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安心できない景況感報告ー3

その日も、都は布団の中で蹲っていた。

もう、三日ほど学校を休んでいる。

嫌なことがあると、布団の中で丸くなるのが都のお決まりのパターンである。

この場合の嫌な事と言えば、先日《スターライツⅤ》との戦いの場で、パニックになり『死神の靴』を暴走させてしまった事に尽きる。

かなりの被害が出たみたいであるし、航輝達《スターライツⅤ》にも、だいぶ迷惑をかけてしまった。

航輝を助けるために、悪の女幹部として参加したのに。

どんな顔をして合えばいいのだろう。

航輝からは、あの後、何度かメールを貰ったが、申し訳なさすぎて返信できずにいた。

「うーうーうー」

布団の中で寝返りを打つ。寝てるわけでは無い。口から出る声は、言葉になっていない。

髪を結わく手間も煩わしく、いつもはポニーテールにしている髪は、ただ自然におろしているだけだ。

ゴロゴロと寝返りを打つものだから、長い髪は至る所でほつれている。

航輝も悠里も、《ラ・フィエスタ》の戦闘員達ですら、みんな作戦を遂行する為に、頑張っていたのに。結局は、「ただ恥ずかしかったから」なんて理由で、わけが分からなくなり、逃げ出してしまった。

そのせいで、作戦は大失敗。《スターライツⅤ》が名声を上げる機会を潰してしまった。

「一肌脱いであげる」だなんて考えていた事が恥かしい。


(覚悟が足りなかったのは私の方だ……)


そう思う。

自分は女幹部なのに、作戦会議には参加せずに、人前で恥かしくないかどうかという事だけを悩んでいたのだ。

何処か「お客様」みたいな感覚が無かっただろうか……。航輝や重蔵の作った作戦に、ただ従えば良いとは思っていなかっただろうか。

そんな事だから、ちょっとしたイレギュラーで混乱しまったのかもしれない。

三日前の自分に、かかと落としでもくらわせてやりたい気分である。


「そうだと言っても、恥ずかしかったのよねぇ」

冷静に、考える思考とは別に、「だって恥ずかしかったのだ」という思いも存在する。

あのギャラリー達、実に勝手な事を言ってた。――そもそも、何かあると、皆でよってたかって携帯電話とかで写真を撮る感覚が理解できない。

百歩譲って、それらが組織の名声につながるとしても、「もっと目線、頂戴っ」とか「もっと扇情的に腰をくねらせてー!」とか、何を考えているのだろう。

それも含めて『覚悟』だと言うなら、自分には、一生足りそうにない。


その様な思考が渦巻き、都は身動きが取れなくなってしまったのだ。

三日も学校を休んでしまったので、皆きっと心配しているだろう。

明日には、行かないとなぁ……などと考えているところで、階下から父の重蔵の声がした。

「みーやこぉー。おーい、みーやこー」

「なぁーにー!?」

大声で返事をする。

この三日ほど、家事も殆どしなかったから、その間の食事の支度は重蔵がやってくれた。といっても、店屋物であるが。

「おお、起きていたか。よかった。さっき航輝君から電話があってね」

「う、うん」

何だろう。

「今日、商店街のバイトの帰りに、こっちに寄るって言っていたよ」

「えっ。い、いつごろ来るって?」

「バイト次第だけど、6時時ぐらいですって言ってたけどねぇ」

慌てて時計を見れば、午後5時を回ったところであった。

「なんで、もっと早く教えてくれなかったのよーっ!」

つい声を荒げてしまう。

「何度も、声を掛けてたよーぅ」

父はどこ吹く風だ。

見れば、携帯の方にも同じ内容のメールが入っていた。もう二時間も前に着信していたが、考え事をしていて気が付かなかったのだろう。

それにしても、あと一時間ぐらいで来てしまう。都は焦った。

普段なら余裕で、準備が出来る時間だが、今に限ってはそうではない。

部屋の姿見を見ると、そこにはひどい状況の自分が写っているのだ。髪はぼさぼさだし、所々絡まっているし、目は真っ赤に充血している。目の下には三日分のくまも出来ていた。

急ぐ必要がある。

階段を下りると、風呂場へと急ぎ、湯を張る。

重蔵が、「航輝君と食事でもしてくるか?」などと言っているが、それはやめておく事にした。

疲れている航輝につき合わせるのも気が引けたからだ。部屋も片づけていないから、外で話すとしても、その辺を歩くだけにしよう。少なくとも航輝には、そう提案してみるつもりで、都は風呂に入った。

