表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/39

安心できない景況感報告ー4

その日、都はかなり機嫌が良かった。

航輝が「他の人間に、変身した姿をあまり見せたくない」と言った主旨の発言をしてくれたのだ。

それはつまり、都の肌を人に見せることに、妬いている事に他ならない。

その日のうちに、父を説き伏せた。

「コスチュームを少し変更するだけでいい、同意しなければ、家を壊す」とまで、言ったら、さすがに重蔵も折れた。

「家を出るとかなら、まだ可愛げがあるんだがねぇ。家を壊すってのは、まるっきり脅迫だよ」

などと言っていたが、気にならない。

航輝も援護してくれたし。説得は成功した。

―――そんなわけで、機嫌が良いのだ。

ついこの前まで、全世界の争いが自分のせいだと思う程、悩んでいたにもかかわらず、我ながら現金なものだと思うが、こればかりは仕方がない。


問い合わせたところ、あまり大きな変更は出来ないが、幾つか変更することは出来るらしい。

今日もこれから、家に帰って父を始めとした《ラ・フィエスタ》の幹部達と、デザインについて調整を重ねる予定だ。

デビューしたばかりのバイラオーラのイメージを変える訳にもいかないので、あの挑発的な感じは残さざるを得ない。しかし、それがエロティックに見えるかどうかという点において、ぎりぎりの調整が続くだろう。

こんなにも『悪の組織コスチュームカタログ』を真剣に見た日々は無い。

航輝の普段見られないところを見ることが出来。さらには念願の人前でバイラオーラの外見を、ある程度、変更出来る機会に恵まれたという事。

機嫌が良くなるに決まっている。


そんな都は、今、夕凪駅前の百貨店にいた。

駅前の商店街に買い物に行ったついでに、航輝達に会いに来たのだ。

航輝達は、夕凪駅前の百貨店で風船配りのヒーローショウにバイトとして参加していると言っていた。

バイトが終わったら、皆を食事に招待しつつ、バイラオーラの外見について意見を聞きたいなどと思っているのだ。


夕凪駅前の百貨店高松屋の屋上には、屋上遊園地が設置されている。

一回十円で上下に動くだけの乗り物や、モグラたたきなどのゲームが並んでいる大型のテントでなのあるが、日曜日になると特設ステージが設営される。

「はーい、良い子のみんなー。正義の味方さんが来てくれましたよー」

うぐいす嬢が、朗らかな声で紹介する。

そこでは、テレビでお馴染みの、有名な正義の味方の着ぐるみが、悪の組織の着ぐるみを退治していた。

航輝の姿を探すが、ステージの上にはどこにも見当たらない。

「都さんも来てくれたんだねー」

航輝の姿を探す都を、若草色のワンピースに白いポーチをたすき掛けにした悠里が目ざとく見つけると、近寄ってくる。

「あ、悠里ちゃんも着てたんだ」

「うん、私は、まだ中学生だからね。バイトは学校で禁止されてるんだけどさ。日曜にウチで一人待ってるのも寂しいし、遊びに来ちゃった」

「そっか。ねぇ、ステージに航輝の姿が見当たらないんだけど。どこだかわかる?」

先ほどの疑問を、悠里に聞いてみる事にした。

「ん?お兄ちゃんなら、ステージにはいないよー?」

「え、ヒーロー役のバイトじゃないの?」

てっきり、ヒーローショウに出るヒーロー役を演じるのかと思っていたが、そうでは無いらしい。

「うん、変身して戦ったら、着ぐるみ着てるだけの一般の人なんて、殺しちゃうでしょ?だから、ほら。あそこ」

そう言われてみれば、そうである。

言われた方向を見ると―――ステージの横では、スターライツレッドに変身した航輝が、ポーズを決めながらキャラクターの描かれた銀色の風船を配っていた。

その横では、スターライツイエローに変身した鋭一が、細長い風船を器用に丸め、犬だとか、花だとかを作っている。

「あああ」

本物の正義の味方が、ヒーローショウのヒーロ役にも出られずに、風船を配り続ける姿は、実に哀愁を誘うものであった。ちゃんと謝って、気にしていないと言われたとはいえ、さすがに申し訳なさが募る。

