したうえで、驚きの声を上げた。

「恐ろしい秘密結社、《忍び寄る影》の正体を掴むまで、時間がかかってしまったが、ようやく解明したのだ!怪人めッツ!!正体を表せッ!!!」

「な、何を言っていらっしゃいますの?わたくしは正義の組織サンクチュアリのリーダー、聖園・ジゼル・由美香ですわ!」

ここで『流れ』を作らなければ、作戦は失敗する。全ての努力が無駄になるのだ。

由美香の抗議の声など、かき消すように大声で航輝は叫ぶ。

「そう!哀れにも聖園由美香さんの体を乗っ取って、《サンクチュアリ》を思いのままに操ろうとした卑劣なる怪人“マインドシャドウ”よ!今すぐ、由美香さんの体から出ていくがいい!!!」

「な、何を言っていますの!わたくしは、わたくしです!!」

「ふっ、貴様が由美香さんの体を乗っ取り、《サンクチュアリ》を内部から崩壊させようとした事実は、ちゃんとお見通しだ!!」

 航輝の大声に、周囲のギャラリーがざわめき始める。

「おい、今の聞いたか?」

「ああ、聞いた。《サンクチュアリ》のリーダーが乗っ取られているってさ!!」

「もし本当なら大ニュースだぞ!?」


「な、何を世迷いごとを言っていますの!?《忍び寄る影》なんて組織聞いたことも、ありませんわ!何を根拠にそんなでたらめを仰りますかっ?!」

由美香が叫んだ。

「証拠ならあるわ!」

今まで沈黙を守ってきた、都が声を大声を上げる。

「この映像を見てまだシラを切ることが出来るか、《忍び寄る影》の怪人よ!!」

部下の二人が巨大なプロジェクターを運び、埠頭の壁に“証拠”の映像を浮かび上がらせる。

そこには、邪悪な表情をした由美香が映っていた。目の下には黒い縁取りがされており、口紅は紫色のどぎつい色を塗っている。一目みて、『誰かに操られている』と解る

映像に映る彼女は、『下卑た』としか言い表せない口調で、次ような話をしていた。

「へぇっへぇへぇ、これで《サンクチュアリ》は、我が手に落ちたも同然」

「正義の大組織のリーダーを乗っ取った次は、その権力を使って、他の正義の組織を罠にはめていってやるわー、へぇーっへぇっふへっふへっ」

「この映像は、ある倉庫で撮られたもの……お前が喋った内容こそ、お前が由美香さんを、乗っ取り、操っている確たる証拠だ!!」

「う、うそです!こんなこと、わたくしはしゃべった覚えがございません!!」


それはその通りである。

全て、航輝達が仕組んだ『嘘』なのだから。

これが、悠里の立てた作戦の第二段階であった。

映像は、アイテム街で都が買った、髪の毛を入れると本人と同じ姿になり、会話もしてくれる便利アイテム『身代わり君人形』を使い、撮影したのだ。

由美香の髪の毛は、由美香が航輝に傘下に入れと迫った日、由美香が怒って部屋を出たあとに、悠里が落っこちていた髪の毛を拾ってきていた。そう言えば、怒って頭を掻き毟っていたなと、後になって聞かされた航輝は思い出していた。

近所の倉庫の一室を借りうけ。そこで由美香の髪の毛を入れた人形にメイクを施し、脚本通りに行動させたのだった。

《忍び寄る影》という架空の悪の組織の怪人に乗っ取られている由美香という設定で、本当の由美香ならば絶対に言わないであろう台詞をたくさん喋らせ、それを撮影したのである。

映写機は《ラ・フィエスタ》の戦闘員たちにより、密かに複数設置され、埠頭の至る所で『上映』されていた。

映像の中の由美香は、恍惚とした表情で喋る。

「ああ《忍び寄る影》の大首領様っ!私はやり遂げて見せますっ!ぎぇっへっへっへ」

レプリカの髑髏を掲げて下品に笑う自分の姿を見て、世界的正義の組織のリーダー、聖園・ジゼル・由美香の精神は限界を迎えた。


「やめてぇぇ!こんなの、わたくしじゃ無いわっっ!」


そのセリフを受けて、放心状態の由美香に航輝はさらに畳み掛ける。 

「語るに落ちたな!《忍び寄る影》のマインドシャドウ!!今の悲鳴こそ、由美香さんの魂の叫び声!!由美香さんは、お前に精神を乗っ取られた後もなお、まだ抵抗を続けているのだ!!!」

 アドリブだが『由美香が助けを求めている』と言う事にした。

 由美香は混乱で、頭を押さえているが、それは『精神をのっとった怪人と、由美香が心の中で戦っている』と言う事にする。怒りで顔を歪めるのは『由美香が、心の中で助けを呼んでいるから』だ。

