希望の星の強調介入ー2
航輝が命がけの戦いを始める時刻より少し前。
悠里は重蔵に案内され、ある会議場へ向かっていた。
重蔵は、既に《ラ・フィエスタ》の首領ドン・ファンの格好をしている。
「悠里ちゃん」
「なに?おじさん」
「この作戦はね、やっぱり危険すぎると思うんだ。今からでも引き返して……」
「どうしたの?みんなで話し合って決めた作戦じゃない」
そうは言うものの、悠里も緊張で顔が青ざめている。
手足の先など、とっくに冷たくなり、感覚もないぐらいだ。
重蔵は「うーん……」と唸ると、言った。
「作戦の為とはいえ、君をあいつらに合わせるのは、気が引けないんだよ」
「私から頼んだことだもん」
「でもねぇ『いま航輝君を攻撃している悪の組織の首領』達と、直接話をさせろって聞いたときは、何をバカな事をと思ったよ」
そう、悠里は重蔵に今、航輝達《スターライツⅤ》を攻撃している六つの悪の組織、その全ての首領と会談できる場を用意してくれと、頼んだのだった。
悪の組織には『緊急会合』と呼ばれる、連絡会がある。
首領級または大幹部級の構成員のみが出席することを許され、話し合うのだ。
悪の組織間で起きたイザコザを解決する為に創られた制度だが、滅多に開かれることは無い。
ましてや、六つの組織を一度に同じ場所に集めて会議するなど、長く悪の組織を運営している、重蔵も経験したことがないほど大掛かりなものであった。
悠里は、ここで悪の組織の首領達に対し、派遣している怪人たちを引き上げて貰うように説得するつもりだ。
これが、悠里の立てた作戦の第一段階だった。
六つの組織すべての首領を説得し、《サンクチュアリ》の圧力を受けて派遣した悪の組織の怪人達を無力化する。あわよくば味方につけたいが、そこまでは無理だろう。
「あいつらはね、伊達に悪の組織の首領や大幹部をやってる訳じゃないんだよ。すごくひねくれているし……何というのかな。悪い大人の典型というか……とにかく、どんなときも性格の良いワシとは違うんだ」
自分で「性格が良い」と言っている段階で、かなり「イイ性格」だとは思うが、悠里は黙っている事にした。なんにせよ、悠里を心配して言ってくれているのだ。感謝していい。
「でもさ、ほかに私たちが生き残る手段が思いつかなかったんだもん」
「だけどねぇ、君に何かあったら、航輝君に殺されたって文句は言えないよ」
「そのお兄ちゃんが、再起不能になるかどうかって瀬戸際なんだもん」
「ホントに良いんだね?」
重蔵は、再度念を押す。
「うん」
「よし解った、魑魅魍魎の部屋に案内しよう」
決意を固めてくれたようだ。
「それから、会議場では『おじさん』って呼ぶのは禁止だよ。馴れ合ってると思われちゃうからね」
「うん、いや、はい、わかりました。ドン・ファン首領閣下」
重蔵は、笑いながら悠里の頭を、ぐりぐりと撫でた。
会議場の扉からは、何人もの大声が響き渡る。
「ラ・フィエスタからの申し出でで、集まったは良いものの、肝心のドン・ファンがおらぬではないか」
「私たちも作戦遂行中、そう長くは玉座を離れていられません」
「ふぇへっ。もう少しだけ待ってみようではないか」
どうやら、既に全員そろっているようだ。
重蔵が扉を開け、悠里もその後に続く。
(ここが……)
悪の組織の首領達がごく稀に行う会合の場。
それは、意外と小さい部屋だった。
二〇人も入ればいっぱいになるだろうと思われる部屋に机がコの字状に並べられ、召集に応じた、首領達が等間隔に座っている。
傍らには小さなモニターが三つほどあり、その中の一つでは、航輝が埠頭で沢山の怪人たちと対峙している姿が写っていた。
もうすぐ、戦闘が開始される時刻だ。
急がねばならない。
「おお、諸卿よ、よくぞ集まってくれましたな、《ラ・フィエスタ》を代表して、我輩が礼を申しますぞ」
「遅いぞ、ドン・ファン!!」
会議室に居並ぶ首領の一人が大声で避難する。
「これは、すまない。《北海の守護》の首領よ」
《北海の守護》の首領と呼ばれた大男は、口元の豊かな髭にバイキングの様な帽子をかぶった姿をしている。
「ふんっ!貴様でなければ、叩き切ってやるところよ」
「それにしても『緊急会合』とは、穏やかでは無いのぅ……これだけの組織の首領を集めての会談というのも、近年聞いたこともないしなぁ」
皮膚にいくつものしわが刻まれている、干からびた小柄な老人が口をはさむ。《邪仙導師》という悪の組織の首領だ。本人の話を信じるならば、今年で350歳になるらしい。
老人の言葉に、青年の声が答える。
怜悧な顔に、細い眼鏡、長い銀髪をオールバックにした二十五歳前後の青年だ。
「みれば、ここにいる首領の組織、全部が《スターライツⅤ》の征伐を行っている組織のようです。その関係でお呼びになったのではないですか?」
「さすがは、《エターナルナイトメア》の新首領。その知恵は限り無いですな」
ドン・ファンは如才なく、他の首領とも挨拶を交わしていく。
「それで?我らを呼んだのは、どういう意図がおありか?」