「どうしたの?」

口元が引きつっていたのが、気になったのだろう。悠里が首をかしげながら聞く。

「い、いや、なんでもないわっ。たいへんだなーって思っただけ。」

「へんた……弥栄さんなんかは、そうでもないみたいだよ。『子供たちに囲まれて幸せすぎる』とか言ってた」

たしかに鋭一は、風船をねだる子供たちに囲まれて、至福の時であろう。スターライツイエローに変身していて表情は見えないが、確実である。

子供たちの要求に答えて、風船を器用にねじっては、動物や剣、冠などを作っていた。

何処であんな技術を学ぶのだろう。本当に子どもたちの為ならば何でもする男である。

「弥栄さんから、悠里ちゃんも持っていなきゃだめだ。とか力説されて渡されたけど。私が持ってると、完全に小学生になっちゃうから、都さんにあげる」

そう言って、悠里は手に持っていた風船を都に手渡した。

緑色の風船とピンク色の風船を組み合わせ、お花の形にしてある鋭一の力作だ。

たしかに、小柄な悠里に、ワンピースとポーチと風船という組み合わせは、小学4年生ぐらいに見えなくもない。

「あ、ありがと」

とりあえず、お礼を言って受け取る。

「そうだ、悠里ちゃん達さ。今日ウチに来ない?」

都は、話題を変えるつもりで、今日言おうとしていた要件を切り出した。

「都さんち?」

「うん、バイラオーラの服、少しだけ変えても良いって事になったのね」

「お兄ちゃんから、きいたきいた。都さん。ほんっっとうにおめでとう」

「うう、ありがとう。悠里ちゃんなら解ってくれると思ってたよ」

嬉しさで、つい涙がにじむ。

「で、お父さんの説得も、航輝が援護してくれたからさ、そのお礼も兼ねて夕飯に招待しようかなって思うんだけど……」

「それは、私も行っても良いのかなぁー」

悠里が聞く。なにやら意地悪い顔をして居る様な気がするが、気にしないことにした。

「いいっていいって。もう、どうしてそういう事、聞くかな」

「やった。ウチに一人だと寂しいんだよね」

そう言うと、「じゃぁ、私、お兄ちゃん達に話してくるねぇー」といって走っていった。


航輝が配る風船を持った子供たちが、あたりを走り回っている。

風船に印刷されているのは、世界的な正義の組織サンクチュアリのリーダーの顔だ、確か聖園・なんとか・由美香と言う女の人だったと思う。ミドルネームまでは覚えていない。

この前、悪の大組織トータル・ディプロヴァリーを打ち破った正義の味方だ。《ラ・フィエスタ》など足元にも及ばない巨大組織が潰されたということで、父がいろいろ調べていたからよく覚えている。

ヒーローショウで開かれている劇も、その時の事を題材にした劇であった。

子供達は、そんな劇を見たり、走り回ったり、謎の遊具で遊びたいと母にだだをこねたりと、それぞれ楽しそうに遊んでいる。

そんな情景を、都は、あれぐらいの頃に、航輝と初めて逢ったのよねぇなどと思い出しながら、眺めて待つことにした。




男の子は困っていた、今年三歳になる妹が泣き止まないのだ。

理由は、フェンスの奥に転がっている花の風船にある。妹が、さっきあそこで、黄色い正義の味方のお兄さんに貰ったものだ。

お兄さんは、男の子にも剣の形の風船を作ってくれた。風船であんなふうにいろいろ作れるなんてすごいと思う。

貰った剣を振り回して遊んでいたが、妹がそれも貸してほしいと言ってきた。

当然、嫌だったが、お母さんに「お兄ちゃんでしょ」と言われ、仕方なく貸した。

たった二歳しか離れていないのに、いつも自分だけが我慢しなければならないのが男の子の不満なところだ。

妹はしばらく剣で遊んでいたが、強い力で握りしめるものだから、風船が割れてしまった。

「なにするんだよ!」と男の子は当然の抗議をしたけれども、妹は気にする事無く、自分が作って貰った花の風船で遊び始めるではないか。

すごく腹が立ったので、妹の風船を取り上げて、屋上遊園地のフェンスの下にあった隙間から、向こうへ捨ててやった。

花の風船を取り上げられ、妹が泣く。

男の子にとって妹は、何かと言えば、すぐに泣いてとても気に入らない存在なのだ。それでも、ずっと泣かせていると、急に可哀そうになってきて、自分が悪いのではないかと考えてしまう厄介な存在だった。

