安心できない景況感報告ー2
あの駅前商店街での惨事から3日間、都は学校を休んだ。
恥かしさのあまり、航輝と重蔵を蹴り飛ばしたばかりか、広場の特設会場を破壊。
《ラ・フィエスタ》の首領像の首をへし折り、ついでにアドバルーンの土台も破壊して逃走してしまったのだ。
油断していたとはいえ、あの蹴り技は、正直効いた。
スターライツレッドのコスチュームを着ていても、意識が飛んだぐらいである。
鋭一などは「いくら一人娘だからって、強化しすぎだよなぁ。あの親父、娘のパーソナルウエポンに、一体いくらかけてんだ?」などと、呟いていた。
そんな鋭一も、暴走するバイラオーラから特設会場を守る際に脇腹を痛烈に蹴りこまれている。あれは、ヘタな首領級パーソナルウエポンより、強化されていたのではないだろうか。
航輝の通う学校、夕凪高校では、二つの話題で持ち切りだった。
一つは、《サンクチュアリ》が、夕凪市からそう遠くない町の上空で、悪の大組織を壊滅に追い込んだこと。
そしてもう一つは、夕凪駅前商店街に突然現れた、悪の女幹部バイラオーラが、たった一人で商店街と広場を半壊させたこと。
前者はともかく、後者は少し事実が捻じ曲がっている気がする。
なにしろ、その場には、航輝たち《スターライツⅤ》も、バイラオーラの上司である首領もいたのだから。
周囲の会話に耳を澄ませば……
「なぁ、ニュース見た?」
「ん?《サンクチュアリ》が《トータル・ディプロヴァリー》を壊滅させたことか?」
「ちげーよ。駅前商店街の事だって」
「あああ、見た見た。バイラオーラちゃんだろ?!」
「そうそうそう!商店街に突如現れて、滅茶苦茶にしていった、あのセクシーなねぇちゃん!!」
「かっけーよな!」
「ああ、あのムッチむちな肉感的なボディがたまんねぇ。」
「俺は、あの太腿に挟まれたいぞっ!!」
などと、都が聞いたら、また暴走してしまいそうな事を大声で喋っている。
これは、この三日の間、休んで正解だったかもしれない。
とりあえず、アイツ等は後で難癖でもつけて殴ろう。
またある処では……
「私、あの日は塾の帰りに駅前通ったんだけど、その時じかに見たわよ。これがその時の写メ」
「ぉおぉぉ!すげぇ!どうだった?」
「んー……遠くだったから、何言ってるかまでは解らなかったけどぉ」
「うんうん。颯爽とした雰囲気だったよなぁ」
――颯爽とだっただろうか?
「突然出てきて、どっかの正義の味方を蹴り飛ばしてぇ、自分の所の悪の首領も蹴り倒して暴れてたよ」
――だいたいあってる。『だいたい』だが。
航輝はというと完全に『バイラオーラに、最初に蹴り飛ばされた正義の味方』という位置づけだった。
「すげぇ、見境無しじゃねぇか!!」
「さすが悪の女幹部。やることがえげつねぇぜっ!!」
――暴走してたからね、あれ。
などと、心の中で突っ込みをいれるが、決して口には出せない。
バイラオーラの暴走が強烈だったのか、航輝達《スターライツⅤ》は名前すら報道されていない。
写真では、蹴り飛ばされている悠里の姿が半分だけ写っている程度だった。
あれから、航輝達は重蔵と共に商店街の皆さんへ謝罪して回ることになった。
痛手だったのは、暴走した都が、商店街の特設会場とアドバルーンを破壊してしまった事である。破壊していいものでは無かったので、当然、弁償しなければならない。
重蔵は、「うちの娘が迷惑をかけたのだから、全部ウチが出す」と言ってくれたが、悪の組織から街を守れずに破壊されたにもかかわらず、その破壊した悪の組織に支払わせるわけにはいかない。
すったもんだの挙句に、結局、折半することになった。
航輝の前の席に誰かが座る。友達の瀬古だ。
「おっす」
「おう」
適当な返事を返す。
「どうした?今日はやけに静かだな」
「すこしな」
瀬古の問いに、言葉を濁す。
本当はバイラオーラに蹴られた腹が痛むので、動き回るのが辛いのだ。
蹴られた当日の夜など、七転八倒の苦しみであった。今でも大あざが出来ている。
