復讐者のM&Aー7
あれから、ひと月の間《スターライツⅤ》は、どうにか上手くやっていた。
依然、圧力がかけられている事には変わりないが、皆で話し合い《スターライツⅤ》としてではなく、他の組織の作戦をサポートするというやり方で、収入を得ていた。
粘り強く交渉して解ったのだが、正義の組織や悪の組織の中には、航輝達に同情的なところも少なからずあった。そういう所に頼み込んで、助けて貰っているのである。
根本的な解決にはなっていないが、とりあえず、生き延びることは出来ていた。
その日は《ガルーダ》と言う正義の組織の手伝いとして、悠里が駆り出されていた。
悠里は、不器用だが、タイムスケジュールの管理やスポーツドリンクの手配など、主に裏方の面で有能であった。そのため、戦うしか能がない鋭一や航輝などよりも重宝がられ、依頼が舞い込んでいたのである。
「わぁぁー。天地ちゃん、ありがとねぇ。これ、少しだけどぉ、色つけといたからねっ」
《ガルーダ》のリーダーが言う。百九十センチの巨漢だが、話し方はじつに『お淑やか』だ。
「ありがとうございますー。また何かありましたら、声かけてくださいねー」
悠里も、物おじせずに答えた。
小さい悠里が、この巨漢と話すときは本来、首が痛くなるほど見上げなければならないが、この巨漢は、悠里と話すときだけ、身を窮屈そうにかがめて、出来るだけ低い位置で話してくれる。悠里の好きな相手の一人だった。
「ほんっと。ゆうりちゃんなら、ウチに来てもらいたいくらいよぉ」
「それは、だめですよぉー。迎えが来てますので、これで失礼しますねー」
改めて礼をすると、車で迎えに来てくれた、鋭一のもとへ走った。
「弥栄さん、おまたせー」
「おつかれ。悠里ちゃん」
悠里が車に乗り込むと、鋭一が声を掛けた。
「《ガルーダ》のリーダさん、やっぱりいい人だねぇ。すこしオマケも貰っちゃったよ」
「あいつはかなり、変わっているからなぁ……俺は苦手だよ」
「ハハ……弥栄さんには、そーだろーねー」
たしかに、鋭一の理想とする相手とは、対極に位置しているような男である。
「ありがとうね。車で送り迎えして貰っちゃって」
「いいって。いいって。最近は悠里ちゃん頼みだし、もう遅いしさ。それに、ここまで電車で来ると結構かかっちゃうだろ?」
今日は、航輝達の住む夕凪市から車で四・五十分ほどかかる場所にある久原町まで遠出をしたのだ。
「うん、そうだけど」
「それに、『俺の天使』と、狭く閉ざされた空間の中で甘く語り合うなんて、実に素敵な事じゃないかっ!!」
「きわどい表現を使うなーっ!!」
これさえなければ、本当にいい『お兄さん』なのだ。顔はいま風のイケメンだし、細かいことにも気を配ってくれるし、強いし、お兄ちゃんも信頼しているしと、すべてプラス要素なのだが……。この趣味と言うか性格で、ギリギリアウトである。というか全てが台無しになっているとも思う。
本人は、崇高なポリシーだと言い張っているが、悠里にはどうしてもよく解らない。
不意に、鋭一がいつになく真剣な口調で言った。
「悠里ちゃん」
「ん?なに?」
「すこし手荒な事になりそうけど、良いかな」
言葉の字面だけを見れば、襲われるのでは無いかと言う話になるが、
鋭一の性格をよく知っている悠里には、そういことを言っているのでは無いとわかった。
「どうしたの?」
不安に思って聞く。
「夜とはいえ、ここは環状線だぜ、周りに車が少なすぎないか?」
そう言われて、周囲を見回す。鋭一の言うとおり、たしかに周りに車が少なすぎる。
この場合、考えられる可能性は二つしかない。
一つは、純粋に交通量が少なくなった場合。
もう一つは、『自分達の為にこの状況が用意された』場合である。
「弥栄さん、変身しておいた方がいいかも。」
「そうだな」
二人は車内で変身をする。この先には確かトンネルがあったはずだ。
「ああ、やっぱりだ。みてごらん、あれ」
「……ッ!」
見通しの良い直線道路、トンネルの入り口から5mほど入ったところに左右に分かれて正義の味方たちが並んでいた。
全部で10人程度であろうか、みな完全武装をしている。
襲撃があると可能性は考えていたが、これほどの規模とは思わなかった。
中央にいるのは、コスチュームこそ変わってはいるが、もと『スターライツピンク』の九条紗理奈だ。手にはパーソナルウエポンの偃月刀を構えている。
「あれ!紗理奈さんだっ?!」
叫ぶ悠里に、鋭一が応える。
「ああ、そのようだっ……くそッ!!引き抜きを断ったら、今度は襲撃かよッ!!節操がないのは、男も女も嫌われるぜッ!」
沙理奈は、鋭一と同じぐらいに強い、ベテランの正義の味方だ。他の人もそれなりに強いにちがいない。
「弥栄さん、どうするの?!」
「悠里ちゃん、ごめんっ!!痛いけど我慢してくれよ!!!」
「えっ!?」
走行中の車の中、悠里の腕を片手で掴むと、走行中の車から悠里の体を『投げ捨てた』。
「ええええええっっっ!!」
スターライツブルーに変身している悠里は、走行中の車から突き落とされたぐらいで死にはしないが、急に投げられた事には驚いた。
アスファルトの地面に打ち付けられ、数回バウンド、数メートルの距離を転がった。
衝撃で一瞬、意識が朦朧とする。
倒れたまま、悠里は、鋭一の車を眼で追った。
トンネルの入り口でぐじゃぐじゃになった車が見える。
鋭一は、トンネルの入り口に車を追突させ、その煙と炎で、悠里を隠してくれたらしい。
更に目を凝らす。
炎と煙のカーテンの奥で、鋭一が、複数の正義の味方達を相手に激闘を繰り広げていた。




