復讐者のM&Aー10
もう話は終わりだとばかりに、追い出された。
消沈したまま夕凪市に戻る。帰りの電車の中で航輝はひたすら無言だった。
悠里は時折、何事か兄に言いかけては、その度に言うのを止めていたが、航輝は結局、自分から聞いてやる事は無かった。
帰りは夜遅くなってしまったが、悠里が夕凪駅で、都に電話を入れると、心配して自転車で駆けつけてくれた。
秘密基地に帰り、部屋に入ると地下とはいえ、かなり寒い。
炬燵はまだ出していないので、石油ストーブをつけると、少しは暖かくなった。ストーブの上に薬缶を載せ、お湯を沸かす。
航輝達は、秘密基地の畳の上にじかに座りながら、由美香から提示された作戦案を改めて検討することになった。
「これが、提示された作戦だよ」
都に、由美香から渡された作戦のメモを渡す。
「なに……これ?」差し出された用紙読んだ都は憤慨した。ポニーテールにしている長い髪が逆立っているようにも見える。
「こんなのひどいじゃない!」
「でも、これが傘下に入る条件なんだ」
「でも、って……こんな事やったら死んじゃうよ?!」
六つの悪の組織から怪人と戦闘員を集めるとなれば、総勢80人……いや、もっと多くに上るかもしれない。
80人以上の怪人や戦闘員と一人で戦うなど、考えただけでもゾッとする行為だった。防御に徹して逃げ回っても、10分とたたずにやられてしまうだろう。
「ねえ、こんな事されて悔しくないの!?」
都が、聞いてくる。悔しくない訳がない。由美香の嬉しそうな顔を思い出すたびに、頭がくらくらする程の怒りが滾る。
「そりゃ、俺だって悔しいよ。出来ることなら、鋭一さんの仇も取りたいし、あのお嬢様の鼻を明かしてやりたいさ」
「ほんとに?」
「ああ」
「じゃぁ、やりなさいよ。《サンクチュアリ》を敵に回して戦ってやんのよ」
簡単な事のように言う。それがどれだけ無理な事か……
「無茶言うなよ!そりゃ、最初はどうにかしてやると思ったさ。でも、ダメなんだっ!結局、世の中、金と権力を持っている方が勝つように出来てるんだよっ!!」
航輝は、苦しげにそう言葉を絞りだした。
『資本』を多く持っている者に、持っていない者が勝てるわけがないのだ。
それが、この世界の決まりなのだ。
都は焚き付けるだけで、何も解っていない。
突如、都は航輝の襟首を掴んだ。思いのほか強い力で掴まれると、ぐいと引き寄せられる。
息もかかるほどの距離に引き寄せられると、都の顔が航輝の視界いっぱいに広がった。
「あんたヒーローでしょ!」
その顔はとても真剣だ。
「あんたがっ!それを言ってどうするのよっっ!!理不尽な事されてんのよ?!馬鹿にされてんのよ?!―――どんな手段でも良いから反撃してやりなさいよぉっ!!ズレてるけど、決してブレないのが航輝の良い所でしょうがっっ!!」
都の目に涙が浮かんでいる。襟首を掴んだ手がさらに強く握られる。
「もっと、航輝のやりたいようにやって、いいんだよぉ……」
都の語尾が震えていた。
航輝は目が覚める思いだった。
正義の味方はヒーローだ。ヒーローが卑屈になってどうするのだろう。
世の中にはいろんなヒーローがいる。中には、卑屈な正義の味方もいるかもしれない。
でも――少なくとも、自分の目指すヒーローは、そういう事から無縁の存在だったはずだ。
目先のことに捕らわれて、自分を見失っていた。
これでは、都の方がよっぽど、『正義の味方』っぽいではないか。
「ああ、そうだな」
「なにが?」
「戦おう」
「だれと?」
「《サンクチュア……いや、理不尽と」
「どうやって?」
「わかんないよ、でも、なりふり構わずに」
あいつらが、なりふり構わず来るなら、こっちもなりふり構わずに戦ってやる。航輝はそう思った。
作戦はこれから考える。
失敗した後のことなど知った事か。ダメだったら《スターライツⅤ》が無くなるだけだ。
都は至近距離で、しばらく航輝の顔をじぃっと観察すると
「―――よしっ!」
ようやく、都の腕が襟首を放した。
「やっぱり、都さんに来てもらってよかった」
二人の話を聞いていた悠里が口を開く、笑う悠里の顔にも、涙の跡があった。
夕凪駅で、都を呼んだのは、都ならばきっと、航輝の目を覚まさせてくれると考えての事だったのだろう。
自分では兄を説得出来ないと考えたのだ。
都だけではなく、妹にも心配をかけてしまっていた事に、申し訳ない気持ちが募る。
「ねぇ、お兄ちゃん、都さん」チョコレートを口に放り込みながら言う。
「わたし、やってみたい『作戦』があるんだけど……いいかな?」
「何か考えがあるのか?」
航輝が悠里に聞く。頭の回転の速さにかけては、航輝など及びもつかないのである。
「うん、もう条件は揃ってるんだ。すっごく難しいし、《ラ・フィエスタ》の力を借りないと無理なんけど……」
「なんでもいって。お父さんが渋るようなら、下剋上でも何でもしてあげる」
物騒な事を言う都が、頼もしく見える。
「うん、上手くいけば、勝てる……と、おもう」
悠里はそう言うと、照れながら微笑んだ。




