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復讐者のM&Aー8

夕凪病院。

夕凪市に流れる八往川沿いにある、私営の大きな病院である。夕凪市で、少し重い病気にかかると、ほとんどの市民は、ここの外来にかかる。

ただ、一つ面白い科がこの病院には設置されている。『ヒーロー科』という名の医科だ。

体の中に変身装置を埋め込んだ、正義の味方や悪の怪人等が、病気をした際に、かかるのだ。

悪の組織の怪人であっても、お金さえ払えば、診てくれると言う。実に割り切った経営方針を示しているのが、夕凪病院ヒーロー科であった。警察からは睨まれているが、夕凪病院の医師は、医者の秘匿義務を盾に決して情報を教えない。

当然、航輝や都なども、この病院が掛かり付けであった。

「鋭一さんっ!!」

「よう、航輝」

あわてて病室に入った航輝に、鋭一が、ベッドの上で手を挙げて応える。

両足にギプスが固定され、吊り上げられ、頭には包帯が巻かれていた。

鋭一が、この病院に運び込まれた事を知ったのは今から一時間ほど前の事である。

悠里から、鋭一と悠里が襲撃を受けた知らせを受けた航輝は、取るものもとりあえず病院に向かったのだ。悠里の話では、自分を守る為に一人で戦ってくれたのだそうだ。しかも、相手の一人は、鋭一と互角の力を持つ沙理奈である。

病院で向かう途中、航輝の脳内には、最悪の想像が巡るましく浮かんでは消えていた。

「ああぁぁ。無事でよかった」

鋭一の姿を見て、安堵の声が漏れる。

「おう、悠里ちゃんは無事だぜ。俺をここまで運んでくれたんだ」

それも嬉しいことだが、そういうことではない。

「鋭一さんが、無事でよかったって事ですよ」

「まぁ、死なずには済んだよ」

なんと言うことも無いといった表情で、鋭一は話す。

「てて……。それにしても沙理奈のやつ、手加減なしに切りつけやがって」

鋭一が、そう言って、顔をしかめたとき、悠里がコンビニの袋を持って病室に入ってきた。入院する鋭一のために、歯ブラシや着替えなど、身の回りの品を買ってきたのだ。

「あ、お兄ちゃん」

「いやぁ、驚いたよ。慌てて結局、何も持たないで出てきた」

「うん……私、何も出来なかったよ」

悠里が、落ち込んだ声を発した。

「悠里ちゃんは、いろんなところに電話して、俺をここまで運んでくれたじゃないか。すげぇ、たすかったよ」

鋭一が、悠里を慰める。だが鋭一に慰められると悠里は、ますますしょげかえった。

「だが、すまんな航輝。しばらく作戦活動は、出来なくなっちまった」

 鋭一が、航輝に謝罪する。

「そんなの、何の問題もありませんよ。はやく良くなってください」

「お医者さんの話では三ヶ月は、安静にしておけだって」

航輝の言葉に、悠里が言い添えた。


 悠里と共に、病室から出る。

 航輝の前では元気を見せていたが、横になると、直ぐに寝息を建てて寝てしまった。かなり、無理をしていたのだろう。

 清潔に消毒された廊下を、悠里と並んで歩く。悠里が他の入院患者や看護師にぶつからないよう気をつけながら、突き当りの休憩スペースまで赴いた。自販機からイチゴ牛乳とお茶を買うと、イチゴ牛乳の方を悠里に渡す。

「ほら、おまえも、のど渇いてるだろ」

「うん、ありがと……」

いつになく、気落ちした姿は、見ていて痛々しい。

「その場には、沙理奈さんもいたんだって?」

「うん、いた」

悠里が答える。

「そっか、じゃぁ、たとえ俺がいたところで、助けることは出来なかったよ。あの二人が戦っているところに入ることなんて無理だ」

沙理奈ならば、鋭一のほかに悠里がいた事もわかっていたはずだ。悠里が無事だということは、見逃してくれたという事である。

「うん、ありがと」

悠里は、そういうと、イチゴ牛乳の一口飲む。

「なぁ、悠里、これも聖園さんの差し金だと思うか?」

航輝は話題を変えた。悠里にほかの事を考えさせようという意図もある。

「うん、そうだと思う。沙理奈さんが引き抜かれたところ《サンクチュアリ》の系列組織だし」

「そうか……」

やり方が汚すぎる。

航輝は思った。これではまるで、マフィアのやり口ではないか。

(ここまで、やるのか)

逆に、ここまでやらねば、正義の組織の意地と言うものは張れないのかとも思う。

あの状態の悠里たちには話せなかったが、今日、債権者を名乗る《サンクチュアリ》のメンバーが、一人で留守番していた航輝の許を訪れて「借金を返せなければ、秘密基地を差し押さえる」と言ってきたばかりであった。  

(これ以上、みんなに迷惑をかけることは出来ない……)


航輝は決断しなければならなかった。

そして、もう、その答えは出ていたのである。

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