「なくなよ!また、あたらしいの、もらってきてあげるから」

男の子は、そう言うと、さっきのお兄さんのいた所を見たが、いない。

ちょうどその頃、お兄さん、つまり鋭一は悠里に呼ばれて奥で話をしていたのだが、男の子にそれが解るはずも無かった。

困った男の子は、次に、近くにいる母親の所に行って、訴えてえた。

しかし、母親はその場で会った同年代のママ達とのおしゃべりに夢中で、軽くあしらわれてしまう。

全体重をかけて手を引っ張っても、話を聞いてくれる様子の無い母親をあきらめて、妹の所に戻るが、妹は泣きっぱなしである。

困り果てた末に、彼は何とかして『あの風船』を取りに行かねばならないと、幼心に思ったのであった。


この百貨店にある屋上遊園地は、屋上だけあって、安全に配慮し充分なスペースを取ったうえでフェンスが設置されている。

フェンスは風雨による浸食を防ぐために、錆びにくい塗料を塗られていることはいるのだが、長年使用しているとそれが剥げ落ち錆が浮いて腐食を始める。

通常、そうなる前にフェンスは取り外し、新しいものを設置するのであるが、この百貨店はそれを怠っていた。

フェンスの下の部分が腐食し、小さい穴が出来てしまった所を、ダンボールや木箱などを積み上げ隠し『危険ですので近寄らないでください』との張り紙を張り付けるだけの処置をしているだけだったのである。

男の子は、そのダンボールの張り紙の奥に、小さな自分であれば通り抜けられるフェンスの穴を見つけた。

これで、妹に風船を持って行ってやることが出来る。

そう考えた男の子は、その穴をくぐり抜けた。




「ぼうや!あぶない!!」

男の子が、フェンスの穴から外へ出て行ったところを見て、最初に大声を上げたのは都だった。

都は、悠里が帰ってくるのを待つ傍ら、たまたま、その男の子を見ていたのである。

フェンスの向こうに転がっている花の風船を求めて妹が泣くのを、宥めているように見えた。なぜ、あんなところに風船が転がっているのかまでは解らない。

「これ、あげちゃお」可哀そうに思った都は、お節介かもしれないと思いつつも、さっき悠里からもらった風船を代わりに渡してあげようと思い立ち、男の子の方へ近づいて行った矢先の出来事だったのである。

色こそ違うが、風船の種類も同じお花であるし、ちょうどいいわよね。などと考えていたところで、思いもよらぬ行動を男の子が取ったのであった。

気が付いた母親が、悲鳴を上げる。

他の人々は何事かと、周囲を見回しているだけだ。

子供の方は子供で、花の風船を取ることで必死であり、自分が呼ばれている事に気が付かない。屋上のへりの部分に引っかかっている、花の風船を取ろうと必死だ。

あろうことか、屋上のへりの部分によじ登ろうとしている。万が一、子供が屋上から落ちたら大変なことになるだろう。航輝達の方をみる。騒ぎに気が付いて、必死に走ってきているが、まだまだ距離が離れている。事前に近づいていた自分の方が近かった。

そう考えた都は迷わなかった。

「変・身っ!!」

人前で変身するのは、正義の見方の特権である。

悪の組織の幹部である都は、正体を知られないように物陰で変身するのが通常だが、今はそんなことに構っていられない。

悲鳴を上げている男の子の母親に注意が向いている分、変身を直視している者は少ないだろう。

変身の掛け声とともに、体に内蔵してある変身装置が都をナノ粒子で包む。数瞬後、バイラオーラとなった都は、その場でステップを踏むと、跳躍した。

人のいない所を選び跳躍し、フェンスを軽々と飛び越える。

屋上のへりの部分によじ登ったは良いが、そこから見える地面に足が竦んで動けない男の子の傍らに降り立つと、優しく抱き上げる。

「ここは危ないのよ」

抱き上げた男の子の耳元で囁いた。

男の子が、驚いた表情で大きな目をぱちくりさせる。

この段階で、周囲の人々はバイラオーラの存在を認識した。騒ぎを遠くから眺め、こんな会話をしていた。

「みろ、あれはバイラオーラじゃないか?《ラ・フィエスタ》の女幹部だ!」

「ホントだ!!悪の女幹部が、子供を抱き上げてるぞ!」

「どうするつもりなんだ?!」

「人質にするつもりなんじゃないのか?!あの女幹部、凶暴なんだ。この前、駅前公園でスターライツⅤだけじゃなく、首領のドン・ファンも倒していたぜっ!」

「なんだって!!」

 言いたい放題である。


(や、やば、おおごとになっちゃう)