 航輝は、『嘘』だろうが、なんだろうが突き通すつもりでいた。


「お前が由美香さんの精神を乗っ取るという卑劣な方法を取った事、それ自体が悪を通り過ぎ、正に外道の振る舞い!!星の輝きは、お前の悪事を消して逃しはしない!!」

申し訳ないと思いつつも、ここで押し切らなければ《スターライツⅤ》の未来はない。

航輝は、精一杯の大見得を切る。


同時に都も、バイラオーラの仮面の奥で動揺を隠しながら、朗々と宣言する。

「われら、《ラ・フィエスタ》も、《忍び寄る影》のやり方には賛同しない!我ら堂々と悪の道を歩む者、そのような卑劣な手段で世界を征服しようとは思わぬ!」

「お集まりの諸卿は、この期に及び《忍び寄る影》のやり口に加担いたすか?!」

この頃には、既にそれぞれの悪の組織にも、有理の『作戦』が伝わっていた。

「われら、《北海の守護》を侮ってもらっては困る。《忍び寄る影》の卑劣なやり口は我が組織の方針とも異なるわ!これにて後免!!」

「われら《エターナルナイトメア》も、《忍び寄る影》に騙されていたようです。ここは引かせて戴きましょう。」

怪人たちは、それぞれ最後の台詞を吐きながら、続々と撤退していく。どの表情にも、一人の若者を嬲り殺しにしないで済んだという安堵感を残していた。

なかには、アドリブで『援護射撃』をしてくれる怪人もいる。

「これが、噂に聞く《忍び寄る影》のやり口であったか!《ラ・フィエスタ》の女幹部よ、礼を言うぞ、奴らにまんまと騙されるところであったわ。」

たった今作り出された架空の組織《忍び寄る影》に『噂』も何もないはずであるが、存在を主張している航輝と都以外の組織から「《忍び寄る影》の存在について知っている」との情報が出てくると言う事は、説得力を増す要素になった。


 この戦いは由美香が、航輝に与える制裁を、全世界にリアルタイムで中継するように手配した戦いである。さらには、一般市民も比較的安全な場所から、戦いを眺めることが出来るように手配されている。

 航輝と都が引き起こしたこの情報は、文字通り光の速さで、世界の知るところとなった。

◆◆◆

あるお茶の間では、風呂上りのお父さんがビール片手に、傍らの妻に質問した。

「んー、で、母さんや、つまり、これはどっちが悪いんだい」

「やですわー、お父さん、《サンクチュアリ》のリーダーが、新しく表れた謎の敵に操られていたのですよ。それを、あの《スターライツⅤ》のレッドって子が救おうとしているんですって、さっきそう言っていたじゃありませんか」

「なるほどのぅ……」

◆◆◆

 某国の某巨大掲示板では、ユーザーたちが口々に言い合っていた。

〉〉ん?じゃ、なんで《ラ・フィエスタ》の女幹部は《スターライツⅤ》手伝ってんの?

〉〉お前、理解力ないのか?《忍び寄る影》のやり方が気に入らなかったんだろ? 悪の組織には悪の組織なりの美学ってやつだ。イィじゃんそれ結構好きだぜ、そう言うの。それに、女幹部の名前はバイラオーラな。

〉〉別にお前の好みは聞いてねーよ。まぁ、でもあれだ、『ある時は敵、ある時は味方』ってさ、ダークヒーローとか最近めずらしいよな!

〉〉ああ、肉感的で結構可愛いしな!

〉〉ぷに萌えって奴だな!!

◆◆◆

某局テレビ、ニュース20XX番組内では、緊急特番が組まれた。

「えー、予定を変更してお伝えします。世界的正義の組織サンクチュアリのリーダー由美香さんが、謎の組織《忍び寄る影》の怪人に操られていたという信じがたいニュースが飛び込んできました。本日は、悪の組織の情報に詳しい、橋元さんにお越し戴きました。」

「どうも」

「《忍び寄る影》……通称《DSWL》ですか。あまり視聴者の皆さんに馴染みのない悪の組織ですね。そのような組織があったのですか?」

「はい、悪の組織は、そもそも名前を隠して行動します。また、悪の組織の数自体が少なくなってきたとはいえ、中堅以上の組織はまだ活動をしていますし、私が得た最新の情報によれば、合併統合などが繰り広げられ、大規模な組織改編が行われています。《忍び寄る影》もその組織改編の流れの中で――――」

◆◆◆

航輝は、このような世間の認識の変化を、悠里を通じて逐次連絡を受けていた。

自分たちのついた『嘘』が、複数のメディアによって、どんどん補強され『真実』となっていく事に、恐れに似た感情を懐きつつ、航輝と都は囁き合った。

「リアルタイムで全世界に中継って、怖いのねぇ……」

「ああ、一度“流れ”が出来てしまったら『事実』なんて何の価値もないな……」

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