風呂の温度は、熱めに設定してある。

体を洗い、湯の中に身を沈めると、疲労が溶けだしていくように感じを受ける。吸い込む湯気が、喉のあたりも温めてくれるのが心地よい。

寝不足で、ぼーっとしている頭が少しだけ覚醒したような気がした。

「ふーっ……」

いつまでも、こんな風にはしていられない。

航輝も心配で来てしまった程なのだから、周囲からもかなり心配されているのだろう。

都は湯船に顎まで浸かるとしばらくの間、考えていた。

一度、頭まで湯につかると、やがて決意する。

「うん、謝ろう」

暴走したことを謝罪し、許して貰うのだ。まずはそれからである。

湯船から出ると、湯気で曇った鏡を磨き、顔を確認する。

「よし、大丈夫」

目の下のクマは目立たなくなった……と思う。目が赤いのは勘弁して貰おう。

ペパーミントグリーンの下着の上にキャミソールを着て風呂場を出た。

いったん自室に戻り、着ていく服を探す。

航輝は、あと二十分ぐらいで来てしまうだろうから、そんなに長くはかけられない。

悩んだ結果、七分丈のレギンスとコットンのロングシャツを選んだ。これなら、おかしくは無いだろう。

夕方で肌寒くなってきたが、上にカーディガンもを着ていけば良い。


着替えて、階下に降りた所で、航輝が訪ねてきた。

玄関先で重蔵と話し込んでいる。

「おお、都。ちょうど今、航輝君が来てくれたところだよ」

重蔵が都に言った。

「おう、元気か?」

「う、うん……」

航輝が、手を上げて挨拶する。

開口一番、謝ろうと思っていたが、いざ、顔を合わせると中々言い出しづらい。

航輝は重蔵と目配せを躱すと「ちょっと、散歩しようぜ」と都を誘った。

二人で、近所を散策する。

夕方六時とはいえ、この時期になるとかなり薄暗い。街灯のある場所を選ぶようにして歩く。

近所の、公園に運よく誰もいなかったので、ベンチに座ることにした。

航輝は学生服のままだ。

「バイト帰りなんだっけ?」

「ああ、そうだよ」

なんとなく聞いた質問に、航輝が答える。

「なにやってるの?」

「夕凪駅前の百貨店あるだろ」

「うん」

「あそこの屋上で、風船配りとヒーローショウやってる。今度見に来いよ、本物の正義の味方によるヒーローショウだぜ。なかなか見れるもんじゃない」

「そ、そう……」

夕凪商店街のある南口とは反対側、北口駅前の高松屋のことだ。

この前の作戦が成功していたら、そんなバイトなどやらないでも済んだかもしれない。

そう思うと、都は、いてもたってもいられずに、航輝に向かって謝った。


「ご、ごめんっ!」


思いのほか大声になってしまった。向こうも、驚いているようだ。

「ほんっと、ごめん!この前は、私頭真っ白になっちゃって……その、驚いちゃったっていうか」

謝ろうとは思っていても、どんなふうに謝ろうか、ちゃんと決めていた訳じゃない。

結局、しどろもどろな弁解になってしまった。

こんなので、ちゃんと謝ったことになるのだろうか。喋りながら、困惑してくる。

航輝は、暫くそれを聞いていたが、やがて。

「大丈夫だよ、都。月並みな言い方になっちゃうけど、ホントに気にしていない」

と、言った。

航輝は、そろそろ見え始めた星を見上げながら言う。

「失敗は誰にでもあるさ。それに、謝るのは俺の方だよ。都が、ずっと悩んでいたのを、杉山さんから聞いたんだ。バイラオーラのコスチュームのことで悩んでたんだろ?」

「う、うん」

「でも、俺は作戦を練る事に夢中で、悩みを考えてあげられなかった」

航輝は航輝で悩んでいたようだ。

自分の事を考えていてくれて、胸が熱くなる。

許して貰えたのかもしれない。

「でも、私、《スターライツⅤ》にまで迷惑をかけて……」

「だれも、迷惑だなんて思っちゃいないよ。俺だってギャラリーの言葉を気にしちゃうと、たまにイライラしちゃうからね」

「そうなんだ」

「そうだよ。だって『おい、ありえないだろ。そこで必殺技じゃないのかよ』とか『なんで、スクールバスの防衛にヒーローが出て来るんだよ……』とか、いわれてみ?余計なお世話だっ!って怒鳴ってやりたくもなるさ」

「そっか……」

確かに、それはイヤなものである。

都が、されたような事を航輝達は何度も体験してきたのだ。

「ああ。周りで見に来る人の口コミも、有名になるためには必要なんだけどね。ベテランになればなるほど、周りの言葉を耳に入らない様にする術を身に着けるんだと」

難しいものである。都のバイラオーラの場合、そんな特殊な技を身に着けるよりも上半身のコスチュームのデザインを変えれば良いような気もする。

「なぁ、みやこ」

「なに?」

 航輝は、への字口をさらに歪めながら、おずおずと聞いた。

「これからも、その、バイラオーラ、やるの?」

「うん―――それは、だいじょうぶ」

航輝達に迷惑をかけたままにして置くなんて出来ない。

「おう、ちょっと安心したよ」

航輝は、安堵の表情を浮かべる。それを見た都も、少し胸のつかえが取れた気がした。

迷惑をかけたことには変わりないが、それを許してくれたようだ。

「ただ、ちょっとあれだな。その……」

航輝は言うか言わないか悩んでいるようだ。

「なに?」

「バイラオーラの場合、ちょっとコスチュームを直したほうが良いのかもしれない」

「や、やっぱ。むちむちで見苦しい?」

「いや!そういう事じゃないんだが……なんとゆーか」

はっきりしない。

「なによ」

歯に何かが挟まったような言葉が嫌いな都は、少し強めに聞く。

「ああ、うん。さっき偉そうに周囲の目線を気にしないとか言っていたところ悪いのだけど、お前のそういう姿をだな……」

「すがたを?」


「……他のやつにあんまり見せたくない」


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