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復讐者のM&Aー9

数日後、航輝は悠里と聖園コンツェルンの本社ビル訪れていた。

都心の高層ビル群の中でも、ひときわ大きい。

円柱状のビルで、壁面には光を反射するガラス窓が無数に取り付けられている。丸みを帯びた外観に十二月の冬空が映り込んでいた。

周囲には公園が整備されており、一般にも開放された都会のオアシスとなっていた。

「ここが……」

航輝が呟く。改めて《サンクチュアリ》の大きさを思い知らされた思いだ。

「やっぱり、おおきいよねぇ……」

悠里も同じ思いでいたらしい。

航輝達の秘密基地が家の地下、六畳半程度の部屋が二つだけだと考えれば、この差はもうどうしようも無いのかもしれない。

「ねぇ、ホントに行くの?」

「ああ、もう、他にどうしようも無いだろ」

「うん……」

航輝は、今日、由美香に謝罪し「傘下へ参入したい」と言うつもりでやって来たのである。

家族の悠里が襲われ、それと同然の鋭一が怪我した今、これ以上、意地を張っても仕方がないと考えたのだ。

鋭一が怪我をした日の夜、病室でその決断をメンバーに話した。

悠里は「自分が戦わなかったせいか」と航輝を問い詰め、鋭一は「そうか」だけ呟いただけだった。

一晩かけて悠里を説得し、聖園コンツェルンに電話すると、今日の夕方に本社ビルに呼び出されたのである。

《サンクチュアリ》の本部はこの本社ビルの中にある。少し早めについてしまった。

受付に話を通すと、しばらく待合室に行くように指示された。

広いビルの中をうろうろしながら、ようやく待合室を見つける。そこには、他にも十名近い人間が待たされていた。皆、スーツ姿なので、学生服の航輝と悠里だけが浮いている。

航輝は、順番が近づくにつれて。緊張で手が汗ばんでくるのを感じた。

一度は、強く断った《サンクチュアリ》の傘下入りだが、こうなっては由美香の許しを得るために、こちらからお願いしなければならない。


執務室に通される。面談時間は十分らしい。

広い部屋に沈み込むような絨毯が敷き詰められた部屋には、細部にまで彫刻がが施された調度品が並んでいる。

その正面、巨大な机の奥の椅子に、由美香は座っていた。傍らには無表情の斎木が、気配を殺して控えている。

「久しぶりですわね。天地航輝」

由美香は、開口一番そういった。顔には満足そうな笑みを浮かべている。航輝を屈服させるのが嬉しいのだろう。隠そうとしているのだろうが、全く隠せていない。

「お久しぶりです、聖園さん」

航輝も返事を返す。

「電話での用件、あれは本当なのかしら?」

由美香は、用件を切り出した。

「はい。俺が、いや私が間違っていました。聖園さん。貴女の傘下に入るという話。あれをもう一度、考え直してくださいませんか」

これしか方法は無い。

「私のやり方が、正しく。あなたが間違っていたと言う事ですわね」

「はいっ」

自分が正しかった事を執拗に認めさせようとしている。やはりこの女性の精神構造は子供だ。

「さて、どうしましょうか。私としては《スターライツⅤ》など、このまま潰れてしまっても構わないのですけれど……」

「お願いしますっ!是非、傘下にっ!!」

航輝は腰を直角に曲げて、お辞儀する。認めてもらえなければ土下座だってしてやる。

悠里も横で同じように頭を下げた。

「ほんとうに馬鹿ね、最初にハイって仰っていたら、こんな事をすることも無かったのに……」

そう言うと、由美香は引き出しから一枚の紙を取り出して、机の上に投げ出す。

「そんなに我々の仲間になりたいのならば、これをご覧なさい」

「それは?」

「わたくしが考えた『《スターライツⅤ》の作戦概要』ですわ。この作戦を遂行すること……それが。傘下に入るための条件です。―――喜びなさい全世界中継ですよ」