「ふむ、それが。我輩がというより、この娘に用があるのです。諸卿をこの場に呼び寄せたのも、そのせいでしてな」
ドン・ファンの姿をした重蔵が悠然とした表情で、居並ぶ悪の首領に言う。
悠里は、その声とともに一歩前に出て一礼する。
「それは誰です?」
「いま、諸卿や我らの、栄光ある軍勢が襲っている《スターライツⅤ》のメンバー。スターライツブルーこと、天地悠里君だよ」
その瞬間。会議室を、明確な怒りが支配した。
「ドン・ファン!てめぇ、血迷ったか!!ココが首領や大幹部以外発言すらできない場だと知っているハズだろう?!」
《北海の守護》の首領が、机を大きく叩く。
「ふむ、お主の事じゃ、掟破りであることは知りつつも、何か伝えたい事でもあったかな」
《邪仙導師》の首領が、茶をすすりながら聞いた。
そうでなければ、この場で殺すと言わんばかりの殺気を放っている。
「さすがは老師。この若き正義の味方が、どうしても諸卿に伝えたい事があると言って。我輩の所に訴えに来たのです。その時殺すことも出来たが……内容を聞いてみると、中々に面白い事を言っておりましてな。これは是非、諸卿にもお伝えせねばと、取り持った次第です」
平然と『嘘』をつき、芝居がかった一礼をする重蔵に、《エターナルナイトメア》の首領が一つため息をつきながら応えた。
「《ラ・フィエスタ》のドン・ファンがそこまで言うなら仕方ありませんね。小娘、話だけは聞いて差し上げます」
《エターナルナイトメア》の首領が言う。
口調は丁寧だが、細い眼鏡から除く目は果てしなく冷たい。
《北海の守護》の首領は、顎髭を揺らしながら豪快な口調で
「ハッ!!おおかた停戦の申し入れだろう?オレはそんな小娘の話を聞いてやる義理は無いね」
と言い放つ。
「ほっほっほ」
《邪仙導師》の首領は、からからと嗤う、。
「なぁに、北海のくだらない話ならば、このお嬢ちゃんの命を貰えばいいだけの事」
他の首領たちも、その言葉に同意したように頷く。
「ふんっ!話だけは聞いてやる。くだらない話ならば承知せんぞ!!」
大きい目玉を、ぎょろぎょろと動かすと、そう言い放って、席に着いた。
「ありがとう御座います。首領の皆様。また、しきたりを破り、皆様を騙すような真似をしたにもかかわらず、大きな心で私のような若輩の話を聞いてくださる、みなさんの懐の深さに感服致します」
悠里は、慎重に礼をいうと、頭を下げた。
どの首領も、一つの組織を纏め上げているだけある。
ただならぬオーラを纏い、悠里を睨みつけている。
(……これが、悪の首領)
悪の首領クラスなど、重蔵おじさんしか知らない悠里である。
しかも、悠里が小さいころから遊んで貰ったというだけで、悪の首領としての重蔵と面と向かって話したこともない。
悪の首領たちが集まるこの会合で、居並ぶ首領たちは、悠里が初めて体験する『凄み』を持っていた。
悠里など取って食われてしまいそうだ。
だが、ここでこの首領たちを説得できなければ《スターライツⅤ》に未来は無いし、埠頭で孤軍奮闘している兄の命も危ない。
命がけの会談が始まった。
「能書きはいい、さっさと用件を言え」
「我々も、いささか忙しい身でしてね。これから、あなたの兄上を、半殺しにしなければならないのですよ」
そんな事はさせない。
悠里はここへ、それを止めに来たのだ。
破滅的に不器用な悠里は、変身しても人並み以上に戦えない。
だが、自分の武器は、この『言葉』だ。
会議の場なら、悠里は人並み以上に戦えるのだ。
悪の首領達にどれだけ通じるか解らないが、ここで悠里が頑張らねば、航輝を助ける作戦は最初から躓くことになってしまう。
悠里は慎重に言葉を選び、そして言った。
「みなさんにお集まり戴いたのは他でもありません。皆様と我々の間におかれた不幸な行き違いについてです」
気圧されそうになりながらも、悠里は言葉を紡ぐ
「フンッ!思った通りだ!!話にならんッ!!」
ほれ見たことかと席を立とうとする《北海の守護》の首領に悠里は食い下がる。
「よしいのですか?!席をお立ちになるのは、あなたの組織が潰れてしまう事を意味します!!」
「なにィ!!」
《北海の守護》の首領がいきり立つ。
他の首領からも怒りの感情が伝わってくる。
禍々しいオーラが会議場の中に満ちる。
悠里はここへ、停戦してくださいと『懇願』しに来たのではない『説得』に来たのだ。
席を立たれる前に畳み掛けなければならない。
「勇気のあるお嬢さんのようだ。続けなさい。その言い回しだと私どもの組織についても、同じことなのでしょう?」
《エターナルナイトメア》の首領が、片方のこめかみに指を軽く当てながら言う。
「ふむぅ、どういう事かそれだけは聞いておいてやろう」
次の発言次第では、容赦しないと言う雰囲気だ。
小娘である自分が、駆け引きなどしても、生意気だと思われてしまうだろう。
悠里は、端的に切り出す事にした。
「我々は、《サンクチュアリ》について、告発する用意があります」