「なぁ、色男」
「どこが色男だ。おまえねぇ、人聞きの悪い事、言うもんじゃないよ?」
「じゃぁ、好色男」
「もっと悪いわ!」
この男と話していると、いつもこの調子である。
「そこの入り口に、貴様の誘惑した者が待っている」
航輝の言葉など、どこ吹く風で、瀬古は教室の入り口を指して言った。
何のことだと見れば、隣のクラスの杉山が所在無げに佇んでいるではないか。
「してねぇって。おまえ、杉山さん知ってるだろ?都の友達の」
「まぁ、顔と名前ぐらいはな。その志摩 都の事で、聞きたい事があるそうだ」
航輝も、おそらくそうだと思っていた。
友達が何の前触れも無く休んだので、事情を知っていそうな航輝に聞きにきたのだろう。
瀬古にとりあえず礼を言うと。杉山の待つ教室の入り口へ移動する。
「呼び付けて、ゴメンねぇ」
「いや、問題ないよ。都の事だろ?」
先手を打って聞いたので、杉山は大きな目をぱちくりとして驚いていたが、何やら一人で納得した様子で話し出した。
「うん、都、今日も休んじゃったの。理由も無く休む娘じゃないから、ちょっと心配で……天地君は何か知らない?」
物凄く知っているが、喋るわけにはいかない。
さぁどうしたものかと考えていると。杉山はさらに言葉をつづけた。
「都ねぇ、先週の間ずっと、何か悩んでいたみたいでさぁ。私も話し相手になろうかと思ったんだけど、どうも話を避けてたみたいだしぃ。聞かないでおいたんだけど」
先週と言えば、都がバイラオーラとして作戦に参加する準備をしていた頃だ。
「それで、三日前から休んでるでしょー?だから心配になってさぁ――――天地君なら何か知ってるかもって」
杉山は、航輝を下から覗き込んだ、女子高校生の平均身長よりもかなり小さい杉山と航輝が並ぶと、見上げる形になる。
都を心配して聞いてきてくれたのだ。無碍にはできないが、本当の事を言うわけにもいかない。とりあえず、誤魔化すしかないかと考えた。
「俺もそんなによくは知らないんだけどさ。なんか卒業後の進路の事で悩んでいたみたいだよ」
あながち嘘は言ってない。
悩んでいた進路が、悪の組織の女幹部かどうかと言うだけの話である。
「で、今日休んだのは、疲れが溜まって具合悪くなったんじゃないのかなぁ。……直接聞いたわけじゃないから解んないけど」
精神的疲労も、疲れには変わるまい。
とりあえず、これで納得してもらおう。
「うーん。そっかぁ。それなら良いんだけどさ……メールも帰ってこないし。ちょっと心配なんだよねぇ」
「そうか。じゃぁ、俺の方からも連絡取ってみるよ」
「うん、お願いね。何かわかったら教えてねぇー」
杉山は、そう言うと自分の教室に戻っていった。
航輝も、何もしていないわけでは無い。
都の様子が気になった航輝は、その日のうちに志摩家へ電話を入れていた。
電話口に出た重蔵の話では、「航輝に迷惑をかけて、顔向けできない」と嘆いているのだそうだ。
「迷惑なんて、考えてもないんだけどなぁ……」
そもそも、都の仲介が無ければ《ラ・フィエスタ》とは闘うことも出来なかったのだ。
一度や二度、失敗するぐらい何でも無い。
それに、見方を変えれば、バイラオーラの実力に航輝が負けたという事でもある。
「あいつは、考え過ぎるタイプだからなぁ……」
航輝は杉山の話を思い返した。
そんなに悩ませてしまっていたのか。
杉山の話では、都は先週の間ずっと何かを悩んでいる様だったと言っていた。順当に考えれば、それは勿論、バイラオーラとして人前に出るかどうかの悩みだったはずだ。
航輝は先週の間、重蔵との打ち合わせ等で忙しく、あまり都と話していなかった。
その間も、都は悩んでいたのだ。
もし、航輝がちゃんと話を聞いていたら、あの時のように暴走することは無かったかもしれない。
もう少し都に配慮するべきだった。
「やっぱ、今日の帰りにでも、寄ってみるべきだよなぁ……」
航輝は、残りの授業中そう考えていた




