安心できない景況感報告ー5
それにしても、肝が冷えた。
少年が落下しそうになった時、《スターライツⅤ》の誰もが助けられる位置にいなかった。
偶然、本当に偶然―――。都があの場にいなかったら、きっと、取り返しのつかない事態に陥っていただろう。
航輝は、都が身を挺して、少年を救ってくれたことに感謝した。これは《スターライツⅤ》を救ってくれた事にも等しい。
しかも、周りのギャラリーに悟られないように、バイラオーラとして戦ってくれると言うのだ。
―――しかも、変更前のバイラオーラのコスチュームのままで。
先日、都の家に訪ねて言った時、「迷惑をかけてごめん」と謝っていたが、迷惑をかけ通しなのは自分たちの方では無いか。
「どうした、スターライツレッド。また、蹴り飛ばされたいのかっ!」
都が挑発の声を上げる。戦い易くしてくれているのだ。
「なにをっ!貴様を倒すために積んだ特訓の成果を見せてやるっ!」
アドリブで、返答する。
本当は、そんな事何一つしていないが『そういう事』にする。
「せやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
掛け声とともに、都が大きく跳躍しながら、空中で一回転すると、航輝に跳び蹴りを仕掛ける。スターライツレッドに変身はしているが、まともに受けたら、航輝の腕など折れてしまうだろう。
剣を抜くと、都の靴を正面から受け止める。その衝撃を受けた航輝の足が、屋上のコンクリート地面に鈍い音を立てて沈み込んだ。
「まだまだっ」
都は、飛び蹴りを受け止められた剣を足場にして、更に二回空中で蹴りつけ、さらに跳躍。
着地と同時に、身を沈み込ませ、大きく足払いをしかける。
航輝がジャンプして避けると、都の姿は、既にそこにはいない。航輝から見て右側方に跳躍したのだ。
なるほど、跳躍を繰り返し、航輝の周りを前後左右に飛び回ることで、周りのギャラリーの撮影から逃れようという意図だ。
「考えたなっ!」
都だけに伝わる様に、小声で言う
「そうやすやすと、写真を撮らせてなるものですかっ」
都もそれに応じた
案の定、周囲からは。
「うおお、すげぇ、目が追い付かないぜっ!」
「ああ、でも、高速で動かれると、写真に撮り辛いなぁ……」
などと話している。少し、いい気味だ。
めぐるましく位置を変え、二人は戦う。
都は、『死神の靴』の脚力を十分に発揮し、航輝を翻弄する。
『死神の靴』の戦い方を、都なりに工夫した結果がこれであった。
壁や地面、ときには航輝自身をも踏み台として縦横無尽に飛び回り、航輝にダメージを与えていく。
「くっ……!!」
航輝は、この戦法に思いのほか苦戦していた。
周囲を高速で飛び回る相手に、剣だけでは防御に徹するのが精いっぱいなのだ。
肌を周囲のギャラリーに撮影されたくないという動機から出た戦法であるとは思えない。
戦闘補助システムを使っているとはいえ、やはり、都には才能がある。
認めるべきだ。この戦法を使った都は、強い。
このまま、防御だけしているというのも、ギャラリーが不信がるだろう。
航輝は、剣の能力を使う事にした。
「使うぞ!剣!!」
「え、ちょ。まってまって」
航輝の予告に、都は慌てる。
都の『死神の靴』が、『ステップを踏めば踏むほど、着用者のキック力とジャンプ力を強化する』の他、様々な能力を持っているのと同様に、航輝のパーソナルウエポンの一つ『スターライツソード』にも、『斬撃を前方に衝撃波のように飛ばす』という能力があった。
何処でもよく見る技のようだが、自分の武器に能力を取り付け、強化する際に『最も安いもの』のジャンルの中から選んだのだから仕方がない。《スターライツⅤ》はいつでも財政難なのだ。
『死神の靴』とは違い、一日に一~二回程度しか使えないし、斬撃も3m程度しか飛ばないが、無いよりはましである。
バイラオーラに走りより、看板ごと下から掬い上げる様な斬撃を放つ。
回避した都の後ろにあったヒーローショウのステージ近くにあった、大きな広告の大看板が斜めに切り裂かれる。
「急に、キツいってっ!」
「わるいっ!その戦い方、強いから、こっちも精一杯なんだっ!!」
後方で、頭の上で手を交差させ大きなバッテンを作った悠里が、小さな体で飛び跳ね、精いっぱいアピールしている。
どうやら、さっきの大看板の破壊で、破壊して良い限度ぎりぎりになったらしい。
二人とも頷く。
そろそろ頃合いだ。
「このままでは決着がつかないかっ!!」
大声で、航輝がそう言うと、都も大声で返答する。
「ふっ!!さすがスターライツレッド、手ごわいなっ!今日のところは、これで引き上げよう。いずれ決着をつけてやるっ!!!」
そういうと、大きく跳躍し、建物の屋上伝いに退散していった。
周囲のギャラリーは。
「おい、バイラちゃんが逃げていくぞ!?」
「バカ。引き分けだよ」
「それにしても、戦ってた戦隊系のヒーロー。あれ、だれだ?」
「なんか《スターライツⅤ》のレッドって言ってたぜ」
「ほー。強いんだな。バイラちゃんと引き分けてたし。しかも、なんかライバル視されてたみたいだし」
などと口々に言っていた。
これで、航輝達《スターライツⅤ》が口コミで広がっていくのは、間違いないだろう。
夕凪駅百貨店屋上での戦いは、偶然に起きたにしては珍しい程、大成功を収めたのである。