都は慌てた。慌てて駆け付けたスターライツレッドとイエローがフェンスを乗り越えて到着する。「都っっ!?」航輝が小声で驚いた声を上げる。後ろでは、鋭一も「都ちゃんナイス!」とギャラリーには見えない様に、サムズアップして称賛している。

それを見たギャラリーはさらに過熱する。

「おい、みろよ、駅ビルの屋上にスターライツⅤもいるじゃないか」

「首領にも手におえない女幹部が、また、スターライツⅤを狙ってきたんだな!!」

「でも、かーわいいな」 

「やば、バイラちゃんのふともも写真撮らなきゃ!」

実にのんきなものである。

(え、ええと、ここは適当に乗り切るしかないんじゃないかしら?!)

航輝達だけではなく周りのギャラリーにも聞こえる大きさで叫んだ。

「久しぶりだな!スターライツファイブッッ!!!」

「お、お、おう!」

急に話を振られて、航輝が慌てて返事をする。

「お前達とは、よほど縁があるようだ。尋常に勝負しろ!!」

「お、おい!このまま始める気か!?」

「仕方ないじゃない!適当に切り上げるわよ!」

航輝達に歩いて、近づいていくと、小声で話し合う。

抱き上げていた男の子を下ろすと、鋭一が、抱き上げて保護してくれた。

「都ちゃん、本当に感謝するよ。俺の目の前で子供が不幸になっているのを助けてくれて」

鋭一が子供を抱き上げながら言う。

「この子、お花の風船を取りに来たみたいなの」

都も小声で答えた。

「よし来た、風船の花束でも作ってやるよ。航輝、俺は子供たちとギャラリーを誘導するから後は頼んだ。」

「ちょ!鋭一さんまで!!」

航輝は突然の事に慌てているが、他にどうしようも無い。

「スターライツレッドよっ!人質を取るなどと言った卑怯な手を使って、貴様に勝とうなどとは思わぬ!堂々と勝負せよ!!」

「お、おう!」

航輝も話の流れを追ってはいけないと、とりあえず武器を構えて応戦する構えを取る。

すると、悠里がフェンスの近くまで寄ってきて、大声を上げた。

「……お兄ちゃん!!ビルの支配人と交渉してきたよっ!ビル屋上遊園地は、再来月にリニューアルするみたいだから、12%までの損害ならば、許容してくれるって。」

「仕事が早いな!おい!」

 それを聞いた悠里は、嬉しそうにピースサインをする。

悠里は、騒ぎが始まり、バイラオーラが出てきた段階でこうなることを予測し、戦える環境を整えたのである。

「わかった、戦おう。あの子助けてくれて、ありがとうな」

そういうと、周囲に響き渡る大声を上げた。

「この晴天の日曜に、親子が楽しむ屋上遊園地を襲撃するとは、言語道断!!バイラオーラよ、星の裁きを受けるがよい!!」

 戦いが始まった。

都はパーソナルウエポンの『死神の靴』の戦闘補助システムを入れる。この前最大値にして暴走したので、補助率は七〇パーセント程度にしておいた。跳躍しつつ蹴りを放つ。


その頃、鋭一は、パーソナルウエポンのナックルの能力を解放し、バリアを展開していた。

「はいはいはいー。良い子の皆は、イエローお兄さんのバリアの後ろに隠れていましょうねー。あー、そこの大人の君たちも、バリアの隅っこのほうに入れてあげなくもないから、来ればいいんじゃないかな。」

子供たちを自分の近くに寄せてバリアを展開しているが、大人のギャラリーには結構厳しい。

惜しくらまんじゅう状態になっている子供達に囲まれ、鋭一はおそらく天国の扉を垣間見ている事だろう。

「入れない場合は、そのあたりの物陰に隠れてれば、大怪我しないで済むかもしれない。」

 露骨な温度差に多少不満声も上がったが、スターライツイエローは「緊急時は女子供が優先だ」とある意味正しい台詞を吐き、歯牙にもかけない。

 本当に、徹底している男である。

「……ねぇ、あのロリコンに子供達を任せていいの?私、すごく不安なんだけど。」

「その認識は、実に正しい。都、早く終わらせて、子供達を助けるぞ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