航輝が、机に歩み寄り、その紙を手に取った。

「……こ、これは」

読んで愕然とする。 そこには……


【作戦概要】

一、複数の悪の組織の怪人や戦闘員達が、集まっているという情報を得る。

二、功を焦った《スターライツⅤ》は、不覚にも《サンクチュアリ》の指示を無視して、単独行動をしてしまい、集合地点に早く着き過ぎてしまう。

三、そのため、集合していた悪の組織の怪人たちに徹底的に痛めつけられる。

四、ダメージが、限界に達するか否かという所で《サンクチュアリ》が、慈悲の心から助けに入る。

五、助けてもらった《スターライツⅤ》リーダー天地航輝は、改心し、聖園・ジゼル・由美香にすがり、今までの行動が浅はかだったと涙ながらに許しを請う

六、聖園・ジゼル・由美香は、これを寛恕し、スターライツレッドを仲間の一端に加える。


―――といった作戦の概要が書かれていた。概要と言うよりメモに近い。


要するに《サンクチュアリ》が『圧力』をかけて呼び出した悪の組織に、寄ってたかって航輝達をリンチさせるのだ。ボロボロになったところを見計らい、由美香が慈悲深く『助けて』やり、めでたしめでたし、という風にしたいのだろう。


(これは制裁だ……)


航輝はそう思った。

世界規模の生中継のなかで、《スターライツⅤ》を徹底的に貶めるつもりなのだ。

対外的にも完全に屈服させないと、気が済まないらしい。

「そこのおちびちゃんがやられる所は、誰も見たくないでしょうから、参加しないでも結構ですわよ」余裕の表情で由美香がいう。

航輝は「……ありがとうございます」と言うのが精いっぱいだった。

悔しさで目が眩みそうだ。


「あ、あのっ!お願いがあります」

航輝のうしろで、渡された資料をじっくりと読んでいた悠里が、やがて一歩進み出て言った。脚はぷるぷると小刻みに震えている。

「なんです?天地……悠里でしたわね。作戦をやらないでなんて言っても聞きませんよ」

 由美香が、椅子に深く腰を掛けて言った。

「い、いえっ!そうじゃないんですっ!!」

悠里は、メモの一番最初の項目を指さして言った。

「この、『複数の悪の組織の怪人や戦闘員達』という所ですが、参加する悪の組織はもう決まっているんですか?」

「斎木。どうなのです?」

由美香本人は、そこまで知らなかったのだろう。斎木に聞いた。

「いいえ、お嬢様。まだ選定しておりません」

 斎木が答える。

「だそうですわよ。でも、問題はありません。作戦決行までまだ時間がありますから。中堅程度の悪の組織なら、私たちの要請を断れるところなんてありませんもの」

その返答を聞いた、悠里は、もう一歩前に進み出て言う。

「その相手、私たちで選ばせて欲しいんです!」

「お、おい悠里……」

「いいからっ!」

突然の事に制止しようとした航輝に言葉を、悠里は振り払う。

悠里の意図が航輝には解らなかった。

「なぜです?」

思いがけないことを言われた由美香も、驚いて悠里に聞いた。

「どうせやられるなら。やられる相手ぐらい、自分たちで選びたいんです」

その言葉をきょとんとした顔で悠里を見ていたが、やがて笑い出した。

高い笑い声が執務室に響く。

「斎木、聞きましたか?健気な事を言うじゃありませんか」

やがて、執務室の机に肘をつき、手の甲をの上に自分の顎を乗せると切り出した。

「良いでしょう。組織の最期ぐらい選ばせてあげます。ただし、組織の数は六~七団体それ以下は認めません。また構成員三〇人以下の小さい規模の組織は禁止します」

もしかして《ラ・フィエスタ》を巻き込むつもりか。


「……わかりました。ありがとうございます」

悠里は、由美香の言葉を注意深く聞いていたが、やがて深く頭を下げた。


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